燃え堕ちる王都
「なんだとォ、雪影……テメェ~!」
嫌味を言われ、腹を立てた赤毛の少女が見上げる。
「王都に向かって、グラーク・ユハネスバーグ率いるオフェーリア軍が動いている」
白紫色の髪の剣士は、意に介さず状況を伝え始めた。
「魔物の軍隊は、天才軍略家に任せておけば十分だろう。だが問題は……」
「王都に出現した、魔王クラスの魔物だね」
「それに、王の安否も気になります」
「リーセシル、リーフレアはわたしと共に来い」
「わかったよ」「了解いたしました」
「これより王都エキドゥ・トーオに向かい、現れた魔王クラスを殲滅する」
「いきなり出てきて、仕切ってんじゃねえよ。なら、オレも……」
「今のお前など、足手まといだ。ニャ・ヤーゴで皇女の様子でも伺っていろ」
「おいテメー、赤毛の英雄さまに向かって、ずいぶんな口をきくじゃねえか?」
「英雄など、どこにいる。そこの鏡でも見て、現実を受け入れろ」
雪影は、宿屋のラウンジにあった姿見を指さす。
「う……」
鏡には、チンチクリンな赤毛の少女が映っていた。
「それに……」
白紫色の髪の剣士は、宿屋を出る前に吐き捨てる。
「王に何かあれば、皇位を継承するのは誰か解かるな?」
「そりゃあニャ・ヤーゴにいる、レーマリアだろ?」
「お前に言いたい話は、それだけだ……」
剣士の切れ長の眼が、双子姉妹を映す。
「お前たちも、来る気はないか?」
彼が問いかけたのは、双子司祭ではなく、元・死霊の王だった。
「我らがどうして、人間どもの闘いに参加せねばならん」
「勝手に、攻め滅ぼされるが良いわ」
ネリーニャとルビーニャの双子姉妹は、そう答えた。
「そうか……」
「だが、王都は魔物の群に、蹂躙されているのだろう?」
「死が溢れる王都は、我らの好む場所だ」
「ちょっと、ちょっと。戦う動機が、邪(よこしま)なんですケドォ」
「雪影さま。この者たちを信用して、良いモノでしょうか?」
死霊の王と闘い、死にそうになった双子司祭は反対する。
「信用など、しておらん……だが、戦力には成りうる」
雪影は、宿屋を出て行った。
二組の双子姉妹も、互いに牽制しながら後を追った。
「何だよ、雪影のヤツ。人を除け者扱いしやがってェ!」
「そう怒るなって、シャロリューク。アイツも、アイツなりに気を遣ってんだ」
「それが、気に喰わないっつってんだよ!」
「だが、レーマリアのそばに付いていてやるのも、お前の役割だと思うぜ」
「わ、わかってるよ」
赤毛の少女は筋肉男と共に、ニャ・ヤーゴの街へと向かう。
~その頃~
ヤホーネスの王都の空は、紅に染まっていた。
首都・エキドゥ・トーオでは逃げ惑う人々の悲鳴が、あちこちで聞こえる。
「魔物が……魔物の軍勢が、城壁を突破して雪崩れ込んで来るぞォ!?」
「そっちはもう、火の海だ。引き返せ!」
「引き返したところで、魔物が……きゃあああッ!?」
武装したゴブリンやリザードマンら、魔物の軍隊に斬り伏せられる人々。
巻き起こった炎の渦に飲まれる、人々。
「王都騎士団は、何をやっているんだ!?」
「見ろよ。王城までもが、焼け落ちてるんだぜ……」
「それに、あの巨大な魔物……アレって……!?」
そこにあったのは、瓦礫と化した王城を包む爆炎に浮かんだ、巨大な黒い影だった。
「ヤレヤレ、脆いねえ。これが国の王都かな」
黒煙が立ち昇る王都の上空で、人々の悲鳴を心地よく聞く少年。
「これじゃあ国王が、どこでくたばってるのかもわかりゃしないよ」
炎で巻き起こった暴風に、美しい金髪を靡かせながら少年は無邪気に微笑む。
「どうやら赤毛の英雄や、覇王パーティーもいないみたいだ」
少年は空間から、石のような剣を取り出し、時空を切り裂く。
「さてと……後は魔王『ザババ・ギルス・エメテウルサグ』に任せるとしよう」
少年は、時空の裂け目へと消え去る。
古代の鎧を纏い、背中に四枚の羽根を生やした魔王が雄叫びを挙げた。
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