ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

一千年間引き篭もり男・第07章・11話

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地球のラグランジュポイント

 シャラー・アダドは、ボクたちが艦隊を組んで接近するのを確認すると、火星から遠ざかる軌道を推進し始める。

「セミラミスさん……かとは思うが、どこに向っているか解るかな?」
 テル・セー・ウスの艦橋でボクは、中学生くらいの体躯の3人の少女たちに聞いた。

「このままですと、太陽系を上方向に抜ける軌道になります」
「それって、地球の北極方向ってコト?」
「はい。詰まるところ、オールトの雲まで目ぼしい天体はなにもありません」

 オリティアが、ボクの質問の意図を組んで答えてくれる。

「簡単に、軌道を割り出させない腹積もりか。火星の反応はどう?」
「今のところ、追っ手を出して来る様子はありませんね。時の魔女の侵攻で、焼け出された人々は着るモノも無く、食べ物すら行きわたっていない区画もあるそうですから」

 メラニッペ―が言った。
どうやら彼女の才能は、ボクに似合った服を見繕うコトだけでは無いらしい。

「倉廩実つれば礼節を知り、衣食足れば栄辱を知る……か」

「暴動が発生していたりも、するんですって。暴動なんて、この何百年間無かったコトよ」
「キミらだって、イーピゲネイアさんに加担し暴動をしたじゃないか?」
 ボクはアンティオペーに、反論してみた。

「ア、アレは、人間たちのアーキテクターに対する扱いが、酷かったから……それに今は、火星の話をしているんです」
 少しふてくされる、テル・セー・ウスの艦長。

「暴動ってのは、現政権であるマーズ政権に不満を抱いているってコト?」
「それもありますが、アーキテクターと人間との確執もあるようです。襲ってきたQ・vic(キュー・ビック)は、アーキテクターだったコトが確認されておりますから」

「そうなのか、オリティア。実際に、あんな謎の立方体の大群に襲われたら、アーキテクターに不信感を抱くのも、解る気がするよ」

「もしくは、意図的にそう誘導した可能性もあります」
「なるホドね。Q・vicは……」
 ため息を吐く、ボク。

「火星の人々の心に、アーキテクターに対する恐怖を植え付ける、手段だったってコトか」
 時の魔女は、人々とアーキテクターの間にあった信頼を、大いに揺るがせた。

「宇宙斗艦長。シャラー・アダドが、軌道を変えました」
「引き続き、追尾を頼む」
 テル・セー・ウスと約200隻の艦隊は、シャラー・アダドの背中を追って、深淵の宇宙を航行する。

「オリティア、凡(おおよ)その進路は割り出せるか?」
「少なくとも、太陽系の内側に向かっているコトは確かです」
「火星の内側って、地球じゃないのか?」

「そうとも限らないんですよ」
 全ては自動コントロールの艦の艦長が、艦長の椅子に後ろ向きに座りながら言った。

「地球のラグランジュポイントに、いくつものコロニー群が形成されてる……ってトコかな?」

「アレ、知ってたんですか、艦長?」
「1000年前の古びたロボットアニメの設定でも、一般常識だからね」

 キョトンとする、アンティオペー。

「シャラー・アダドが向かっているのは、どうやら地球とほぼ一致する軌道……つまり、地球のL1かL2のラグランジュポイントのようです」

 地球のL1、及びL2のラグランジュポイントは、地球と太陽を結ぶ直線状にあり、L1は僅かに内側、L2は僅かに外側に位置していた。

「そうか、残念だな」
「なにが残念なんですか、艦長?」
「ボクの時代のロボットアニメじゃ、そこにコロニー群は無かった」

 モニターに映し出されたシャラー・アダドは、蒼く輝く宝石のような惑星を飛び越えて、地球の外側へと向かう。

「どうやら目的地は、地球のL2のラグランジュポイントみたいだね」
「はい、艦長。シャラー・アダドが、我が艦に着艦許可を求めてます」

「この艦の艦長は、キミだろ。ボクは賓客を、出迎えに行って来るよ」
 ボクが、格納庫へと辿り着く頃には、シャラー・アダドは既に、テル・セー・ウスのハンガーに収まろうしていた。

