大盛況
文化祭・復讐劇は晴天に恵まれ、多くの来客でごった返していた。
「今日はスゴイ人だかりですね、先パイ」
「そうね、フーミン。あの屋台で何か買っていきますか?」
千乃 美夜美の繊細な指が、一条 明美の屋台を指さす。
「さあさ、よってくアルよ~♪」
「今日は、フルーツ中華マンのお披露目ね♪」
「ピーチマン、マンゴーマン、メロンマンもあるアルよ~♪」
威勢のいい声で、自慢の中華マンを売る屋台。
大須の出店時より多くのミニスカチャイナ服少女が、呼び込みをしていた。
「じゃあオレは、ピーチマン」
「わたしは、メロンとマンゴーに、マスカットマンを貰おうかな」
「せ、先パイ、そんなに食べるんですかぁ!?」
「毎度おーきにアル~♪」
一条さんに渡された異色中華マンを手に、ボクたちはプールの方へと向かう。
プールには浅く水が張られ、水着姿の少女たちがサバイバルゲームに興じていた。
その手には、無骨な軍用ライフル風に改造された『水鉄砲』が握られている。
「あのコたち、めっちゃ気持よさそうだね、フーミン」
「水が張ってあるから、弾切れの心配は無いですしね」
「そっか、なるホド考えたな」
「おっ、姉ちゃんの着てる水着、寒冷地用のスプリッター迷彩じゃね?」
プールサイドから無精ヒゲのおじさんが、ボーイッシュな女の子に声をかけている。
「お兄さん、ミリタリーマニア?」
「おうよ。姉ちゃん、サバゲ雑誌で取り上げられてたコだろ?」
「まあね。ウチの水鉄砲サバゲ部、普通のサバゲもけっこー強いから」
「それにしてもみんな、マニアックな迷彩の水着着てんな?」
「わたしのデザート迷彩、可愛いでしょ?」
「ウッドランド迷彩のが、お洒落ですよね、伊吹先パイ!」
「やっぱ、夏と言えば洋上迷彩一択っしょ!」
「現代は情報戦の時代。デジタル迷彩がクール」
「こらこら、お前らそんなコトでケンカすんなよ」
「ガハハ、部隊まとめんのも大変だな」
ボクたちは、そんなやり取りをプールの金網越しに通り過ぎ、校舎の方へと向かう。
「見て見て。あの小さな女の子たちのカチューシャ、丸いのが光ってて可愛いね」
「あっちの男の子たちも、恐竜の粘土細工で喜んで遊んでますよ」
二つのアイテムとも、出処がどこか見当は付いた。
「あら、茶道部の歴代部長のお二人では、ありませんか」
メイド服を着た少女が、恭しくお辞儀をする。
「やあ、御子神さん。今日はフェンシングの出し物じゃないの?」
「残念ですが本日は、可愛らしいお尻はご覧いただけません」
「イヤイヤイヤイヤ……違うから!?」
メイド流剣道部・部長は、いきなり上映会での出来事を振ってきた。
「アレはたまたま映ったお尻を、橋元のヤツが勝手に編集して……」
「フーミン、言い訳はみっともないよ」
「みっともないです、ご主人様」
「二人とも、もう勘弁してよぉ!」
一度暴落したボクの株価は、未だに暴落したままの様だ。
「冗談はさて置き……」
御子神 涼香は言った。
「本日は我が『メイド流剣道部』は、メイドの方をメインにしております」
「メイドの方って、紅茶でおもてなしとか?」
「それもございますが、メイドと一概に言っても、様々な役割や種類があるのですよ」
「へ~、そうなんだ?」
「ハウスキーパーたるわたくしの下に、パーラーメイド、ランドリーメイド、チェインバーメイド、スティルルームメイドと、しっかり役割分担をして、お持て成しをさせて頂いております」
教室の中には、本気で貴族の大邸宅をを管理できそうな人数の、メイドたちが働く。
紅茶を運んだり、ケーキを取り分けたり、てきぱきとお客さんを接待していた。
「これは……わたしたちも、負けてらんないね」
「そろそろ戻りますか、先パイ」
「ええ、そうね」
二人は足早に、自分たちのブースへと戻った。
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