ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

ある意味勇者の魔王征伐~第11章・65話

f:id:eitihinomoto:20190914042011p:plain

覚醒のジェネティキャリパー

「こ、このアクト・ランディーグが、こんな小僧を相手に遅れを取るなど……あり得ぬ!」

 身体に纏わり付く白い靄(モヤ)たちが発する、耳障りな悲鳴のような声。
紫色の海龍は、自らの身体を縛る亡霊たちを振り払おうと、全身の筋肉を膨張させる。

「ムダ ダヨ。ソイツラ ハ、オマエ ノ カラダ ヲ シバッテ イルンジャ ナイ」
 獣の声の舞人が、ジェネティキャリパーを高く掲げた。

「ヲマエ ノ タマシイ ヲ クラッテ ヤガル ノサ」
 剣に貼り付いていた無数のパーツが外れ、刀身の周囲を不規則に回り始める。

『よもやこの時代に、科学者共の創ったあの剣を、使いこなす者が居ようとは……な』
 黄金の戦士ラ・ラーンは、その様子を確認し呟いた。

「な、一体ヤツの剣に……なにが起きている!?」
『解らぬか、小僧。あの者は己が剣の力を、再び解放しようとしておるのだ』
 傷付いたサタナトスの傍らに、黄金の戦士が歩み寄る。

「そんなコトは、解ってる。だが、そんなコトが可能なのか!?」
 金髪の少年の問いに、ラ・ラーンは答えなかった。

「ち、力が……サタナトス様より与えられし力が……抜けて……!?」
 片膝を付くまでに衰弱する、アクト・ランディーグ。

「ソコ ヲ ドケ。ボク ガ コロシ タイ ノハ オマエ ジャ ナイ」
「退きはせぬ。たとえこの身果てようと、サタナトスさまには指1本、触れさせね!」
 群がる亡霊に纏わり憑かれながらも、弱った身体を起こす海龍。

「クソ、なんでだ、アクト。そんなヤロウのために、お前ホドの男がどうして忠誠など誓う!?」
 3体の魔王と交戦中のバルガ王子が、叫んだ。

「無駄ですよ、兄上。サタナトスの剣であるプート・サタナティスによって魔王とされた者は、なんの疑いもなく、剣の主に絶対的な忠誠を誓うのです」
「だが、スプラやガラ・ティアも救えたんだ。アクトだってあるいは……」

 けれども3体の魔王の猛攻は激しく、舞人とアクトの戦いに介入するどころか、反撃の糸口さえ見い出せないでいた。

「ソレ ナラ シカタ ナイ。マズ ハ オマエ カラ アノヨ ニ オクッテ ヤル」
 ジェネティキャリパーの周囲を覆っていたパーツが外れて、その刀身が剥き出しになる。
舞人さえ見たことが無い、鮮血色の刀身が顕れた。

『ほほう。あの少年、剣の制御装置(リミッター)を、解除しおったぞ』
 しゃがれ声の、マ・ニアがほくそ笑む。

『あの剣は、聖王の剣でしょう。天に上がったアト・ラティアにて、このような光景を目にするとは驚きです。ラ・ラーン、あの者にも恐らくは………』
 柔和な声のトゥーラ・ンも、舞人に興味を示した。

『ウム。我らが主たちの血が、流れているのであろう』
 腕を組み、舞人の顔を観察するラ・ラーン。
3体の鎧姿の古代兵器たちは、戦いの行く末を見守った。

「グオオォォ、こ、この程度の低級亡霊が……このアクトをいつまでも、縛れると思うなッ!!」
 アクト・ランディーグの覇気が、纏わり憑かれた死霊たちを蒸発させる。

「ソウカ。デモ、モウ ソロソロ ゲンカイ ジャ ナイカナ?」
 再び、真紅のジェネティキャリパーを天に掲げる舞人。
今度は更に多くの亡骸から白いモヤが顕れ、疲弊した海龍を襲った。

「ツイデ ニ ソッチ モ カタヅケテ ヤルヨ」
 白いモヤは、バルガ王子たちが戦っていた、3体の魔王にも襲い掛かる。

「な、なんだ……か、身体が……動かねェ!?」
「ウウ、ウソォ……これじゃ……やられちゃうっしょ!?」
「マ、マズイんだな……」

 蒼玉の魔王メディチ・ラーネウス、黄玉の魔王ペル・シア、橙玉の魔王ソーマ・リオも、白いモヤによって身体の自由を奪われ、身動きが取れなくなった。

「これは好機ですよ、兄上。今なら、ヤツらを討てます」
「戦いに、公正(フェア)なんて無ェのは判っちゃいるが、どうもこう言うのはな……」
「では、見過ごしますか?」

