地下祭壇
「ここが、秘密の入り口ミル~♪」
「異教徒には反応しない、魔法がかけてあるミルゥ~♪」
バイオレット色の巻き髪に、褐色の肌の四人の少女たちが、地下へと続く秘密の階段を自慢する。
「ボクたちからすれば、異教徒はお前たちの方なんだケド」
「それも、どちらに視点を置くかで変わるのじゃ」
「流石に、人の子供を生贄に要求する魔王の立場には、共感できないわ」
カーデリアが言った。
「要求はしてないミル」
「人間の信者が、勝手に捧げたミル」
「そ、そうなの?」
「まあこの辺りは、雨も降らず河も湖も干上がってしまっておるでの」
「作物が育たず、やむを得ず子供の命を捧げたってワケかよ」
やり切れない表情を浮かべる、赤毛の少女。
ミラーラ、ミリーラ、ミルーラ、ミレーラの四人は、先頭に立って階段を降り始める。
一行もそれに続いた。
「ここが、お前たちの城なのか?」
「城は、もっと降りて行ったとこでござるレヌ」
「マグマの湖の中央に、あり申すレヌ」
武人の性格を持つ、レナーナ、レニーナ、レヌーナ、レネーナが説明する。
マスカット色のポニーテールの四人は、最後尾を警戒するように付いて来ていた。
「どうやらアレが、かつて『力の魔王』とか『恐怖の魔王』と呼ばれた、『モラクス・ヒムノス・ゲヘナス』の城らしいぜ」
少女となったシャロリュークの指先には、マグマの湖にそびえる、牛頭の虚像があった。
「足元には気を付けるミル」
「脆弱な人間は、マグマダイブすると一瞬で死んじゃうミル」
かつて『力の魔王』とか『恐怖の魔王』と呼ばれた少女たちが、注意喚起する。
「イヤ……我らも今は、脆弱な人間なのじゃぞ?」
「そ、そういえばミルゥ!?」
「危うく飛び込むトコだったミル!」
一行は、地底のマグマ溜りの前にたどり着く。
とてつもない熱気と、硫黄の悪臭がパーティーを手荒く出迎えた。
「ところで、この溶岩湖をどう渡れというのじゃ?」
「心配なっしんぐミル」
「そこの岩陰のボタンを押すと、橋が降りる仕組みでござるレヌ」
溶岩湖に、巨像へと続く黒い石橋が降ろされる。
一行はその橋を渡って、牛頭の巨人の内部へと足を踏み入れた。
「なんだよ、中はがらんどうじゃねえか」
巨像に入った一行が上を見上げると、空洞がどこまでも続いていた。
「かがり火が焚かれてるケド、薄暗くて不気味ね」
カーデリアは、頼りなくなった幼馴染に身を寄せる。
「アレが祭壇だな。黒ずんだ血が、大量にこびり付いている」
「小さな髑髏も大量に、転がっているな」
真っ白な髪に、褐色な肌の双子姉妹は、髑髏をポンポンと叩いている。
「あまりバチ当たりなコトすんなよ。ネリーニャ、ルビーニャ」
「死霊の神にとっては、こんなの見慣れたアイテムだ」
「お前らとて、動物の肉を食う時、それが死体とは思わんだろう?」
「床は黒曜石に候レヌ」「渋いでござろうレヌ~?」
「像は生け贄の儀式用でござるレヌ~♪」
「子供の悲鳴が漏れないように、人間が設計し申したレヌ」
「邪神や魔王とは、ここまで感覚が違うのか?」
「ま、妾はこれが悪趣味と思えるくらいの感覚は、あるがの」
「確かにルーシェリアの城って、悪の威厳みたいなのがあったよな」
「こ、こりゃ。ヘンんに褒めるで無いわ」
頬を染めるルーシェリアを、舞人は不思議に思った。
「しかしよォ。ヤツの気配が、全く感じられねェな」
「留守なのか、ココを棄てたのかは知らねえが、この祭壇には居ないみて~だな?」
「でも何か手掛かりが、残されてるかも知れないわ、シャロ」
「そうだな……」
「みんなで、探してみるのじゃ!」
「ところでサタナトスは、どこか『自分の部屋』とか決めてたのか?」
舞人は軽い気持ちで、八つ子に問いかける。
「究極几帳面なヤツだったから、バリ決まってたミル」
「拙者の城なのに、一歩たりとも入れて貰えなかったレヌ」
「もっとも前は体もビッグで、入りたくても入れなかったミル」
「この部屋にそうろうレヌ」
「な、なんだってェ!?」
予想に反し、核心を引き当ててしまう。
前へ | 目次 | 次へ |