ペンテシレイア
「ブリッジは、プリズナーに任せるよ」
「オレなんかでいいのか、艦長?」
『彼はあまり、適任とは思えません』
フォログラムの女神が反対した。
『人間の不可解な感情である、野心が極めて高く感じます』
「本当の野心家なら、そう思わせないんじゃないかな?」
「そいつァ、どうかな。野心をひけらかす、野心家だっているぜ」
野心家は、不敵にほほ笑む。
「そうかも知れないが、任せるよ」
ボクは、ブリッジをプリズナーに預けて、トロイア・クラッシック社からの使者を出迎えるために格納庫へと向かった。
ボクは、セノンが見つけてくれた宇宙服を着てから、ハッチの開いた庫内へ入る。
「アレが……使者たちの、アーキテクター?」
ハンガー(格納庫)には、十三体の人型機体が並んでいた。
その内、十二体は白を基調カラーとし、残る一体は金色に光輝いていた。
「いや、意志を持ったロボットである機構人形(アーキテクター)は、こちらにハッキングされると考えそうなモノだ。そうなると……?」
人型機体の胸部ハッチが開き、中から宇宙服を着た操縦者が現れたのだ。
「やはり、アーキテクターじゃなくて、サブスタンサーだ」
人が乗り込み、操る機体を使うのも当然の選択か。
「艦長直々のお出迎え、感謝いたします」
そう言ったパイロットの声は、明らかに女性のモノだった。
「わたしは、『ペンテシレイア・シルフィーダ』と申します」
黄金色のサブスタンサーから現れた彼女は、黄金に輝く宇宙服を身にまとう。
「デイフォブス=プリアモスが名代として、参りました」
ピタッとフィットした宇宙服が浮かび上がらせる体のラインは、豊満で女性的な魅力に満ちていた。
「ペンテシレイア……確かトロイア戦争に参戦した、アマゾネスの女王ですね?」
「ええ。我が社の規則として、トロイア戦争の英雄の名を名乗る制度なのです」
ボクは、おかしな制度だと言いたい好奇心を、何とかやり過ごした。
「まず交渉の第一歩として、我が社から提供できるモノをお渡しします」
彼女がヘルメットを取ると、サファイア色の長い髪が溢れ出す。
「それは、何でしょうか?」
「我々、十三名と十三機のサブスタンサーを、旗下にお加え下さい」
ペンテシレイアの後ろに、十二機の白いサブスタンサーから降りてきた、十二人のパイロットたちが横一列に整列する。
ヘルメットは取らなかったが、彼女たちもやはり女性の体つきをしていた。
「十三機だと、中隊規模という認識でいいのかな?」
「企業風土や軍隊の規模にもよりますが、今の時代でもその認識で間違いありません」
ペンテシレイアは、ボクがコールドスリーパーだという情報を持っているらしい。
「巨大な艦ですね」
「ああ。艦の中に、大きな街が存在するくらいだからね」
偉そうに説明してはいるが……。
千年の眠りから覚めて、いきなり艦長にされたんだ。
謎の巨大宇宙艦のコトなんて、殆ど解らなかったりする。
「我が社も、中隊規模の戦力を提供すればと考えておりましたが、どうやら大隊規模の戦力を保有しておられる様子」
「そうですね。ウィッチレイダーのサブスタンサーだけでも、六十機ありますから」
ボクはあえて、『ウィッチレイダー』という、彼女たちが知らないであろう単語を使った。
けれどもペンテシレイアは、言葉を発しない。
白い宇宙服に身を包んだ十二人の部下も、同様に反応はしなかった。
「では、ブリッジに案内します」
『艦長、その前に……』
女性の声が響き、薄暗いハンガー内が眩い光に照らされた。
「どうしたんだ、ベル?」
ベルダンディは、優雅に武骨な通路へと着地する。
『艦長。まだ味方になると決まったワケでもない者たちを、警戒もせずにブリッジに通すのはいかがなモノかと』
「彼女たちを、疑っているのか?」
『はい』
「ずいぶんと、正直なフォログラムですね」
アマゾネスの女王の名を持つ、女性は言った。
『まずは、身体チェクを受けていただきます』
「いいでしょう。それくらいは、想定内です」
十三人の女性パイロットは、ベルダンディの後に続く。
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