「そうも行かんだろう。さっさと決着を付けて、アイツをどうにかしてやらねェとな」
 王子の視線の先の、漆黒の髪の少年は、口元に悦楽の笑みを浮かべていた。

「悪いがお前ら、オレの黄金の長剣『クリュー・サオル』で、再び黄金像に変えてやるぜ」
 意を決し、3体の魔王に向けて金色に輝く長剣を振りかざす、バルガ王子。

 そのとき、蒼き龍が王子たちの前へと舞い降りた。

 前へ   目次   次へ 

一千年間引き篭もり男・第07章・09話

f:id:eitihinomoto:20190804105805p:plain

イーリ・ワーズ

「艦長、お久しぶりですね。我が艦、『イーリ・ワーズ』にようこそ』
 サファイア色の髪をした女の子が、スペースランチから降りたボクを出迎える。

「艦に、名前を付けたのか。この艦は確か、トロイア・クラッシック社の標準旗艦だったよな」
 ランチから見た艦は、蒼く曲線的な美しい艦だった。

「はい。あった方が、戦事にさいし有利かと思いましたもので」
「アマゾネスの女王らしい、理由だな」

「アクロポリスの街の防衛線では、間に合わずに申し訳ありません」
 ボクの冗談にも、少女は顔を伏せる。
彼女は中学生くらいの体躯で、名をペンテシレイアと言った。

「ヴェル……イヤ、ウルズから聞いたよ。キミたちの艦隊は、タルシス3山に飛来した、時の魔女の手先と戦っていたんだろ」
 Q・vic(キュー・ビック)が飛来したのは、アクロポリスだけでは無かったのだ。

「わたくしの、判断ミスです。軍の基地施設が主なタルシス3山よりも、民間人が多く暮らすアクロポリスを優先すべきでした」

「キミは、目の前の人を助けたかったのだろう」
「……はい。目の前で焼かれる兵士たちを、見殺しには出来ませんでした」
「ボクも、同じ過ちを犯した。キミを、責められないよ」

 スペースランチを降りると、ランチの後部ペイロードベイになんとか収めた、前屈状態のゼーレシオンを起動させる。

「ゼーレシオンを、使われるのですか?」
「万が一の、ときのためだよ。使わないんなら、それに越したコトはないさ」
 ゼーレシオンをハンガーに直立させた後、ボクは機体を降りた。

 イーリ・ワーズは、MVSクロノ・カイロスのような張り出した艦橋は無く、艦の中央内部が閉鎖型の艦橋になっている。

「ここが艦橋か。クロノ・カイロスとは、ずいぶんと感じが違うな」
 足を踏み入れると、少女の姿となった12人のアマゾネスたちが、オペレーターとして働いていた。
彼女たちは、見た目こそ人間の少女だが、正体は生体アーキテクターだ。

「では、艦隊の指揮はお任せ致します」
 そう言ったのは、12人の少女たちの上官であるペンテシレイアである。

 パトロクロス宙域の戦いで、彼女たちはボクたちに敗れ、妖艶な大人の女性の身体を失ってしまう。
まだ調整中だった少女の身体に移って、それでもイーピゲネイアさんの為に戦ったのだ。

「イヤ。キミには引き続き、この艦隊の指揮を頼みたい。ボクは艦隊運用や戦術を学んでもいなければ、ヴェルみたいな高度なAIでも無いワケだからね」
「了解致しました。ですが、この艦隊を2つに編成されるのですよね?」

「そうだな。半個艦隊を編成して、例のサブスタンサーを追尾したいんだ。誰か指揮を任せられる適任者は、居ないかな?」

「では、わたくしの妹をお使い下さい。アンティオペー、オリティア、メラニッペーと申す者たちです」
 すると艦橋後部の扉が開き、3人の少女が入って来た。

「キミたちは確か、トロイルスで……」
 トロヤ群の主星パトロクロスにおいて発生した、イーピゲネイアさんを首謀者とする、アーキテクターたちの叛乱は、主星のみに留まらずトロヤ群全域に波及する。