「セミラミスさん……久しぶりだな」
 実の妹であるナキアさんが亡くなって、クーリアが火星を襲った首謀者になってしまったコトを考えると、どう声を掛けていいか思案に悩んだ。

「ナキアさんの駆ったセンナ・ケリグーとは、同系統の機体って聞いたケド、こうして見るとシャラー・アダドの方が、プロポーションが良いな」
 ボクがどうでもイイ感想を述べていると、シャラー・アダドの豊満な胸にあるコクピットハッチが展開する。

「え!?」
 ボクは、思わず叫んだ。

 降りて来たパイロットが、ヘルメットを脱ぎ去ると、漆黒のクワトロ・テールが無重力のハンガーに舞った。

「セミラミスさんじゃない……キミは……時澤 黒乃!?」
 振り向いたパイロットの顔は、確かに時澤 黒乃の顔だった。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第08章・第02話

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恋の不動産(リア・エステイト)!!

「うお、今度は上からモニターが!」
 全天候型ライブ会場の天井は、開閉式ドームの内側に半球体のクリアパネルと二重構造だった。
その中央部から、巨大でメカニカルなモニターがゆっくりと降りて来る。

 1曲目が終わり、4人の少女たちは、タイプライターを叩いていたアンティークなデスクの、後ろのドアの中へと消えた。

 インターバルを挟むのかと思いきや、降りて来たモニターの4方の4面パネルが、ボクの生徒たちの顔をアップで映し出す。

「ライアァァーーーーッ!」
「メリーたぁぁあーーーん!」

「テミルっちィ、こっち見てェ!」
「エリアぁぁーー、うおおお!」

「こ、これが……アイドルの応援ってヤツか」
 同時に、2曲目のイントロ部分が流れ出し、会場が再び揺れ始めた。

「ボクの生徒達が、大の大人をここまで熱狂させてしまうとは……な」
 アイドルライブ初心者のボクはそう感じたが、実際にはまだ初ライブだけあって、アイドルを応援をする人々もそこまで統制が取れているワケではないのだ。

「まずは、あたしが行くっスよぉーーー!」
 元気な声が会場に響き、4面あったモニターの全てが、テミルの顔に切り替わる。

 天井を覆うクリアパネルが、紫色の摩天楼を映し出すと、ブカブカのトレンチコートを着たテミルがステージに現れた。

「みなさ~ん、今日はアタシたちの初ライブに来てくれて、ホントありがとっス!」
「テミルっちーーーー、カワイイ!」
「やっぱ本物、パねェ!」

「アタシたちプレジデントカルテットは、前座なんて思ってやしないスか?」
 ステージの上でも、物怖じしないテミル。

「1番槍っスよ、1番槍の功名は、アタシらのモノっス!」
 テミルの下のステージが、アスファルト道路に変化する。

「それじゃ行くっスよ、『恋の不動産(リア・エステイト)』!!」
 イントロだけを繰り返していた曲が、進行した。
慌てて駆け出す、テミル。

「だ、大丈夫か、テミル……って、そう言う演出か?」
 思わず、ステージ演出に引き込まれそうになるボク。

 ポップでコケティッシュな曲を歌いながら、アスファルト道路を駆けるテミル。
当然、ルームランナーのようにその場で走っているだけなのだが、演出的に街の中を駆けているように錯覚する。

 テミルが歌と共に建物のドアをノックすると、プレジデントカルテットの他のメンバーがドアを開け、歌で応対した。
そんなやり取りが、3回繰り替えされる。

「不動産の家賃を、集金して周ってるのか。現実のアイツも、まあ似たようなモノだしな」
 それを曲として成立させてしまっている、レアラとピオラの性能の高さにも、驚きを隠せない。

 テミルが更に街を駆け、4つ目のドアをノックする。
けれどもプレジデントカルテットは、彼女の他には3人しかおらず、ドアからは誰も出て来ない。

「ン……これはどういった演出なんだ?」
 疑問を浮かべるボクだったが、周りは納得している様子だ。
ステージでは、一瞬だけ曲が止まり、テミルはハッとした顔をしている。

