アメーバ
「……こ、ここが、サタナトスの……住んでいた部屋!?」
舞人は、チャラ男と武人の八つ子に問いかける。
「そ~だと言ってるミル」
「間違いござらんレヌ」
部屋は、巨岩を繰り抜いて作られていた。
「なら、探るしかねえな。油断すんなよ、お前ら!」
「解かってるわ、シャロ」
「まだ何処かに、ヤツが潜んでるかも知れねえからな」
赤毛の少女を中心にした『覇王パーティー』の三人は、警戒しながら扉を開ける。
「随分と、視界がボヤけてやがんな?」
「それに鼻に突くこの臭い……何なのかしら?」
部屋は強烈な薬品の匂いが立ち込め、辺りの装置から激しく蒸気が噴き出していた。
「なんだか、薄気味悪い部屋ね。ヘンなビンやら薬品やらが散らばってるわ」
「やたら分厚い本とか、大量にありやがるぜ」
「リーフレアなら泣いて喜びそうだがよ。オレはこ~ゆ~本、苦手だなぁ」
筋肉男が本を放り投げると、床に魔方陣が浮かび上がり、『何か』が召還され始めた。
「やっべ。罠(トラップ)かッ!?」
「ヤツめ、オレたちがココを嗅ぎ当てるのを、予期してやがったな!」
「来るわよ、シャロ。みんな、戦闘準備よ!」
パッションピンクの髪の少女は、弓をつがえる。
「……ま、待って下さい。アレって、人じゃあッ!?」
舞人は咄嗟に、カーデリアを制した。
「人って……そんな……嘘でしょ?」
一行の前に召還されたのは、多くの人間がアメーバ状の生物に取り込まれた姿だった。
「ああ、こんなのって……ウッ!?」
カーデリアは思わず口を覆う。
「中でまだ、生きてやがる。おそらくさっきの村の、村人……だろうな」
「……どうやら、それだけでは無い様じゃぞ?」
「え、なんだってんだ、ルーシェリア?」
「ホレ、ご主人サマよ。『姿が変容して行く』のじゃ!」
「クッ、既にヤツの剣に刺されて……『魔王』になりかけてやがるな!」
シャロリュークの推測したとおり、生きた村人を大勢呑み込んだアメーバ状の生物は、白く輝き始めると、部屋の天井を突き破り『一体の巨大な魔物』へと変貌を遂げた。
「サタナトスは一体、何の研究をしているんだ……」
ブツブツと、小声で呟く蒼髪の少年。
「魔力の小さな人間を、大量に集めて剣を使ったらどうなるか……ってトコだろうな」
赤毛の少女は、言葉では平静を装っていても、表情は歪んでいた。
「魔物が襲って来るのじゃ!」
アメーバは、巨大な魔物へと変貌を遂げる。
「こんなのって……こんなのってッ!?」
魔物は、『人間』と『蛇』と『猫』と『牛』の四つの顔を持っており、巨大なトカゲを思わせる四つ足の下半身で、一行に突進して来た。
「うわああああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッ!?」
無闇やたらと剣を振り回していた舞人は、魔物の巨木の如き尾の一撃を喰らって、岩盤へと叩きつけられた。
「落ち着くのじゃ、ご主人サマよ!」
「グハッ……で、でも……!?」
経験不足の新米英雄は、自分の心を押さえる術すら学んでいなかった。
「まずは、足止めだ、カーデリア!」
「……奏弓・『トュラン・グラウィスカ』よ。トカゲの脚を狙って!!」
けれども弓は、分厚い皮膚にことごとく跳ね返される。
「きゃあああぁぁーーーーーーーーーッ!!?」
カーデリアもまた、魔物の突進に跳ね飛ばされてしまった。
「面白い。今度は我らが行く」
「その首、貰い受ける」
ネリーニャとルビーニャの双子姉妹は、それぞれの死霊剣・『べレシュゼ・ポギガル』と『フェブリュゼ・ポギガル』を抜いて、魔物に立ち向う。
「ギャアアアアァァァーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
魔物の『猫』と『牛』の首が刎ね飛ばされ、地面に転がった。
「ま……魔物の首が……!?」
するとそれは、数人の『人間の首』となり、粉々になって消滅する。
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