「はい。あのときは、叛乱を鎮圧していただき、ありがとうございました」
「わたし達は、ペンテシレイアの妹なのです」
「半個艦隊の指揮は、わたし達にお任せください」

 紹介された3人の少女は、ボクの前に来て会釈する。
叛乱は、パトロクロスの衛星であるメノイティオスや、星自体が工業プラントに改造されたトロイルスにまで及んでいた。

「幸いにも、トロイルスのAIが聞き分けが良くて助かったよ」
 トロイルスの防衛隊に属していた彼女たち3人は、駐留艦隊の暴動によって、姉たち同様に身体を失ってしまうものの、やはり予備(リペア)の幼い身体を得て、生き永らえる。

「そうですね。アレに暴走されていれば、わたし達も助からなかったでしょう」
「製造途中だった艦艇やコンバット・バトルテクターも、ほぼ無傷でした」
「わたし達の機体も、このイーリ・ワーズに搭載されております」

「アンティオペー、お前に我が艦と同型の艦を授ける。オリティアとメラニッペーを副官とし、宇宙斗艦長を助けよ」
 ペンテシレイアさんが、3人の妹たちに命令を降す。

「はい、お姉さま……じゃなかった、司令官」
 意外にコケティッシュな、アンティオペー。

「大丈夫か。少し、心配になって来たぞ」
「大丈夫です。お姉さまは直ぐに、わたしを子供扱いされるのですから……」
「公事と私事の区別もつかんようでは……なあ」

「心配性だな、ペンテシレイアは。やはり、実の妹ともなると可愛いモノか」
「そ、そう言うコトでは、ありません。任務に適しているかどうか、見定めるのも……」

「部下を信頼するのも、上官の役目だよな」
「ま、まあ、そうですが」
 困り顔のペンテシレイアの背後で、3人の少女がほくそ笑んでいる。

「それじゃあ、行こうか。これ以上、女性(レディ)を待たせるのも失礼だからな」
 ボクは3人の少女たちを引き連れ、再び格納庫へと向かった。

 前へ   目次   次へ 

この世界から先生は要らなくなりました。   第07章・第38話

f:id:eitihinomoto:20200806163558p:plain

クリエイターとAI

「ホントに、大丈夫なのか?」
「ああ、心配ないって」
 ボクの友人は、言った。

「AIの能力ってのは、オレが思ってたより凄まじくてさ。折れた心が、完全に癒されてないのも事実だ。でもな……」

 ボクたちは最後の取材を終え、帰路に付いている。
夕日だった太陽は完全に沈み、替わりに白い三日月がスミレ色の空に上がっていた。

「自分が最先端で無くても、天才で無かったとしても、やるしか無ェってコトだ」
 友人が見つけ出した答えは、ボクの腑にも落ちる答えだった。

「凡人には、それしかないと思う。オレも、ずいぶんと悩まされたモノさ」
 郊外の街は、日が沈むと灯りが少ないせいか、薄暗くなるのも早い。

「お前がか?」
「ああ。相手は、ユークリッドの完成された教育動画だ。今だってボクの授業が、生徒たちにとって相応しいモノか悩んでいるくらいだ」

「なるホドな。確かに、似た悩みだわ」
「どうだ、良い曲は作れそうか?」

「それを聞くなって。正直、解かんねェよ」
「そうか……スマン」
 作曲家や芸術家らクリエイターの心は、その才能の無いボクには解らないモノだった。

「それでも、多少のきっかけは掴めたつもりだぜ」
「今日の取材行脚は、役に立ちそうか?」
「もちろんさ。お前の生徒たちの個性も、話してみてなんとなくだが解った気がするよ」

「お前は会った頃から、人の心に打ち解けるのが上手かったからな」
「それは、お前もだろう。お前の生徒と話して、お前が慕われているのが理解できたぜ」

「自分では、気付かないんだが……だったら、嬉しいな」
「まったく……お前らしいわ」

 ボクたちは、地下鉄に乗って都心部へ向かうと、ターミナル駅で別れる。
そこから再び地下鉄に乗って、それぞれの家へと帰った。

 ユークリッドがプロデュースする4組のアイドルユニットは、その日から1週間後の日曜日に正式にデビューを果たす。

 けれども、先行シングルと共に収録されるハズだった友人の楽曲は、どのグループのアルバムにも、1曲も収録されてはいなかった。

「どうなってるんだ、これは……」
 自宅のリビングでボクは、テレビのリモコンを握りながら、耳と肩で挟んだスマホに文句を言う。

「仕方ないさ。納期に間に合わなかった曲も、あったんだ。無事に提供できた楽曲だって、レアラちゃんとピオラちゃん作詞・作曲の楽曲の、どれにも及ばないレベルだ」
 スマホの向こうの友人の声は、意外にサバサバしてた。