 会場は、大いに盛り上がり、曲は終了した。

「テミルのヤツ、これだけの観客を前に大したモノだな。一部、解らない演出もあったケド」

「なんで、解らないのよ!」
 顔の下辺りから、いきなり大きな声がする。

「うお、ユ、ユミアか。脅かすなよ」
 下を見ると、栗毛の少女がボクをジト目で見ていた。

「まったく先生ってのは、これだから……」
「な、なにか言ったか?」
「別にィ」

 最初の台詞ホドの音量(ボリューム)が無かったため、ユミアのその後の言葉はよく聞き取れない。
そうこうしているウチに、次のアイドルがステージ中央に立っていた。

 教会の鐘(ベル)が鳴り響き、天井のクリアパネルが、ルネッサンス期の教会の天井絵に切り替わる。
天井の4面パネルも、全て白いローブを着た少女の姿に切り替わった。

「今度は、エリアか……」
 ボクの目は、ステージの神秘的な少女に釘付けとなった。

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キング・オブ・サッカー・第7章・EP001

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ポスティング

「なあ、雪峰。この書類は、これでいいか?」
「ああ、OKだ。倉崎さん、一応目を通して置いてください」
 事務所に入るなり、慌ただしい会話が聞こえて来る。

 そう……デッドエンド・ボーイズは、河川敷の練習場の近くに、事務所を手に入れていた。

「お、一馬が来たぜ」
 ベージュ色のソファーに寝そべって、マンガを読んでいる黒浪さん。
事務所は、廃業した印刷会社だった3階建てのビルの3階にあり、地下には駐車場もあった。

「来たじゃ無ェよ、お前も手伝え」
「オレさま、そーゆーの、マジ苦手なんだケド」
「書類の作成なんざ、オレだって苦手だ。時間無いんだから、早くしろ」

 紅華さんにマンガを取り上げられる、黒浪さん。

「イソギンチャクのヤツは、下で千鳥さんと一緒なのにな。オレさまも、下で作業したかったぜ」
「金刺は、動画編集ができるだろ。お前はせいぜい、荷物運びだろうが」
「ウッセー。動画編集さえ覚えれば、オレさまだって千鳥さんと……」

 建物の1階と2階には、動画制作会社である、サーフィス・サーフィンズが入っていた。
デッドエンド・ボーイズは、空いていた3階を使わせて貰うカタチになる。

「しっかし雪峰。こんな調子で、今年のリーグ戦参戦に、ホントに間に合うのかよ?」
「加盟申請の書類は、全て整えて送ってある。後は、許諾を待つだけなんだが……」
「中々、認可が降りないのですよ、紅華くん」

 ウチの有能なブレーンでもある、雪峰さんと柴芭さんが言った。

「でもさあ。4月の後半には、地域リーグも始まるんだろ?」
「お前のマジックで、なんとかならないのかよ、柴芭ァ!」

「なんとかしたいところですが、こればかりはどうも……」
 チラリとチームオーナーの方を見る、占い魔術師。

「デッドエンド(行き止まり・行き詰まった)・ボーイズと言う、名前通りになって来たな」
 他人事のように、椅子の背もたれに伸びをする倉崎さん。

「……倉崎さん、それシャレになってないですよ」
 呆れる、紅華さん。
他のみんなも、似た顔を浮かべていた。

「オレも黒浪と同じく、事務作業はどうも苦手でな」
「倉崎さんの場合、経理から他企業とのコンタクトから、ホームページの制作やSNSでの宣伝まで、全て雪峰か柴芭任せっスからね」

「イ、イヤア、優秀なスタッフが居てくれて、助かってるよ」
「逆に2人が居なかったらと思うと、ゾッとしますって。しっかりしてくださいよ、倉崎さんがオーナーなんスから」

「わかってるよ。ここを借りるだけでも、けっこう借金してるんだ。もう後戻りは、出来んさ」
 ため息交じりに、社長のデスクに突っ伏す倉崎さん。

 事務所やマイクロバスの経費は、高校生である倉崎さんの財布から出ている。
Zeリーグ期待のスーパースターと言えど、チームオーナーって大変なんだなあ。

「一馬、ビラ配りに行こうぜ。事務所作業より、マシだろ?」
 黒浪さんが、大量のチラシの束を持って来て言った。

「しかし、カラープリンターが使えたのは幸運だったな」
「だよな。だってこれ、メッチャ綺麗にプリント出来てるぞ」
 雪峰さんに言われ、デッドエンド・ボーイズの宣伝チラシを1枚取って眺める黒浪さん。

