交渉
「それはどう言う意味だ、プリズナー」
「決まってんじゃねえか、艦長」
ボクの問いかけに、囚人の名を持つ男はほくそ笑みながら言った。
「お前は今、最強の艦を手に入れたばかりか、この宙域最強の二大軍事企業の誇る二個艦隊を、その手中に掌握してるんだぜ?」
「つまり、ボクに彼らと戦争をしろってのか?」
「そうだな。例えそこまで行かなくても、優位な交渉はできるハズだぜ」
そう言いながら、プリズナーは画面に映る二つの企業の代表を見た。
「ヤツらは今、軍事的に丸裸の状態だ。それぞれ主力艦隊を失い、こっちはそれを手に入れた」
彼らは粗暴な男に指さされ、表情を歪める。
「我々を、脅迫しようと言うのか?」
「そんなコトをすれば、どうなるか解かっているんだろうな?」
犬猿の仲と聞いた二人の息は、ピタリと合っているかの様だった。
「我がグリーク・インフレイム社には、第一艦隊の他にニから四までの三個艦隊が存在する。単純な兵力差で言えば、我が方に分があるのだ」
白いギリシャ風の宇宙服を着た英雄・アキレウス=アイアコスが言った。
「我らトロイア・クラッシック社とて、他に二個艦隊を擁し、さらに半個艦隊を七艦隊保有しているのだ。これが何を意味しているかは、自ずと答えが出よう」
黒きギリシャ風の宇宙服を纏った、デイフォブス=プリアモスも張り合いを見せる。
「いい加減、威勢を張るのは止めたらどうだ?」
プリズナーは、尚も挑発的な態度を取り続けた。
ボクは内心、それを冷や冷やしながら見守る。
実際、千年の眠りに付く前のボクはただの高校生でしか無く、国家間の交渉事など纏められようハズも無かった。
「お前たちの企業が誇る二つの艦隊が、今はこの艦の旗下にあるんだぜ。おいそれと、艦隊を派遣できるのかねえ?」
「え、どう言うコトですか、おじいちゃ……ムグゥ!?」
ボクは、セノンの口を塞ぎながら小声で耳打ちした。
「……彼らの二つの艦隊は、コンピュータージャックされて、今はこっちの傘下にあるだろ」
「ハ、ハヒ」
「もし軽々しく討伐艦隊を派兵すれば、再びジャックされる危険があるってコトさ」
「でも、艦隊をジャックしたのは謎の戦か……ンンッ!?」
ボクは余計なコトを言いそうな口を、もう一回塞いだ。
「今は、二つの企業国家との交渉の最中だ。余計なコトは言わないように」
念を押し、可愛らしい口から手を放す。
「ムム……小癪な輩め!」
白き英雄は、白い顔に青筋を立て怒る。
すると、もう一人の黒き英雄が口を開いた。
「確かに、キミの言う通りだな。我々は、ジャックされた艦隊を取り戻す術を知らず、ジャックに対する防御方法さえ確立していないのだ」
「な、何をテロリストを相手に弱腰な!?」
デイフォブスの態度に驚いたのは、アキレウスだった。
「我々、トロイア・クラッシック社は、貴艦と同盟を締結したい……いかがかな?」
「馬鹿な、テロリストと同盟などと……キサマ、正気か!?」
「冷静な判断が出来ていないのは、むしろ貴公の方に思えるが?」
デイフォブスは胸を張り、堂々と言い放った。
「強力な戦力を保持したこっちと結べば、お前たちはライバル企業に対し優位を取れるって算段か?」
プリズナーは相手を挑発しながらも、今の状況を言葉の端々に入れていた。
「そんなところだ」
「だが、こっちの見返りはどうなる?」
「我がトロイア・クラッシック社が主星のパトロクロスを始め、我が社の宇宙港の使用許可を与えよう」
「それだけか?」
「無論、補給や整備、上陸許可も与え、乗員の地位を保証する」
「奪っちまった、お前らの艦隊はどうなる?」
「我々に手を貸すのであれば、貴艦の傘下にあって問題ない」
「大した決断じゃねえか?」
「ビジネスとは、そう言うものだ。時に英断を下せなければ、商機を失う」
デイフォブスの言葉は、ライバルに対する当てつけでもあった。
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