「だけど、一銭も支払われなかったんだろ?」
「ウチの会社側が、そう言う契約で受けたらしい」
「そ、そうなのか?」

「どうも、オレに経験を積ませる絶好の機会だって、考えたみたいでさ。実際に、貴重な体験ができたと思ってる。アルバムに入らなかったのは悔しいケド、自分の力不足も認識できたし、なにが足りないのかも少しは解ったつもりだ」

「お、お前が良いのなら、構わんが……気を落とすなよ」
「わかってるって。また、連絡する」
 結局のところ、4組のアルバム全てに、レオラとピオラが作詞・作曲した楽曲が採用された。

 AIである彼女たちは、凄まじいレベルの楽曲を2000曲以上作り上げる。
アルバムにはグループごとに、2人が厳選した30曲がそれぞれ収録された。
ビッグデータから導きだされた楽曲は、当然のように人々に好評を博す。

「時代はやっぱ、変ってしまってるな」
 薄型テレビの中では、プレジデントカルテットの4人が、ビジネススーツをアレンジしたアイドル衣装で歌っていた。

「人間の将棋のプロ棋士が、AIに負けたのももう何年も前なんだ。アイドルの歌う楽曲を、AIが創ったところで何ら不思議でも無いのか」
 4人も、大御所が関わった先行シングルでは無く、レオラとピオラの楽曲を口ずさんでいる。

「AIが、人の仕事を奪う時代……か。これは、人事では無いな」
 ボクに残された時間も、あと僅かに迫っていた。

 前へ   目次   次へ 

キング・オブ・サッカー・第六章・EP053

f:id:eitihinomoto:20191113233812p:plain

紫色のエピローグ

 紫色のユニホームを脱ぎ捨てた、むさ苦しい男たちが屯(たむろ)する更衣室。
校舎のある都心からは、マイクロバスで30分ホド離れた場所にあるグランドの、奥まった場所に位置していた。

「千葉、テメー約束は覚えてんだろうな、オオッ!?」
 筋肉質の巨漢が、1年生のストライカーを威圧し、ガンを飛ばす。

「止めねェか、棚香」
「な、なんで止めんだよォ。コイツは……」
 そう言いかけた巨漢は、部長の目を見た途端反論を止めた。

「岡田部長、今回の件はオレが扇動するかたちで……」
「ウッセーな、千葉。オメーら1年に審判を降す前に、2年に言っとくコトがあんだよ」
 岡田 亥蔵は、退部届の乗った机を蹴り飛ばす。

「オイ、2年。お前ら、まずそこ並べ」
「え、オレらがっスか?」
「1年じゃなく……なんで、オレらが……」

「グダグダ言って無ェで、いいからさっさと並びやがれッ!!」
 曖経大名興高校サッカー部のキャプテンは、倒れた机を更に蹴り飛ばした。

 アドレナリン全開な顔の2年生が、3列に並ぶ。
総勢で、20名ホドの人数が居た。

「今日の試合、ウチのサッカー部は負ちまった。よって、方針を変える」
 一瞬、静まり返る更衣室。

「お前ら2年に、言って置く。今すぐ辞めた方が、身のためだぜ」
 汚れた壁にもたれ掛け、パイプ椅子に足を組んで投げ出す岡田 亥蔵。
その細い瞳は、2年生を舐めるように睨んでいた。

「あ、あの、岡田キャプテン。どうして辞めた方が、身のためなんスか?」
「負けた原因は、試合に出てた1年にあるのは明白ですよね?」
「どうしてオレらが、退部させられなきゃならないんスか?」

「アー、なんかオメーら、勘違いしてんな。誰も辞めろなんて、言って無ェだろ」
「え、で、でも今……」
「辞めた方が、オメーらのためだっつってんだ。残りたきゃ、残れ」