「元は、前の印刷会社でも使われていた、高性能レーザープリンターですからね。流石に輪転機まではムリでしたが、パソコンなども数台引き継がせて貰いました。せっかくのご厚意です。有難く、活用して行きましょう」

 柴芭さんの話では、廃業した印刷会社から、プリンターやパソコンを数台、譲り受けたみたい。

「一馬も、半分持ったな? んっじゃ、ちょっくら行って来るぜ」
「お前たち、少し待ってくれ。実は、ポスティングの仕事も引き受けていてだな……」
「ふェ、どゆコト?」

「つまりはだな。近所の会社や店舗からも、ポスティングの依頼を受けている」
「1枚配るも、5枚配るも変わらないですからね。こうやってチラシを折って、あらかじめ5枚で1セットにして置くんです」

「なんだか、折り紙みて~だな。よし、オレさまたちもやってみようぜ」
 ボクは、コクリと頷く。
やってみると、確かに折り紙みたいだ。

「今日は、初日だからな。事務所近辺のこのエリアに、チラシを投下して来てくれ」
「なるホド、まずは肩慣らしってトコだな」

「そうだ。いずれは自転車を使って、遠方まで行って貰う。人の家やマンションに、無断で入る場合もあるんだ。くれぐれも、失礼の無いようにな」

「わ、解ってるケドさ。もし相手が切れまくって来たら、どうすんだよ?」
「現場でなんとも出来ない状況になったら、事務所に振ってくれ。なんとか、謝って収めるから」

 や、やっぱ仕事となると、厳しいよね。
ボクは戦々恐々としながら、チラシを抱えて事務所を出て行った。

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ある意味勇者の魔王征伐~第11章・66話

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龍天降下(ドラゴンバースト)

『グハハ、我の配下を討たせはせんぞ。我が、息子たちよ』
 2人の王子たちの前に飛来し、鋭利な牙の並んだ口で豪快に笑う、大魔王ダグ・ア・ウォン。

「コウモリの嬢ちゃんは、やられちまったか……」
「兄上。父上の左上の腕を」
 ギスコーネの指摘した、大魔王の4本ある腕の1つには、漆黒の髪の少女の頭が握られていた。

『この小娘も、我と我が軍隊を前に良く戦った。ガハハ』
 ルーシェリアを、地面へと放り投げる大魔王。

 その背後に、城の残骸で構成されたゴーレムが飛来し、上空ではウォータードラゴンやクラウドドラゴンの群れが、黒雲の中を悠然と飛び回っている。

「ク……うう」
 天空都市の地面に転がった少女は、全身が紅い血に染まっていた。

『かつては、冥府の魔王にして暗黒の魔王と言われた、ルーシェリア・アルバ・サタナーティアが、赤い血を流すとは皮肉なモノよ……』
 大魔王は爪の生えた巨大な脚で、漆黒の髪の小さな頭を踏み潰そうとする。

「ギャッ……カハッ!!?」
 天空都市の地面が陥没し、ダグ・ア・ウォンの周囲に土煙が巻き上がった。

「オヤジ……なんてコトを!」
「いえ、見て下さい。兄上!」
 再びギスコーネが、兄のバルガ王子に催促する。

「ヤラセ ハ シナイ……」
 そこには、ルーシェリアを抱えた舞人が立っていた。

『なるホド、大した身のこなしよ、小僧。我が、直々に相手をしてくれようぞ』
「待て、アンタの相手はオレたちだぜ」
「父上、刃を向けるコトをお許し下さい」

 それを阻むかのように、実の父親へと斬りかかる2人の王子たち。
けれどもその進路を、城の形をしたゴーレムが塞いだ。

「ジャマしやがって。城のゴーレムたァ、ふざけた趣味をしてやがる!」
「ですが兄上、相手は強敵です」
 2人は、巨城兵を仰ぎ観る。

 ルック・ゴーレム(巨城兵)は、両肩から腕にかけてがタレットと呼ばれる塔になっていて、背中にも2基の小堡(バービカン)が貼り出していた。
胸壁からは6門の大砲が顔を出しており、王子たちに向かって火を噴く。

