ラノベブログDA王

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萌え茶道部の文貴くん。第六章・第十五話

 

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抹茶の味

 渡辺は、絹絵のことで頭がいっぱいだった。

「絹絵ちゃん、どこだ? 返事をしてくれ、絹絵ちゃ~ん!?」
 学校前の事故のあった道路を中心に、探し回るが返事は無い。
電柱にぶつかったトラックの周囲には、人だかりができていたが、手掛かりすらも見つからない。

「フーミン、聞いてくれる。お母様と戦ってた、絹絵ちゃん……て言うのかしら?」
 悲嘆に暮れながらも必死で後輩を探す渡辺の姿に、千乃 美夜美は声をかける。
「あなたの探している女の子が戦っていたのは、『現実の世界とは少しズレた場所』なの……」

「え? それって……」
「つまり、人間の世界をいくら探しても、恐らくその子は見つからないわ」

「そ、そんな!?」
 渡辺は、『絶望』という言葉の本当の意味を知った気がした。

「絹絵ちゃんは、オレが先パイのコトで落ち込んでいたときに、必死に励ましてくれました。いつも明るくて、笑顔がまぶしくて、オレにとって掛け替えの無い後輩なんです!」

 千乃 美夜美は涙を零す眼鏡の少年を、ギュッと抱きしめる。
「ねえ、フーミン。絹絵ちゃんのためにも、今あなたが出来ることをしましょう?」

「オレに……できるコト?」
「あのコの望みは、わかってるハズよ」
 先パイの言っている意味は、痛いほどよくわかっていた。

「絹絵ちゃんが望んでいたのは、大茶会を成功させるコト……」
 それでも、絹絵が心配でならない。

「お母さまがもし、フーミンに手を出したら……今度はわたしが戦うわ」
 普段の柔和な先パイからは、想像できない表情を見せる、千乃 美夜美。

「わかりました、先パイ。オレ、行ってきます!」
 メガネの少年は、想いを飲み込むようにグッと拳を握りしめると、体育館へと駆けて行った。

「わたしも……逃げてばかりじゃダメだ!!」
 薄紅色の頬を二度三度はたくと、彼女も後輩のあとを追った。


「蒔雄……どうしよう!? もうこれ以上、時間を引き延ばせないわ……」
 副会長である醍醐寺 沙耶歌の焦りは、限界まで達していた。

 既に『ナース服・学生服化推進委員会』の発表は終り、十ある極者部の最後に控える茶道部の発表の時間が、刻一刻と迫っていたからだ。

「大丈夫だよ、沙耶歌姉さま!!」
「渡辺先パイが来るまでの時間は、わたし達が何とかして見せます!」
 双子は体育館へと戻ると、直ぐに抹茶を点てる準備に取り掛かった。

「あ……あなたたち!?」
 醍醐寺 沙耶歌は、双子の義妹の行動に驚く。

(醍醐寺の家にいた頃は、この子たちは自分から何か行動を起こすことはしなかったのに。親戚中をたらい回しにされた影響なのか、権力を持った者の意向にすぐに従うクセがあったわ。それを心配もしていたのだけれど……)

 浅間 楓卯歌と浅間 穂埜歌は、着物に着替え、自らの言葉どおり二人で壇上に立った。

「ご来場の皆様……本日は、お忙しい中お越しいただき、誠に有難うございます」
「我が茶道部が、『大茶会』の大トリを務めさせていただきます」
 双子は、茶道部から持ち出した二畳の畳の上に座って、抹茶を点て始めた。

「……ほう? 流石は我が醍醐寺で、茶の湯を学んだだけのことはある」
 それを、後ろから見ている男がいた。

「所作にしろ点前にしろ、中々のものではある」
 意外にもそれは、醍醐寺 草庵だった。

「……破門となった今では、なんの意味も無いがな」 男は、口元を歪める。

「そもそも、『茶の湯』などと言う古い仕来たりに固執する体制から脱却せねば、醍醐寺の未来は無い。そうは思わんか?」

「はい……」
 後ろに控えていた女は、不気味な笑みと共に仰々しく会釈した。

 浅間 楓卯歌と浅間 穂埜歌は、客席にお尻を向けない様に『ハの字』に向かい合って座り、点てた茶を舞台の後方に向って置き、そして深々と頭を下げる。

「身寄りの無いわたし達を、今まで育てていただき…誠に有難うございました」
「お二人に、心を込めて抹茶を点てました。どうぞ、飲んでやって下さい……」

 二人はそう言うと、湯気の立つ抹茶茶碗を、『醍醐寺 草庵』と、学園長である『醍醐寺 五月』の前の机に置いた。

 学園長は、目に涙を浮かべながら抹茶を呑んだ。
草庵も場の雰囲気から考えて、流石に呑まない訳にもいかず、それを口に運ぶ。

「こ、これは……!?」 
 抹茶を口に含んだ醍醐寺 草庵は、何かとてもなつかしい気持ちになっていた。
「抹茶など……美味いと思ったことなど、無かった筈だが……?」

 

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