ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第03章・第17話

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動画の未来

 ボクは午後からの授業の為に、身支度を整える。

「もっとも、いきなり解雇通告を出されても、おかしく無い状況ではあるが……」
 けれども解雇するかどうかを決めるのは、幸いボクの仕事ではない。

「クビにならずに済む可能性も無くはないが、希望的観測に過ぎないか?」
 ボクは時間を確認し、アパートを出ようとする。

「ん、何かポストに入ってる……」
 『何か』とは言ってみたが、おおよその見当は付いていた。

「やはり、立ち退き期限の督促状か」
 封筒に入っていた中身を確認すると、そこには三日後の日付が書いてある。

「急と言えば急だが、忙しさにかまけて手を付けなかったに過ぎないからな」
 ため息を付きながら、玄関戸の施錠をする。
ふと気になって、三人の女子高生が共同生活を送っていた部屋を見た。

「もう卯月さんたちも、どこかに引っ越したみたいだ……」
 ドアから表札は抜き取られ、電気も消え、生活感も消えている。

「二日前にキアのライブに行ったばかりなのに、遠い昔のように感じられるな」
 ため息を吐き捨て、ボクは地下鉄の駅へと向かった。

 電車に乗ると、周りの乗客は今朝の久慈樹社長の話題で、持ち切りになっていた。

「す、すげえよな、久慈樹社長。あの人なら、日本の動画を変えるぜ」
「オリジナルアニメまで、配信するんだろ?」
「何でも有名声優を、大勢起用するって噂だぜ」

「それよりドラマよ。あのキャスト見たら、ユークリッドが本気なのが解るわ」
「日本人だけじゃなくて、海外の有名俳優まで出演するみたい」
「マジで、マジでェ!?」

 吊革に掴まりながら、周囲の会話を聞き流す。

 ヤレヤレ、久慈樹社長も流石だな。
ユークリッドを創ったのは倉崎 世叛だ。
けれども、それをプロデュースしたのは久慈樹 瑞葉だと言われている。

 二人は親友で、天才・倉崎 世叛の影に隠れる存在だった、久慈樹社長。
光である天才が亡くなり、影に徹していた彼が表舞台に登場したのだ。

「だけど……今は……」

 今のボクには、他に考えるべきコトがある。

 一つは、障害事件を起こしたタリアの事だ。
相手方に重大な非があり保釈になったとは言え、事件を起こした事実は消えない。

 それにユミア……彼女は、どう思っているのだろうか?

 彼女は、心根の優しい女の子だ。
天空教室に集った仲間の為に、机や椅子、ベットまで揃えてくれた。

「タリアのコト、気にしてるだろうな……」

 ホームに雪崩れ込む、地下鉄車両。
ボクは大量の人ごみと一緒に、外へと吐き出された。

「それに……」
 改札へと続く階段を登りながら、考える。

「ユミアにしてみれば、今回の久慈樹社長の会見も、面白くないんじゃないか?」

 ユークリッドを創ったのは、二人の天才だけじゃない。
兄想いの、小さな女の子の力があったハズだ。

 でもユミアの影響力は、これから更に失われていくだろう。
そんな状況を、彼女は……うわッ!?

「せ~んせ。何浮かない顔してんのさ?」
 バシッっと背中を叩かれたボクは、驚いて振り返る。
すると、ライオンの様な金髪の女の子が、ニカッと笑った。

「なんだ、レノンか」
「なんだは無いでしょ。失礼だなあ」
「悪い、悪い。今日は買い物か?」

「そだよ。二人と一緒にねェ」
 レノンが視線を送った先には、星のように明るい金髪の双子がいた。

「ボクたち、洋服を買いに行ってたんだ」
「他にも、日用品とか色々とね」

「そうか、カトル、ルクス」
 ボクは、三人の女子高生たちと共に、改札をくぐる。
「それにしても、三人で買い物とはな」

「ボクたち、ずいぶん仲良くなったしね」
「レノンって、ガサツだケドいいヤツだよ」
「ガサツってなんだよ。ガサツってェ!」

 三人は、冗談が言い合えるくらい仲良くなっていた。

 ボクはそれが、壊れてしまわないかと恐怖を抱えながら、天空教室へと向った。

 

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