「グォ、撃ってきやがたぞ!?」
「これでは迂闊に、近づけません」
 王子たちは、動く巨城を前に苦戦を強いられ、舞人たちに近づけなかった。

「ス、スマンな……ご主人サマよ。妾としたコトが……情けない限りじゃ」
 舞人の腕の中で呟く、漆黒の髪の少女。

「グルルゥ……」
 ルーシェリアを抱く力を強め、喉を鳴らし警戒する舞人。
その紅き瞳は、蒼き龍の姿を捉える。

『これで未熟な邪魔者は、いなくなった。まずはキサマのその力、見極めてやるとしよう。龍天降下(ドラゴンバースト)ッ!!』
 4本の腕を組んだまま言い放つ、ダグ・ア・ウォン。

「ご主人サマ……上……じゃ……」
 ルーシェリアが言い終わる前に、天空から水の龍と雲の龍が舞い降りて来て、舞人たちを襲った。

「ガアアアアアアーーーーーッ!!」
 紅の剣が、襲い来るウォータードラゴンの1匹を、縦にスライスする。
けれども水の龍は、瞬時に元の形状を回復した。

『キサマの剣は、魔族を少女に変えると聞くが、ウォータードラゴンの正体は海水よ。斬れは、すまいて。クラウドドラゴンとて、然(しか)り!』
 水の龍と雲の龍は、舞人がいくら斬っても直ぐに元の姿を回復し、再び攻撃を仕掛けて来る。

「ムダじゃ、ご主人サマ……よ。なにか、方法を考えねば……」
 闇雲に龍を斬る舞人の胸に抱かれながら、漆黒の髪の少女は打開策を考える。
けれども、朦朧とする意識の中では、良い考えは浮かばなかった。

『所詮は、獣か。この程度の智謀と力とは……失望したぞ』
 自ら生み出した魔物たちを従えて、舞人に近づくダグ・ア・ウォン。

「グルル……」
 すると舞人は、白い靄(モヤ)の中へと消えた。

「オイ、ギスコーネ。ずいぶんと、霧が出て来やがったじゃねェか」
「ええ、兄上。どうやら彼は、水の龍や、雲の龍を、無作為に斬っていたワケでは無いようです」
 ギスコーネが言った通り、天空都市を覆うように白い霧が立ち込める。

『ヌ、これは……!?』
 大魔王が自身の身体を見ると、無数の亡霊たちが纏わり付いていた。

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一千年間引き篭もり男・第07章・10話

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ハートの髪飾り

「もう1度、移動が必要になるんなら、ゼーレシオンを出す必要は無かったな」
 ボクは白い巨人と一体となると、再びスペースランチの狭いペイロードベイに身を屈める。

「きゃああッ!?」
 すると、コクピット内部の椅子の後ろから、少女が転げ落ちて来た。

「あうゥ~、痛いのですゥ!」
「セ、セノン、なんでここに!?」
 頭をぶつけた栗毛の少女は、パンツ丸見えになっている。

「お、おじいちゃんだけじゃ、なんか心配で……つい」
「ついじゃ、無いだろ。これから何処に連れて行かれるかも、解らないんだ」
 可愛い下着を慌ててスカートで隠したセノンに対し、普段より厳しい口調で言った。

「も、もう、お別れしたままなんて、イヤなのです。シャトルから、燃えてるアクロポリスの街を見たとき、おじいちゃんが死んじゃってないか、心配で心配で……」
 大きなタレ目から、大粒の涙を零すセノン。

「艦長、どうかされましたか?」
「悪いんだが、少し時間をくれ。ワケは後で話すから」
 ボクはアンティオペーにそう返すと、セノンを引っ張り上げた。

「あのサブスタンサーに乗ってるのは、恐らくセミラミスさんだ。セミラミスさんは、悪戯好きではあるが、温厚な人だ。普通に考えれば、危険は少ない任務だろう」
「それじゃあ、連れて行って……」

「でも、時の魔女が絡んでいるなら話は別だ。いつ、危険が襲ってくるか解らない」
 窮屈そうにうずくまるゼーレシオンの上に立つ、ボクとセノン。

「実際に、クーリアは魔女によって洗脳をされ、彼女の義姉であるナキアさんは、命まで落としたんだ」
「それは、解ってます……でも!」
「セミラミスさんは、クーリアとナキアさんの義姉だ。悪いが、連れていけない」

