ラノベブログDA王

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萌え茶道部の文貴くん。第七章・第八話

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祭りの終わり

 工事用の足場に包囲され、切羽詰まったオワコン棟。
その最後の雄姿を背に、学園祭・リベンジは華やかに進行して行った。

 茶道部も二畳の畳を持ち出して、抹茶茶屋風の屋台を出店している。

「橋元。お客様が待ってるんだから、もっと急いで!」  
「あ~あ~、そんなに抹茶をこぼしてぇ。ダメだなあ~橋元は!」
 浅間 楓卯歌と浅間 穂埜歌は、生徒会長だろうと容赦無い。

「な、なんでオレが後輩に、ダメ出しされにゃならんのだ!」
 橋元は双子姉妹を、恨めしそうな表情で見た。
「渡辺と違って、オレだけ呼び捨てだし」

「たまには、抹茶を点てる側になりたいって……」
「言ったのは自分でしょ。茶道の道は甘くないの」

「怖えな。渡辺も何とか言ってやってくれよォ~?」
「せっかく醍醐寺の由緒ある茶道を教えてくれるんだから、いい機会じゃないか」

「でもこいつ等、生徒会長をアゴでこき使いやがるぜ」
「それも将来に向けた、いい機会じゃないか」
 渡辺は、橋元の不満を完全無視した。

「おいおい……まだ『お尻』のコトで怒ってんのかぁ?」
 橋元は、抹茶を点てる渡辺の顔を覗き込んだ。
「お尻のコトなんか忘れて、いい加減に機嫌を直せって~」

「やかましいわ、お尻お尻言うな!」
 渡辺は、茶杓を橋元の眼前に、付きつける。
「お前のお陰で、オレは……オレの信用は!」

「みんなの膨らみ過ぎた期待の目を、オレが覚まさせてやっただけだろ~?」
 橋元は、指で渡辺の頬を突っついた。

「確かにお前のお陰で、誰も茶道部の仮部室に来なくなったよ」
「そりゃあ、元に戻っただけだろ?」

「良かったなあ、橋元……」
 渡辺は、凍りつく様な冷たい目で橋元を睨んだ。
「誰にも邪魔されずに、ダラダラ出来る場所が復活して?」

「ありゃりゃぁ~ん、バレてた?」
「当たり前だ、完全にバレとるわ」
「最近の茶道部、人が多すぎて落ち着かなかったんだよな」

 

「それはそうと蒔雄。こんなところで油売ってるヒマは、無いわよ」
 橋元はこの後、『生徒会の用事』とやらで、醍醐寺 沙耶歌に連行されて行った。
「沙耶歌、引っ張んなってェ。まったくお前らの一族は、どいつもこいつも……」

 この時点で、一年半後の高校卒業と同時に、『橋元 蒔雄』と『醍醐寺 沙耶歌』が結婚するなどと、誰が予想出来たであろうか?
……いずれは結婚すると、誰もが思っていたコトだが。

 橋元が連れて行かれたので、替わりに渡辺が抹茶を点てる。
茶屋娘風の着物を着た、双子姉妹と千乃先輩が接客を担当した。

「い~いフーミン、お客さんのお尻ばっか見てちゃダメだよ?」
「わかってますって、先パイ。もうその話は、勘弁して下さいよォ~!」

「渡辺先パイ、その節はホントがっかりしました……」
「幻滅しまくりです」

「楓卯歌ちゃんも、穂埜歌ちゃんも、お願いだから許してェ~!」
 渡辺は、もう二度とビデオカメラなど握らないでおこうと、心に誓った。

 その後、『学園祭(リベンジ)』は盛況の内に幕を閉じる。

 順調に客も掃け、各部活は自分たちの屋台や出し物の、後片付けに追われていた。

「フーミン、ありがとね。この学園祭でほんの少しだけど……」
 千乃 美夜美は、夕陽に染まるオワコン棟を見ながら微笑む。
「去年のみんなに対する『申し訳無い気持ち』が、和らいだ気がする」

「そうですか? 良かったです」
「でもこれで、オワコン棟も最後なんだね~」
「夏休み中には、解体されちゃうんですよね……」

「フーミン、寂しい?」
「いえ、今はとっても満足してますよ」
「そっか、わたしも良かったと思う」

 スミレ色とオレンジ色が交じり合った空には、星が輝き初めていた。

 

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