魔族と人の国
「しかし少年よ。キミの剣は本当に『魔王を少女の姿』に出来るのか?」
グラーク・ユハネスバーグが、舞人に問う。
「はい。ボクと言うよりは、このジェネティキャリパーの能力なんです」
「ここに、大量の『生き証人たち』がおるしのォ?」
「無礼な物言いをする……心外」
「別に証拠として、ここに居るワケじゃ無い」
ルーシェリアに対し、ネリーニャとマリーニャが噛み付いた。
「彼女たちは、先の夜中に街を襲った邪神ではないのか。かの戦いでは墓地から死者が甦り、街にも多くの被害が出たのだ」
グラーク公の目に、鋭さが増す。
「ですがグラーク公。ルーシェリア殿は、シャロリューク殿が魔王と化したときサタナトスと戦い、これを退けるのに貢献したのです」
プリムラーナ女将軍は、平和的な口添えをした。
「退いてくれた……が正しいがのォ」
ルーシェリアは、情報を訂正する。
「プリムラーナ将軍は、彼女たちを許そうと考えておるようだが、彼女たちが本当にかつて魔王だったのであれば、多くの人間を殺して来たのだぞ?」
グラークの台詞には、『元魔族に対する敵意』が入り混じっていた。
「ああ……その通りじゃ」
「別に、否定するつもりも無い」
「何なら今、ここで戦うか?」
ルーシェリアと、ネリーニャとマリーニャの双子は、魔族の凍った目を見せた。
「ま……待って下さい。ルーシェリアも止めるんだ!」
両者の間に慌てて割って入る、蒼髪の少年。
「こんなところで、どうして争う必要があるんだ。今じゃ敵対もして無いのに!」
「確かに、合理的意見ではあるな。キミが従えているウチは、問題あるまい」
舞人の言葉を入れ、グラーク公は剣から手を外した。
「フフ、オフェーリア人らしい物の考えだな。グラーク公」
「我らは、『無駄』を嫌うのでね。合理的整合性の無い戦いは極力避けて来たからこそ、小国であるオフェーリアは生き残ってこられたのだ」
「我らが母国、フラーニアでは考えられん話だな」
美貌の女将軍は、首をかしげる。
「人生は大半が『無駄』であり、その『無駄』を楽しめなければ人生はそれこそ『無駄なモノ』になってしまうでは無いか?」
「フッ。それこそ『フラーニア人的な物の考え』では無いのかな、プリムラーナ将軍」
「人間の国にも、色んな考え方をするヤツがおるモンじゃのォ」
ルーシェリアは、騎士団の主となった舞人を見る。
「そうだね。でも、あの二人みたいに、考え方が違っても分かり合えるんじゃ無いかな?」
「そうとも言えんぞ。考え方が同じでも、敵対する場合もあるしのォ」
「でも、ボクたちは仲良くやって行こうよ。ねッ、ルーシェリア」
「なニャ……いきなり何を言い出すのじゃ!?」
「別に、おかしなコトを言ってるつもりは無いケド?」
「わ、わかっとるわ。だ、だから、ご主人サマは………」
ルーシェリアはソッポを向いたが、後ろ髪から覗く耳は真っ赤になっていた。
「見た目の通り、『少女』なのだな。先ほどの敵対行為も、『威嚇』以上の敵意は感じられなかった。魔王であれば考えられぬ程、平和的に変わっている」
「言われてみれば『元』が付くとは言え、魔王としてはかなり友好的だな」
プリムラーナも、細身のオフェーリア人の論理的考察に頷く。
「なんかそれって屈辱的……!?」
「マ、マズイ! このままだと……マズイ!」
オレンジ色の瞳をした双子姉妹は、平和に染まって行く自分たちに焦りを感た。
「シャロリュークも、本来はもう少し大人の性格だったと思うが」
「そうなんです。女の子の姿になってから、なんだか昔のシャロに戻ったって言うか……」
カーデリアは素直に答える。
「それにもう一つ。彼女たち魔王も、シャロリューク・シュタインベルグも、『魔王であったときの記憶』は失っていないように見受けられるが?」
「ウム。言われてみれば、そうじゃのォ?」
「……忘れてない」「……覚えてる」
「確かにオレにも、魔王となって暴れてたときの記憶もあるしな、ウン」
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