「そう……ですか。わかりました」
 クワトロテールの1本を握って、俯くセノン。

「すまない、セノン。キミには、生きていて欲しいから」
 ボクは彼女の手に、自分の手を重ねる。

「ペンテシレイアさん。セノンを、頼みます」
『了解致しました、艦長。どうか、お気をつけて』
 艦橋にいるであろう、ペンテシレイアさんの声が、ハンガーに響いた。

 スペースランチに乗り込んだボクは、イーリ・ワーズを後にし、新たなる標準旗艦へと移動する。

「アレが、キミが艦長となる艦か、アンティオペー」
「流石に同型艦だけあって、代り映えがしませんね」
 ランチを操縦する、クリムゾンレッドのソバージュヘアの少女が答えた。

「宇宙斗艦長、あの艦に命名する権利を、いただけないでしょうか?」
「へ、命名って……まあキミの姉さんの話じゃ、指揮もし易くなるらしいし、構わないよ」

「では、『テル・セー・ウス』と、名づけます」
「テーセウスと、ペルセウスを足した感じだな?」
「そんな感じです」

 そのままだった。

「こんなコですが、宜しくお願いしますね、宇宙斗艦長」
 レンガ色のストレートヘアをした少女に、頼まれる。

「キミは、オリティアと言ったね」
「はい。戦術面や、艦隊運用はお任せ下さい」
 どうやら彼女は、優秀な参謀らしい。

「わたしは、メラニッペーです。服のコーディネイトは、わたしにお任せくださいませ」
 ニコやかに微笑む、ライム色の天然パーマの少女。

「あ、ああ。頼むよ」
 そんなスキルが役立つことがあるのかと思いつつ、一応は頷いた。

 ランチは同じ形の後部ハッチから、同じ配置の格納庫に入る。

「なんだか、同じ艦に戻って来たと錯覚するな」
「AIやサブスタンサーが製作した艦は、寸分たがわず同じ配置だったりしますからね」
 ランチを降りると、ボクはもう1度ゼーレシオンをハンガーに立たせる。

 胸部ハッチを開け、辺りを見回した。
当たり前だが、栗色のクワトロテールの、コケティッシュな少女の姿はない。

「セノン……ゴメンな」
 彼女が握っていたクワトロテールには、時澤 黒乃の形見である髪飾りが付けられていた。
ボクはそれを知っていて、彼女を置いてきたのだ。

「艦長、どうかされましたか?」
「イヤ、なんでも無い。今行くよ」
 ボクは、3人の少女たちと艦橋に向かう。

「では、アンティオペー艦長。出航の準備を」
「わたしが、艦長……はい、了解です」

「オリティア、この新造艦隊に振り分ける艦艇の選択を頼む」
「お任せください。1分で終わらせます」

 優秀なクルーによって運用され始めた、テル・セー・ウス。
数千の艦艇を引き連れて、シャラー・アダドの先導する深淵の宇宙に向け出港した。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第08章・第01話

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アイドルのライブステージ

 最新のアプリ・ユークリッターは、日本をボクの生徒たちの話題で持ち切りにする。

 『プレジデントカルテット』、『ウェヌス・アキダリア』、『プレー・ア・デスティニー』、そして『サラマン・ドール』。
今まさに華々しいデビューを飾るであろう、4組のアイドルユニットは全て、天空教室の生徒だった。

「どうだい、キミの生徒たちの晴れ舞台だ。しっかりと目に、焼き付けて置いてくれたまえよ」
 久慈樹社長が、隣の席で何か言っているが、大歓声が邪魔して聞こえない。

 ボクは今、ユークリッドのプロデュースする4組のアイドルたちが初ライブを行う、記念すべきライブ会場に居た。

「こ、こんな大ステージで、アイツら……本当に、大丈夫なのか?」
 久慈樹社長の方を見るが、やはり聞こえてはいないようだ。

 巨大なすり鉢状のライブステージの、中間地点のVIP席に座るボク。
2階ほど下に位置するステージは、まだ幕に覆われていて、スタッフたちが準備を進めている。
上を見ると、上端の観客席は地上3階くらいの高さにあって、全ての観客席がビッシリと埋まっていた。

