急報
「ボクたちは残って、もう少しこの村を調査しようと思います」
「妾も、付きおうてやるとするかのぉ」
新設された遊撃騎士団の、隊長と副隊長が言った。
「ならばミーたちも、手伝うミル」
「拙者共も八人となり、頭数は増え申したレヌ」
元・力の魔王にして恐怖の魔王である『モラクス・ヒムノス・ゲヘナス』も、恋し慕うルーシェリアを手伝うために残る。
「じゃあオレたちは、いったん王都に戻るぜ、舞人」
「調査の結果を、報告しないといけないしね」
「あと、途中の街に寄って、リーセシルたちと合流しねえとな」
「解りました、シャロリュークさん。皆さんも、お気を付けて」
「お前の方こそ、いつサタナトスが戻ってくるか、判らねえんだ」
「注意を怠るで無いぞ、ご主人サマよ」
「ル、ルーシェリアまで……わかってるよォ」
ふてくされる、舞人。
「人間の主よ。我らも戻るぞ」
「こんな廃村に、用などない」
ネリーニャとルビーニャの、双子姉妹が言った。
「薄情なヤツらじゃのォ。好きにすればいいのじゃ」
隊長の許可も得ず、副隊長が勝手に決めてしまった。
赤毛の少女の姿のシャロリュークは、調査報告も兼ねて帰路に付く。
カーデリアとクーレマンスもリーダーに従い、王都へと帰って行った。
ネリーニャとルビーニャの双子姉妹も、それに同行した。
物語はしばらく、赤毛の少女を主人公として進む。
シャロリューク=シュタインベルグは、リーセシルたち双子姉妹と合流するため、街へと向かった。
「ところでよ。近くの街ってェのは、どこなんだ、カーデリア」
「中規模都市の『キャス・ギア』よ。そこの宿屋に向うわ」
「相変わらず、段取りはカーデリア任せだな、お前は」
一行は死の谷を離れ、平野が広がる土地に足を踏み入れた。
「この辺りは、ずいぶんと豊かそうだな。畑や田んぼがたくさんあるじゃねえか」
「そうね、クーレマンス。キャス・ギアは、国内有数の穀倉地帯なのよ」
「なんだかのどか過ぎて、気が抜けるぜ」
赤毛の少女の髪が、そよ風に靡く。
風は黄金の穂を垂れた畑を吹き抜け、蒼穹の空に吹き抜けた。
「アレが城か……小さな平城だな」
「周りに民家は多いが、攻められれば一溜りもあるまい」
元死霊の王の少女たちが、戦術的な側面からの感想を述べる。
「ま、とりあえず、宿屋に向かうぜ」
覇王パーティーの三人と双子は、街の入り口にある小さな緑色の宿屋に入った。
「た……大変だよ、シャロ~ッ!」
「王都が……王都が魔物に襲われて!?」
直ぐさま、慌てふためいた双子が宿屋にやって来て、急報を告げた。
「何があったんだ、リーセシル、リーフレア!」
「そ、それがね、シャロ……」
「今さっき、『ヤホーネス王都が、魔物の軍団に襲われた』……と」
「知らせが、あったんだよ!」
「な、なんですって!?」
「王は、王さまは無事なのかよ!」
「魔王クラスと思われる巨大な魔物が出現して、王城を破壊したって」
「王の安否も、残念ながら不明だそうです」
「それに現れたのは、魔王だけじゃ無いんだよ、シャロ!」
「焼け落ちるヤホーネス城の上空に、金髪の少年も目撃されたそうです……」
「そ、そんな……マジかよ?」
赤毛の少女の問いに、双子司祭は押し黙って頷いた。
「シャロ。あたし村に戻って、舞人くんにこの事を知らせてくるわ!」
「おう、お前の脚なら適任だ。任せたぜ、カーデリア」
パッションピンク色の髪の少女は、神速を持ってムオール山の村へと駆けた。
「さて……オレはどうしたモンかな?」
赤毛の英雄は、華奢で小さな自分の手を見つめる。
魔物の軍団に襲われ、巨大魔王まで現れた王都に向うべきだろうが……。
「せめて、『エクスマ・ベルゼ』でもありゃあ……」
「情けない姿になったかと思えば、性根まで女々しくなったか、シャロリューク?」
嫌味を言われ腹を立てた、赤毛の少女が見上げる。
そこには、白紫色の長い髪を結んで後ろに垂らした剣士が、立っていた。
前へ | 目次 | 次へ |