エリート学園
「北畠科学情報学園……か」
ボクはソファに座って、倉崎さんのノートに目を通す。
テレビの画面では、倉崎さんのデビュー後二試合目が行われていた。
横浜のチーム相手の、アウェー戦だ。
最初の一点は、倉崎さんが決めている。
「どうしたの、カーくん?」
ボクの膝を枕に、ソファに寝そべった奈央が言った。
「急に、エリート進学高校の名前なんか出しちゃって」
「イヤ、どんな学校なのかな~って思って」
「そうね。とにかく、真の天才か秀才でないと入れない学園よ」
「へ~そうなんだ」
「最近じゃ、IT関連に力を入れるって言ってたわ」
「それってコンピューターとか、プログラマーとか?」
「あたしじゃ、詳しくはわかんないケドね~。バカだし」
テレビの向こうでは、チームの三点目も決め、三対一で勝利をもたらした倉崎さんが、アウェーの地に駆け付けたサポーターから、大声援を浴びている。
次の日、ボクは北畠科学情報学園の、校門前に立っていた。
ここが、東京の有名大学の進学率、県内随一の学園か。
校舎も立派だし、制服も洗練されていてクールだな。
『雪峰 顕家』さんは、この学園に通ってるんだ……。
周りから噂話をする声は、聞こえない。
ボクがいても、ボクなど無視して皆通り過ぎた。
よく見ると、みんなイヤフォンをしてる。
たぶん、英語のリスニングとか聞いてんのかな?
いかにもエリート進学校って雰囲気だ。
流石に、サッカーでプロになろうって思う人の、来る学校じゃない。
倉崎さんや、紅華さんが諦めた理由も、理解できた。
そのまま踵を返し、帰ろうとしたその時……。
「キミ……ウチの学園に、何か用かな?」
背後から、声がした。
うわあ、どうしよう。
他の学校の制服着た怪しいヤツが、うろついてるんだ。
も、もしかして、生徒会長とかが注意しに来た?
そんなコトを思いながら、振り返る。
するとそこには、長身で細身の男子生徒が立っていた。
ほわあッ、雪峰 顕家さんだあぁぁッ!!?
ボクが会いたいと思っていた人が、校門を背に立っている。
「キミは……サッカーをしているのか?」
雪峰さんは言った。
な、なんで解かったんだ?
……もしかして。
「左右の太ももの太さが、極端に違う。左利きのサッカー選手の特徴だ」
や、やっぱり。
倉崎さんも、同じ理由で見抜かれたし。
「その制服は、曖経大名興高校のモノだな」
雪峰さんは、黒い髪に白い肌、切れ長の目をしていた。
「残念だが、ウチのサッカー部は弱いぞ。キミの高校とでは、相手にならない」
……アレ。もしかして、練習試合の申し込みに来たと思ってる?
『フルフルフルフル!!』
ボクは思い切り、顔を横に振った。
「なんだ、違うのか。ならば一体、ウチに何の用だ?」
用があるのは、アナタなんですケドぉ。
ボクはとりあえず、名刺を差し出す。
自分のと、倉崎さんの二枚だ。
「デッドエンド・ボーイズ……御剣 一馬?」
『コクコクッ!』
「キミの名前のようだな……」
そう言いながら、もう一枚の名刺に目を移す雪峰さん。
「倉崎 世叛……デッドエンド・ボーイズ、代表取締役……」
アレ。もしかして、興味ないのかな?
冷静で眉一つ動かさない、雪峰さん。
「サッカーなどという競技は、実に不確定要素の多いスポーツだ」
いきなり、サッカーに否定的なコトを言い出したぁ!
「人類が、二足歩行を始めたコトよって自由を得た手を使わずに、脚でボールを扱う」
………そ、そんな風に、考えたコトも無いよ!!
「例えロングボールでフリーな味方にパスを送っても、長い距離のパスは時間がかかり、その間にフリーだったハズの味方は、フリーでは無くなってしまう」
た、確かに……言われてみれば、そんなコトあるかも?
「だが彼のロングパスは、美しい。哲学的で、完全なるパスだ」
……それって、倉崎さんのコトだよね?
「再びサッカーに興味が沸いた。彼に、会ってみたいモノだな」
雪峰さんは、確かにそう言った。
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