「観客の方々も、ハデな衣装を着てますね。これが、ケミカルライトか。アイドルのステージで、みんな振ってるヤツですね」
 周りのボルテージに引きずられ、思わず質問してしまうが、やはり答えは返って来ない。

 すると、ステージに貼ってある立方体の白い幕に、内側から照明が当てられ、英字新聞のようなアルファベットの文字列が、幾つも流れた。

「『Is everyone ready to begin?』……みんな、準備はいい?」
「『Let's liven things up!』……盛り上がって、行きましょう!」
「『I hope you'll have fun in our live events』……ライブを、愉しんで行ってね!」

 教師の性(さが)なのか、表示されている英文を、訳し始めるボク。
すると、表示されていた英字がすべて消え、『PRESIDENTS QUARTETTE』の文字が、大きく踊る。

「プレジデントカルテット……ライア、メリー、テミル、エリアの4人か」
 ステージを覆っていた立方体の幕が、パアっと弾けた。
幕は無数の紙となって、周囲の観客席に散らばる。

「ス、スゲエ、これメリーたんのスナップだ!?」
「オ、オレは、テミルっちのだぜ!」
 舞い散る紙を拾った観客たちから、歓声が上がった。

 けれどもステージには、観客の予想を裏切る光景が展開される。
4つに区切られたステージの上で、アンティークな60年代のアメリカオフィスを思わせるデスクに座る、4人の女性。

 アコースティックな音楽が流れ、まるで4人はオルゴールの上の人形のようだ。

 ライアは弁護士風のデスク、メリーは教師のデスク、テミルは不動産屋の雑然としたデスク、エリアは教会の一室を思わせる簡素なデスクと、それぞれの目指す職業に合ったデスクに座って、それぞれの個性に合ったタイプライターを打っていた。

「これはまた、凝った演出だな」
 腕を組み、感心するボクの周囲で、観客たちも同様にザワ付いている。

 カタカタと響く、タイプライターの打鍵音がクローズアップされ、次第に音量を増して行った。
耳障りにも感じる音が頂点に達したとき、ステージが真っ白に光り輝く。

「アコースティックな曲が、ロック調に替わった!」
 地下に基礎を打ち込んだであろう、頑丈なライブ会場が揺れ始めた。

「ライアちゃーーーーんッ!!」
「うおぉぉーーーエリアぁぁぁぁ!」

「メリーたぁああーーん!」
「テミルっち、最高ォォーーーーー!」

 会場のあちこちで成人した男たちが、ボクの生徒たちの名前を絶叫する。
フォーマルなビジネススーツをアレンジした衣装で、歌い踊る4人の生徒たち。

「これが、アイドルステージか……」
 ボクは、始めて体験するアイドルの生ライブに、呆気に取られていた。

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キング・オブ・サッカー・第六章・EP054

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視聴覚室の弁当会議

 時は、少しだけ巻き戻る。

 曖経大名興高校サッカー部との激戦を終えた、翌日の月曜日。
ボクは、筋肉痛で重たい身体を押して、昨日対戦した自分の学校に登校した。

 人見知りなボクは、いつもの通り無言で午前中の授業を切り抜ける。
誰もトモダチの居ないボクは、昼休みになると自分の机の上に、お母さんが作ってくれたお弁当の包みを広げた。

 ……やっぱ1人で食べるだけだと、寂しい感じがするな。
銀色の弁当箱は、まだ蓋が閉まったままだ。

 でも、どうしてだろう。
今までは、普通に食べてたのに。
今日はナゼだか、いつもより寂しさが増して……。

 ボクはふと、都会の中にある校舎の窓の外を見る。
4月も半ばを過ぎた青空の下には、雑然とした家々や背の低いビルが並んでいた。

 ……サッカーをしてると、まったく寂しさを感じないのにな。

 思えばボクはもう、1人ぼっちでサッカーをしてるんじゃない。
チームには、紅華さんや雪峰さん、黒浪さんや杜都さんがいる。
みんなとの出会いが、走馬灯のように思い浮かんだ。

