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萌え茶道部の文貴くん。第七章・第三話

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上映会の記憶

 大茶会の日から、数日が経っていた。

 渡辺は、名古屋を走る私鉄の、赤い色をした電車に乗っている。
彼の目の前で、つり革に手を突っ込んだサラリーマン風の男が数人、情報交換をしていた。

「一時期、醍醐寺グループは、千乃コンサルタントの親会社に吸収合併されるって噂もあったよな?」
「今のところ、そんな動きは無いよなあ。一体何だったのかねェ」

「ああ。何でも醍醐寺 劉庵翁が、千乃コンサルタントに引き抜かれた重役たちに頭を下げて周って、株の買戻しに成功したらしいぜ」

「マジかよ。あのプライドと、権威の塊みたいな爺さんがかぁ?」
「社長として現場復帰するって噂も、ホントかもな」

 眼鏡の少年は、噂話を何となく上の空で聞いていた。

「でも、それだとよォ。醍醐寺 草庵の若社長はどうなるんだ?」
「それが悲惨な話でさあ。今回の失態の責任を取らされて、平社員に降格だとよ」
「うげえ、それクビって言ってるのと同じじゃん。オレなら絶対辞めるわぁ!」

 渡辺は、次の駅で降りる。
サラリーマン風の男達は尚も噂話を続けていて、それを電車が運び去って行った。

「もう直ぐ七月かあ。オワコン棟の解体まで、あと何日も残って無いんだなあ……」
 渡辺は、夏も近づいた感じのする青空を見上げた。
メガネのレンズに、湧き立つ入道雲が映る。

 絹絵はその後も、キワモノ部の皆で探し続けたものの見つからなかった。

 双子の浅間 楓卯歌と浅間 穂埜歌は、義理の姉が用意した簡易マンションに住むことは無く、理事長・兼学園長でもある醍醐寺 五月のマンションに落ち着く。

 大茶会での双子が点てた抹茶に、学園長がいたく感動したのがきっかけらしかった。
夫とは相変わらず別居中だが、双子の計らいもあってか、寄りを戻すことも考え始めているらしい。

「楓卯歌ちゃんと穂埜歌ちゃんも、元気にやっているみたいだ。あのままウチに居続けられるのも困るケド、二人が居なくなると何だか物寂しいもんだ」

 渡辺は改札に切符を潜らせ、駅を出る。

「……前回は、自転車で道に迷って、彷徨いまくった挙げ句、こんなところまで来てたんだな」
 少し寂れた駅前商店街を、ぶらぶらと歩き抜けた。

「醍醐寺 沙耶歌副会長も、双子の義妹たちと示し合わせているらしいからな」
 橋元の話だと、彼女の母親でもある理事長と寄りを戻させようと、平社員に降格となった父親に対して、厳しく口やかましく接しているらしい。

 意外だったのは、社長にまで登り詰めた醍醐寺 草庵が、実の娘に急き立てられているとはいえ、会社を辞めなかったことだ。

「副会長も最近は、清純で高貴なイメージとは、かけ離れて来た気がするなあ。橋元の奴も、可哀想に……フフッ!」
 渡辺は遠くの山々を眺め、ほくそ笑んだ。

「まあいいさ、奴にとってはいい薬だ。橋元の野郎、オレが撮った大須のときの映像を、こっそり編集して上映会で流しやがった。本来上映する筈だった、大茶会のときの映像とすげ替えてな!」

 上映会の時のスクリーンには、大須のステージで踊る、巫女風レオタード少女たちのお尻、水鉄砲でサバゲーを愉しむ迷彩水着少女たちのお尻、ミニのチャイナ服少女たちのお尻、ミニスカメイド服少女たちのお尻、フェンシングの防具を付けた双子のお尻……などが映っていた。

「あんにゃろう、別にお尻だけ撮ったワケでも無いのに、とんでも無い編集をしやがって!」
 (大茶会をピークに上がり続けたオレの『株価』は、その日『大暴落』を起こした。)

「……まあ、確かにお尻に目が行ったのも事実だが、男として当然の条件反射だろ!」
 渡辺は、ブツクサと、独り言を垂れ流しながら歩く。

「まったく、先パイまでオレのことをヘンな目で見るんだもんな~」
『フーミンって、お尻フェチだったんだ~?』
「……と言われた時の、残念そうな美夜美先パイの表情が、頭から離れん!」

 今はやっていないタバコ屋の角を曲がると、今回の『目的地』がそこにあった。

 店の看板には、ポップな犬や猫の絵が描かれている。
近づくと、動物の匂いと、少しだけ薬品の匂いも入り混じっていた。

「ごめん下さ~い。電話をした名古屋の者ですが~?」
 渡辺は、開け放たれていた店の入り口を抜け、光の漏れる奥へと入って行く。

「……おお。あの時のキミだったか。久しぶりだね」
 マン丸の眼鏡を掻けた店主は、親しそうに渡辺に挨拶をした。

 

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