揃わないパズルのピース
「ヒィ、昨日は疲れたぜ。オレも久しぶりに、本気出して喋ったかんな」
取り壊しの決まったオワコン棟・茶道部の畳の間で、最後の安ら義の時間を愉しむ生徒会長。
「フウもォ~。くたびれたぁ」
「ホノだってェ~。クタクタだよォ」
生徒会長の隣で、川の字になって寝ている双子姉妹。
彼女たちも、だいぶ本性を晒け出す様になっていた。
「橋元も、 楓卯歌ちゃんと穂埜歌ちゃんも、ホントによく頑張ってくれた」
「なんだよ。そりゃあお互い様だろ」
「大茶会を成功させたのは、渡辺先パイなんだから」
「凄いのは、先パイの方ですよ」
「ボクだけの力じゃ、何もできなかった。みんなのお陰だよ」
「だけどよォ。この古びた部室とも、もうすぐお別れかよ」
「確かに、この寝心地は最強!」
「醍醐寺じゃ、畳に寝るなんてあり得なかったから」
「何言ってやがる。ここじゃ、抹茶茶碗に美少女フィギュアが、突っ込まれてるんだぜ」
「確かに、そっちのがあり得ない」
「だけど、少しだけ慣れたかも?」
抹茶を点てながらも渡辺は、微笑ましい気持ちで三人の部員を眺める。
でも、この部室にはまだ、足りない女性が二人いる……。
そんなコトを考えていた折、部室の扉が『コンコンッ!』っとノックされる。
「はあい」「どちら様ですか?」
双子姉妹は畳から起き上ると、他所行きのすまし顔を作って、部室の扉を開けに向かった。
「またキワモノ部の誰かが、『挨拶』か『冷やかし』にでも来たのか?」
橋元は、漫画雑誌を顔の上に広げながら呟く。
一日前の雄弁な実況が、ウソのように、ダラダラと寝転がり続ける。
「……フーミン部長。もう一度わたしを、茶道部に入部させて貰えますか?」
そこには艶やかな、蒼味を帯びた黒髪の少女が立っていた。
双子姉妹は気を利かせて道を開ける。
「はい、美夜美先パイ。よろこんで」
渡辺は、一年近くも探し続けた少女の手を取った。
「なに、畏まってるんですか、美夜美先パイ」
「昨日、いっしょにお茶を点てましたよね」
双子は、美夜美の両腕にぶら下がるように、美人の先パイを部室に引き入れる。
「何はともあれ渡辺。これで元鞘……とまでは、行かねえか?」
「そうだな。もう一人だけ、ここに居なくちゃいけない女性がいるんだ」
渡辺は、高く澄んだ空を仰ぎ見た。
その後、キワモノ部のメンバー全員が、茶道部の小さな部室に集う。
盛大な『オワコン棟・お別れパーティー』が催された。
「昨日の大茶会は、大成功だったね!」
「色々あったガオ」
「ホント大変だったアル」
「でも、嫌なコトもあったけど、楽しかった……ポヨン」
「副会長とも、仲良くなれたしさ」
「わたしもよ。礼於奈や柚葉たちと友達になれるなって、思ってもみなかったわ」
そこには、醍醐寺 沙耶歌生徒会・副会長の姿もあった。
「でも、渡辺が居ないってなったときは、ボクもマジで焦ったよ~」
「何にしても、間に合って良かったのじゃ」
「大体、どこ行ってたアル?」
「実は、絹絵ちゃんを探しに行っていたんだ……」
「え? 絹絵がまだ見つかってないガオ?」
「……うん。でも、必ず見つけるから」
集まった一同は、『一つだけパズルの欠片が足りないこと』に気付いた。
「こうしちゃ居られないじゃない」
「ボクたちも探すの、手伝うよ」
「水臭いコトは無しアル~」
その日、オワコン棟のメンバーは、疲れが残っているにも関わらず、総出で学校の周辺を探し回る。
しかし、皆の努力は報われるコトは無く、絹絵は見つからなかった。
「美夜美先パイの言った通り……絹絵ちゃんは多分、人間界(ここ)には居ない……」
渡辺は、この結果が何となく解っていた。
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