ラノベブログDA王

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萌え茶道部の文貴くん。第六章・第十七話

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侘び・寂び・萌え

「な、何故じゃ!? あの小童は、妾が事故に見せかけ始末したハズ……」
 渡辺の姿を一番の驚きで迎えたのは、舞台の最深部に潜む経営コンサルタントの女だった。

「もう、遅いよ渡辺先パイ!」
「どこ行ってたの。心配したんだから!」
 慌てて壇上へと続く階段を駆け上がる渡辺を、双子は叱り付ける。

「双子の言う通りじゃわい、心配かけおって」
「みんな時間かせぐの、とってもタイヘンだったガオ~!!」
「ボクも舞台袖で見てて、すっごくハラハラしちゃったよ!」

「ホンットにゴメン! 色々とあって……結局、絹絵ちゃんも見つからなかった」
「そ、そんな……」「まったく絹絵ったら、どこ行っちゃったんだ!」
 気を揉む双子姉妹は、最後の舞台用の黄色とピンクの着物に着替えていた。

「……絹絵ちゃんは、必ず後で見付けるから!」
 メガネの少年の強い意志を帯びた言葉に、一同はそれ以上詮索するのを止める。

「今は茶道部の……いや、オワコン棟が誇る極者部のメンバー全員の、最後の見せ場だ」
 渡辺は気を引き締め、顔を二度ほど叩いてから舞台へ上がって行った。

「どこかで見いてくれ、絹絵ちゃん。オレは必ず、みんなを笑顔にするから!」
 橋元も壇上に上がると、巫女・美娘ダンシング部の天原 礼於奈から声がかかる。

「橋元、あんたにしちゃあ良くやった。渡辺をちゃんと連れ戻してくれたんだね」
「何だよ礼於奈? オレには、醍醐寺 沙耶歌って『フィアンセ』が居るんだぜ?」
「バ、バッカじゃないの! そんなんじゃ無いよ~だ。フンっだ!」

「もう、ふぜけてる場合じゃないわ、蒔雄。最後の仕事が残ってるわよ!」
 副会長に耳を引っ張られながら、生徒会長もステージに上がる。

「あ~あ、もう尻に敷かれてやがんの……」
 天原 礼於奈は、少しだけ寂しそうに微笑んだ。

「みなさま、長らくお待たせ致しましたぁ。いよいよ我がオワコン棟の大トリの登場だぜ!」
 橋元 蒔雄が、得意の演説能力をフル回転させる。
「え~、見た目はメガネのちょっと地味なヤツだが、決めるときは決める男だぁッ!」

 舞台の中央には、羽織はかま姿となった渡辺と、浅間 楓卯歌と浅間 穂埜歌の双子姉妹、それに艶やかな赤い着物姿の『千乃 美夜美』が立っていた。

「……な、なぜお前が、ココに……!?」
 彼女の母親は、美しい娘の姿を驚愕の眼差しで見つめる。
それに気づいた娘も、視線から顔を逸らさなかった。

「茶道部・部長にして『萌え茶』の創始者ぁ~ッ!」
 そう言って、拳を高く突き上げる。
時間稼ぎのため、間延びした会場の雰囲気を変えようとの試みだ。

「渡辺ぇぇーー文ぃ貴ぁぁッ! 奴の点てる抹茶は絶品だぁぁぁーーーー!!」

 双子姉妹も、橋元の言葉を納得して聞いている。
「……いっつも寝っ転がって、呑んでるからね」
「そこだけは説得力ある」

 親友でもあり、悪友でもある生徒会長に、かなりのオーバーアクションで紹介された渡辺は、何歩か歩み出てマイクの前に立つ。

「故あって、茶道部の部長を務めさせていただいております、渡辺です」
 メガネの少年は、少しだけ緊張の混じった言葉で、集まった観客に語りかけた。

「茶道とは、『侘び・寂び・萌え』の三つの要素が重要なのです!」

「何だよ『萌え』って?」「茶道にそんなの入ってないぞ~ッ!」
 意表を突いた渡辺の一言に、会場中が大爆笑に包まれる。

 壇上には、双子も使った簡易式の畳が敷かれていた。
渡辺もそこに座ると、おもむろに抹茶茶碗を取り出す。

(あっ……あのお茶碗って、フーミンと始めて会った時の……)
 美夜美の瞳に映ったのは、藤色をした抹茶茶碗だった。
自分が『カチュリーン』と命名し、ナマイキな後輩にダメだ出しされたコトを思い出す。

 渡辺は、抹茶を点て始める……と、誰もが考えた矢先。
「この抹茶茶碗には……このコが似合うと思うんです。いや、絶対に合ってます!!」

 少年は抹茶茶碗に、美少女フィギュアをINした。

 

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