 みんなと出会えたのは、倉崎さんのお陰だな。
スカウトなんて嫌で嫌で仕方無かったケド、今にして思うとやって良かった。

 アレから、セルディオスさんが監督になって、海馬コーチや龍丸さんたちも加わって、デッドエンド・ボーイズもずいぶんとチームらしくなって来たよな。

 少なくとも、サッカーをしているときは1人じゃ無いと思えると、寂しさも幾分和らいだ。

 さて、ソロソロ食べないと、休憩時間が終わっ……。
ボクは、銀色のフタを開けようとする。

「よォ、一馬。昨日はいい試合だったな」
 するとボクの背中を軽く叩(はた)きながら、1人の生徒が声をかけてきた。

「……とは言え棚香先パイが、お前のチームメイトにレイトタックルかますは、頭突きをかますわ。考えて見れば、言うほどクリーンな試合じゃなかったか?」

 生徒は、頭に包帯を巻いているし、髪の毛も短くなっている。
けれども顔は、明らかにウチのクラスの委員長だった。

「悪いんだが、少し付き合ってくれよ。視聴覚室を借りてるんだ」
 屋上にでも行くのかと思いきや、生真面目な委員長に視聴覚室に誘われる。

「心配無いって。ちゃんと、許可は取ってあるからさ」
 そう言いつつ、千葉委員長は扉を開けた。

 プロジェクターの置いてある部屋の中に、円形に並ぶ机と椅子。
紫色の学ランを着た、昨日戦った対戦相手のメンバーたちが、弁当を広げながら話していた。

 なんだか、不思議な感覚だな。
チームメイトの紅華さんたちは、別の学校の生徒で、千葉委員長たちは同じ学校の同級生なんだ。

「千葉、言い出したお前が遅れるなんて珍しい、と思えば……」
「隣に連れちょるんは、昨日の……なんちゅう名前じゃったき?」
 鬼兎さんと彩谷さんが、千葉委員長に問いかける。

「御剣 一馬くんですよ。昨日は、やられてしまいました。どうぞ、席へ」
 桃井さんが立ち上がって、ボクを空いた席まで案内してくれた。

「キミがあの、凶悪な先パイたちに入部届を叩きつけて、プロ入りした男か?」
 斎藤 夜駆朗さんが、ボクをマジマジと観察してる。
ケド、そんなに大そうなヤツじゃないんだよ?

「噂は聞いてるぜ。オレらが入部届出す、前の話だったみたいだが」
「棚香先パイなんか、相当ブチ切れてたぞ」
 藤田さんと渡辺さんの情報に、背筋が凍り付くボク。

「一馬、お前が入部しなかったのは残念ではあるが、お前が決断した道だ」
「そうですね。ボクたちと同学年でプロ入りだなんて、羨ましい限りですよ」
「オレたちも、より一層精進せねばならんな」

 イヤイヤ……緊張して喋れなくて、パニクってああなっただけなんですケド。

「実は今日、今後の方針を決めるミーティングをしたくて、こうしてみんなに集まって貰ったんだ。お前にもアドバイスを貰いたくて、声をかけたってワケさ」

「千葉は、先パイがたに目ェ付けられちょるき」
「お前もだ、彩谷。明日からはお前だけ、練習量が5倍だ」
「なんでそうなるんじゃ、おかしかとォ!」

「だけど3年に歯向かって、大したお咎めも無いってのは意外だったな」
「今のところはな、藤田。今後、どうなるか解らんぞ」

「本来なら、オレだけでも退部届を、出すべきなんだろうが……」
「それは都合が良過ぎだ、千葉。もう、反旗は翻されたんだ。お前だけ逃亡するなど、許さんからな」
 隣に座った斎藤さんが、ビシッと言った。

「岡田先パイも、練習に付いて行けないと言う理由以外の退部届は、受け取らない方針だそうですから。案外、良い人かも知れませんよ」
「桃井、それは無か。岡田先パイは、修羅の如き人じゃき」

「今後、どんな状況に陥るかは解らんが、オレたちはサッカー部として全国を目指すつもりだ」
「御剣くんは、プロサッカー選手として、トップリーグを目指すんですよね?」
「お互い、乗り越えるべき障害は多そうだな。なあ、伊庭」

「ウス」
 やたらと長身の生徒が、始めて口を開く。
視聴覚室に、笑いの声が広がった。

 その日ボクは、始めて仲間と呼べる人たちと弁当を食べる。
その味は、いつもよりも美味しく思えた。

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