ラノベブログDA王

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萌え茶道部の文貴くん。第七章・第九話

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最後の客

 客の姿もまばらとなった、学園祭・リベンジの会場。
他の屋台や出し物も、既に後片づけに入っていた。

「祭りも……もう終わりか」
「寂しい、フーミン?」
「そりゃ、みんなで頑張って企画した学園祭ですからね……」

 オレンジ色の証明が照らす二枚の畳。
そこに並べられた、色も形もバラバラの抹茶茶碗の数々。
だがそこに、一つだけ足りない茶碗があった。

「この子たち、どれもそんなに高価でもないのに個性的で……」
「まるでオワコン棟の、キワモノ部みたいですよね?」 
 浅間 楓卯歌と穂埜歌の、双子姉妹が言った。

 恐竜の化石を連想させる、黄土色の抹茶茶碗。
森林迷彩のような抹茶茶碗に、黒光りするアスファルトのような抹茶茶碗。
アステロイドベルトの、小惑星帯を思わせる抹茶茶碗。

「どれもちゃんと、光輝いてる」
「そうですね、美夜美先パイ」
「でも、茶道部だって負けてませんから」

 たくさんの個性溢れる抹茶茶碗の中には……。
浅間 楓卯歌の選んだ、志野焼のピンク色の気泡の多く含んだ茶椀。
浅間 穂埜歌の選んだ、唐津焼の垂れ穂の描かれたグレーの茶碗もあった。

「先パイのくれた、カチュリーンもやっぱいいですよね」
「でしょ、でしょ!」
 ツンと鼻を高くする、可愛らしい先パイ。

「その子はフーミンが、直観で選んだんだよ」
「それで先パイが、おかしな名前を付けてくれた」

「おかしく無いよ。可愛い名前でしょ、フウカちゃ、ホノカちゃん?」
「うん、可愛いと思います」
「星の名前を合わせたんですよね?」

「二人とも、しっかり美夜美先パイに、懐柔されてるな」
「えっちな先パイより」
「断然、美夜美先パイです!」

「ま、まだ怒ってる……」
 すると学校内に、『蛍の光』が流れ始めた。
「いけね。喋ってたら、片付けが遅くなった!」

「わたしたちは、抹茶茶碗を洗って来るよ」
「本来は洗ったりしないで拭くだけだケド、最近は衛生とかうるさいしね」
「じゃあわたしも。畳はヨロシクね、フーミン」

「ええ、オレ一人で!?」
 反論を試みる、文貴。
けれども三人の少女は、妖精のように走り去っていた。

「この畳、けっこう重いんだよな。せめて橋元がいればな」
 すると渡辺は、目の前に客が居るのに気付く。

「ごめんなさい、お客さん」
 空はもう、スミレ色一色に染まっていた。
「今日はもう、店じまいで……」

 客は、抹茶茶碗を畳の上に置く。

「抹茶を一杯……点てていただけないッスか?」

 それは、『金泥で継がれた薄い翡翠色の抹茶茶碗』だった。

「……はい。よろこんで」

            渡辺は、茶筅を取った。

                  END  

 

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