深まる謎
「フム、ほうほう……それで? なる程なのじゃ」
一同が声の方を見ると、ルーシェリアが新たに生まれた八つ子と、ヒソヒソ話をしていた。
「ん。もしかして、なにか聞き出せたのか?」
「そうじゃな。サタナトスについて、多少は解かったのじゃ」
漆黒の髪の少女は、蒼い髪の少年に向かって言った。
「ヤツは、この者たちの祭壇を、長らく『根城』にしておったそうじゃ」
「それは、恐怖の魔王『モラクス・ヒムノス・ゲヘナス』のコトか?」
プリムラーナが質問する。
「そうじゃ。ご主人サマに八つ裂きにされ、八つ子となる前のな」
「八つ裂きって、人聞きが悪いな。でも、なんで祭壇なんかに?」
「祭壇というても、地下祭壇での。モラクスの巨大な牡牛の姿の像があって、その中で信者たちが生贄の人の子供たちを、焼き殺すのじゃ」
「ひ、酷い!?」
「人間とて、動物を生贄とする宗教もあろう。我ら魔族からしてみれば、人間とは別の種族なのじゃからな、パレアナよ」
「そりゃ人間だって、神に羊とか獲れた魚とか捧げたりするケド……」
ルーシェリアたちが少女の姿となって、魔族と人間も随分と解かり合えるようになったと思った舞人だったが、まだ大きな隔たりがあるのだと感じた。
「場所は、魔族の間で『恐怖の谷』と呼ばれる渓谷の、干上がった湖の真下じゃ」
「そこに、サタナトスが居るのか?」
「今もおるかは解らぬが、手掛かりくらいは遺されているやも知れん」
「ならば、行ってみる他あるまい」
「そうだな、グラーク公。だが、軍を指揮する我らが動くコトは出来んぞ」
「恐怖の谷……もしかして、ムオール渓谷のコトでしょうか?」
ヤホーネスの皇女レーマリアが、プリムラーナに目を向ける。
その後、一同はニャ・ヤーゴの城へと戻って、渓谷の位置を確認した。
「どうやら祭壇の場所は、ムオール渓谷で間違いない様だな」
「イティ・ゴーダ砂漠の北東に位置する、礫岩の山岳地帯か」
地図を指し示しながら、地理を確認する天才軍略家と女将軍。
「そう言えば最近、ムオール渓谷近くの村で、『村人が丸ごと消え村が廃墟と化した』との報告が上がって来てます」
「マジかよ、レーマリア。もしサタナトスの仕業だとすれば、マズイコトになってるかもな」
「マズイって、どうなっちゃってるのよ、シャロ?」
「ヤツの剣の能力は、『人を魔王に変える』んだぜ」
「それじゃ村人がみんな、魔王にされちゃったって言うの?」
「魔王だらけの村って、最悪なコトになってねえか、オイ!?」
「いや、それは違うじゃろ。のォ、ご主人サマよ?」
「そうだね、ルーシェリア。ボクも、それは無いと思います」
二人は、カーデリアやクーレマンスの予想を否定した。
「どう言うこと、舞人くん?」
「なんで、違うって言い切れるんだ?」
「あの、ボクの『ジェネティキャリパー』での話なんですケド……」
筋肉男に迫られて、少し自信を無くした舞人が説明する。
「魔王では無い普通の魔物を斬ると、女の子にならずに消滅しちゃうんです」
「つまりは魔力の小さな魔物は、と言うコトじゃな」
「もしサタナトスの剣も、同じ能力だとすれば、村人は既に……!?」
一同は、言葉を失った。
「モノは考えようと思う他あるまい。ヤツの剣が、人間誰しもを『魔王』に変えられるのであれば、今頃ヤツは『魔王だけで構成された軍隊』を手に入れている……」
合理主義のオフェーリア人も、自分の言葉を簡単には呑み込めないでいる。
「でも、どこまでがそうなの?」
カーデリアは、膝に乗せた赤毛の少女に聞いてみる。
「アンタは魔王になったケド、わたし達でも斬られたら『魔王』になっちゃうのかなあ?」
「知るかよ、そんなの。オレの剣でもね~のに」
赤毛の少女は、幼馴染みの疑問を一蹴した。
「……これはあくまで、推測の域を出ない話だが、サタナトス自身もそれを解っていない可能性がある」
グラーク・ユハネスバーグが言った。
「ヤツが、自身の剣を手に入れたのは、最近では無いのか。そう思えてな」
「……って~と、自分の剣の能力を、完全には把握してねえってコトか?」
「確かに言われてみれば、そんな感じじゃった気はするのぉ」
「故に、村の住民を使って、剣の能力実験を……」
「止めて下さい。そんなの……そんなの酷過ぎます!」
戦慣れした皆の冷徹な分析に、耐え切れなくなった栗毛の少女が叫んだ。
「パレアナよ。お前は優しい娘なのだな」
プリムラーナが、シスター見習いの少女に手を添える。
「だが我々は、それを知って置く必要がある。サタナトスの目的、能力、過去……をな」
その後、正式にムオール渓谷の調査が決まり、調査隊が編成された。
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