ラノベブログDA王

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萌え茶道部の文貴くん。第七章・第二話

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先パイと後輩

 次の日、授業を終えたオレは、いつもの様に茶道部の部室に入る。

「あ、先パイ。フウカちゃんとホノカちゃんも、もう来てたんだ」
 室内では既に、千乃 美夜美と双子が抹茶と和菓子を愉しんでいた。


「二人のお茶碗、フーミンが買ってあげたんだって。偉い偉い」
 浅間 楓卯歌の机には、『志野焼のピンク色の気泡の多く含んだ茶椀』が置いてある。
浅間 穂埜歌の前には、『唐津焼の垂れ穂の描かれたグレーの茶碗』が置いてあった。

「我が茶道部の、伝統らしいですからね。それに習ったまでですよ」
「ホウ、それは感心、感心」
 千乃 美夜美は優雅に、藤色の抹茶茶碗を口元へと持って行く。

「わたしが居ない間に、こんなに可愛い後輩を見つけてるなんてね」
「美夜美先パイ、とっても美人だし」「優しいし大好き~♪」
 双子は既に、千乃 美夜美の『やわらかオーラ』の虜になっていた。

「……美夜美先パイ」
 渡辺は、何か言いたげな表情をする。

「アレェ。フーミンとは同じクラスじゃない。先パイはよしてよ……」

 先パイは、一年近くも学校に来なかったのだ。
出席日数が足りる筈も無く、先パイはオレと同じ学年となり、オレのクラスに編入して来ていた。

「そ、それじゃ、わたし達……」
「今日は先に帰りますね」
 気を利かせてくれたのか、双子は茶碗を仕舞うと、そそくさと部室を退出する。

「なんか、久しぶりだね。フーミンとこうしているのって……」
 茶道部に残されたオレと先パイは、暫しの沈黙の時間を味わった。

「一年前は自然に話せたのに……なんか緊張しますね?」
「だね~♪ なんでだろ?」
 そう言うと千乃 美夜美は、畳の間に座って茶筅を取った。

「久しぶりついでに、わたしがお茶を点ててしんぜよう」
 藤色の抹茶茶碗に、ヨモギ色の泡が点つ。

「ど、美味しいかしら?」
「けっこうなお点前ですよ……先パイ」
 約一年ぶりに口にした『先輩の抹茶』は、優しい味がした。

「ねえ? この藤色の茶碗……まだ持っててくれたんだね」
「当然じゃないですか」
 当時の部室の、火事の後の悲惨な状況を思い出す。

「先パイ、この茶碗になんて名前を付けたか覚えてます?」

「もちろん!」
 少女は、自信満々の目で答えた。

「……わたしね。昔から星を見るのが好きだったの」
 先パイの言う昔とは、オレが生まれるより遥か昔なのだろう。

「人間が発明した望遠鏡で無くても、昔は夜空にたくさんの輝く星が見れたわ」
「人の営みが……夜空の星を消してしまったんですね」
 ここに居るのが、何百年という時間を生きた『キツネ』なのだと実感した。

「どんな生き物だって、何かを壊していきているわ。人だけを責めるなんて、おかしいじゃない」

「先パイ、キツネの中でも、相当な変わり者で通ってません?」
「う、うるさいなあ。キミはいちいち、生意気なんだよ」
「す、すみません」

「でも宇宙に想いを馳せるのは、人間もキツネも同じだよ」
 畳の間に正座をしながら、澄んだ青空を見つめる先パイ。

「ガリレオが見つけた木星の衛星『カリスト』。蒼い海原を持った宝石みたいな惑星『ネプチューン』。両方とも大好きな星よ」

「二つを合わせて、『カチュリーン』……なんですね」
     オレは『藤色の茶碗』を軽く指で弾くと、澄んだ音色を鳴らした。

「こら~、そこ……笑うトコじゃないでしょ!?」
 ふてくされて、頬を膨らませる先パイ。
「学年は同じでも、一応は先パイなワケだし」

「あれ、先パイって呼ぶなって、言ってませんでしたっけ?」
「フーミン、やっぱ生意気で可愛げが無い後輩だぁ~!」
 オレと先パイは、思い切り笑った。

「先輩……あのまま居なくなって、また山に還っちゃうんじゃないかと思ってました……」
壊される運命にある部室の窓は、斜陽の光を通過させる。

「そうね。わたしもそうするつもりだったんだケド、ウチは母親が厳しくて……ね」
「母親って……大妖怪の玉忌さんが!?」

「人の母親を、大妖怪なんて呼ぶんじゃな~い!」
 美夜美先パイは怒って興奮したのか、耳とシッポがポンッと現れる。

「キツネ美少女ってのも……いいモンだなあ」
「フーミン、いい加減にしなさ~い!」

「いでででで! ふぇんぱい……ひたいぃぃ!」
 先パイはオレの頬っぺたを、思い切りつねった。

 

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