オアシスの激戦~2
砂漠に開けられた2つの穴は、勢いは弱まったものの未だに砂を呑み込み続けている。
「ケッ……人様の剣を、随分と器用に使い熟(こな)すじゃねえか」
赤毛の英雄は、エクスマ・ベルゼの巻き起こす炎をバーニアの様に地面に当て、宙高く飛び上がった。
「無論だ、シャロリューク。この剣は、オレの身体の一部に等しい」
魔王ケイオス・ブラッドは、刻影剣となったバクウ・プラナティスで、空を切り裂く。
すると上空のあちこちから、大量の砂が噴き出した。
「ア、アレは……飲み込まれていた、砂漠の砂ではありませんか!?」
娘を抱えたイヴァン騎士団長も、降り注ぐ大量の砂から逃げるのに必死だ。
「砂など、オレの火炎でガラスに変えてやるぜ!」
灼熱の剣・エクスマ・ベルゼによって、砂は無数のガラスに変えられ、魔王に目掛けて放たれた。
けれども、鋭利なガラスの針は魔王の身体を捉えるコト無く、砂丘の上に突き刺さる。
「のわ、危ないのじゃッ!?」
「ちょっとシャロ、下のコト考えて戦ってよ!」
その何本かは、カーデリアとルーシュエリアの周囲に散らばっていた。
「ワリィ、ちと焦り過ぎたみてーだ」
「焦るって……シャロ」
パッションピンクの髪の少女は、不安な瞳で宙の赤毛の英雄を見つめる。
「どうやら赤毛の英雄が、あの姿で居られる時間は限られておる様じゃな」
「そうね、あのシャロが焦るだなんて、普通じゃあり得ないわ」
カーデリアは、奏弓・トュラン・グラウィスカの4ッつの弦を引き絞った。
「仕方ないのォ、妾も加勢するぞえ」
ルーシェリアも、魔眼剣エギドゥ・メドゥーサスを出現させ、カーデリアと背中を合わせて身構える。
「心配し過ぎだぞ、お前ら。こんなヤツ、軽く捻って……」
「なるホド。キサマ、サタナトスに魔王にされた影響で、本来の力を取り戻せていないのだな」
シャロリュークの真後ろに、姿を現すケイオス・ブラッド。
「テメッ、この!?」
「遅い……」
闇と幻影の魔王が、赤毛の英雄を袈裟斬りにしようとした……その瞬間。
「ムッ!」
何本もの矢が、魔王を捉えようとしていた。
「小賢しいヤツらが。これは、オレとシャロリュークとの闘いだ」
魔王は一旦身体を翻し、矢を撃ち落とす。
「知ったコトでは無いのじゃ」
「シャロは、殺らせはしないわ!」
「フッ、まあいい。そろそろ、仕上がっている頃だろう」
「何を言っているの!?」
「惑わされるで無い、カーリー」
「丁度いい。キサマらには、実験台になって貰うとしよう」
魔王ケイオス・ブラッドは、2人の少女目掛けて剣を振るった。
「ふ、2人とも、避けろォーーーーー!!?」
英雄の叫びが、砂漠に木霊する。
「こ、これは、闇……なのかえ!?」
「いやあぁぁ、シャ、シャロォ!!?」
2人は、刻影剣バクウ・プラナティスの生み出した、闇に呑まれた。
「キ、キサマッ!!」
「言って置くが、2人を殺しては居ない。そこのオアシスまで、飛ばしたまでだ。最も、今後も死なない可能性は低いがな」
「なんだって……!?」
赤毛の英雄は、本来の目的地だったオアシスを見た。
黒い球体が出現し、それが消えると2の少女がそこに吐き出される。
「あ痛たた……死ぬかと思ったのじゃ!」
「でもアイツ、どうしてアタシたちを殺さなかったのかしら?」
砂を振り払い、立ち上がる2人の少女。
「解せぬのォ。ヤツの斬撃の正体は、『無』じゃ。あのまま虚無空間にて妾たちを、消滅させれば事足りたハズなのじゃが……」
魔王の行動を、訝しがるルーシェリア。
「ねえ、シェリー。どうやらアイツの目的が、見えたわ」
「なんじゃ……と……」
ルーシェリアが顔を上げると、逆光のオアシスの茂みや泉の中から、少女たちのシルエットが2人を睨んでいた。
「このコたちが、酒場の情報にあったトカゲ女ね」
「ほう。もっと、怪物染みたのを想像しておったが、少女では無いかえ」
背中から、砂漠の太陽を浴びる少女たち。
胸や腰を覆う程度のみすぼらしい衣しか身に着けておらず、身体の外側の皮膚は鱗で覆われている。
お尻からは、小さなトカゲの尻尾が生えていた。
「見た感じ、大して強くは無さそうね」
「イヤ、油断するでない。何かが、変じゃ」
「何かって?」
ルーシェリアが答えるまでも無く、その『変化』は顕現する。
少女たちの長く伸びた髪の毛が、意思を持ったかの様に四方に広がったのだ。
「こ、このコたち、髪の毛がヘビだわッ!?」
「マズイのじゃ、カーリー。ヤツらの眼を、見てはならぬのじゃ!」
「え……?」
ルーシェリアの忠告は時すでに遅く、彼女の目の前にはカーデリアの形をした石像が立っていた。
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