 キャプテンの言っている意図が解らず、互いに顔を見合わす2年生。
仕方なく仲邨 叛蒔朗が、副キャプテンとしての責務を果たす。

「方針を変えるっつってもだなあ、岡田。具体的に、どう変えんだよ?」
「そうだな、まずは練習量を倍に増やす」

「い、いきなり、倍かよ!?」
「オ、オレなんか、今の練習量ですら、ヒーヒー言ってんのに!?」
 キャプテンの言葉に動揺し、雑談を始める2年生たち。

「だから、言ってんだろ。イヤなら、辞めた方がオメーらのためだって」
「そ、そんな、いきなりヒドイっすよ!」
「大体、1年はどうするんスか!?」

「ま、1年も同じだ。とくに、後半から入って来たにも関わらず、ヘバッて座り込んでた田舎者にゃ、普段の5倍の走り込みを科すつもりだぜ」

「ヒャ、ワシのコトじゃろうか。鬼兎ォ、どないせば良かじゃきィ!?」
「知らん、勝手に決めろ」
 彩谷 桜蒔朗に、助け船は出されなかった。

「練習に付いて来れ無ェんなら、辞めて構わんぞ」
 岡田 亥蔵は、床に落ちた退部届を拾い上げると、ビリビリと破り捨てた。

「キャ、キャプテン……どうして?」
 それは千葉 蹴策が、試合の開始前に机に置いたモノだった。

「あ、勘違いしてんじゃ無ェぞ。汚れちまってるから、破っただけだ。明日、もう1度書いて来い」
「はい……」
 俯く、千葉委員長。

「練習に付いて来れないから、辞めますってな」
「れ、練習には、死んでも付いて行きます。でもオレは、今回の件で部に迷惑を……」

「知ったコトかよ。とにかく、練習に付いて来れないヤツは、オレんトコに退部届を出しに来い」
 既に、岡田 亥蔵は着替えを済ませていた。

「その他の内容の退部届は、受け取ら無ェから……じゃあ、解散!」
 岡田部長は、そのまま更衣室を後にする。

 その日を境に、曖経大名興高校サッカー部の練習メニューはハードなモノへと変った。
最初は、高を括っていた2年生たちも、初日で半数が辞める。
更に一ヶ月が経過した頃には、わずか2人しか残らなかった。

 千葉委員長は、けっきょく退部届を出さなかった。
替わりに髪を短くし、練習では常に先頭に立つ姿勢を見せる。

 彩谷 桜蒔朗も、毎日根を上げながらも、なんとかハードな練習メニューをこなす。
夏を終える頃には、見違える身体になっていた。

 岡田 亥蔵と千葉 蹴策の、意地っ張りなツートップ。
仲邨さんや桃井さんの居る中盤に、ボランチとして彩谷さんと鬼兎さんが加わる。

 リベロの斎藤さんに、センターバックにコンバートされた棚香さんがコンビを組み、左右のサイドバックは藤田さんと渡辺さんが務めた。
キーパーは、3年の小柄な川神さんと、1年で長身の伊庭さんがしのぎを削る。

 強化された曖経大名興高校サッカー部だったケド、夏の大会は3回戦で強豪と当たって敗れる。

 でも冬の大会は、始めて県大会を突破し、全国への切符を掴み取った。

 それから、ボクの母校のサッカー部は、快進撃を始めるのだけれど……それはまた、別の話としたい。

 前へ   目次   次へ 

ある意味勇者の魔王征伐~第11章・64話

f:id:eitihinomoto:20190914042011p:plain

幽体化(アストラリゼーション)

「これは……既に会話など、無意味であったか」
 アクト・ランディーグが、低く槍を構える。
それは対峙する相手を、最大限に警戒しているコトを物語っていた。

「つ、ついに、完全に闇に飲まれたみたいだね。これでキミも、魔族の仲間入りだ……」
 アクトの背に隠れるようにうずくまっていた、血まみれのサタナトスが立ち上がる。

「コロス……タクサン……ハカイスル……」
 普段の舞人とは異なる獣の声が、本能のままに唸りを上げた。

「お下がり下さい、サタナトス様。ここは、わたしが引き受けましょうぞ」
「そうさせて貰うよ。流石に今のボクじゃ、足手まといだからね」
 2人の戦場から離れる、金髪の少年。

「ガアアッ!!!」
 舞人は、両腕の間に漆黒のオーラを発生させ、球状にして射出する。

「ム……これは、即死魔法か!?」
 アクトは深紅の槍で、魔法を薙ぎ払った。

「死神の能力でも、取り込みおったか。厄介な……」
 堪らず間合いを取る、アクト。

「コンナノハ……ドウダ?」
 今度は両手の平に、漆黒の魔法の球を生成する舞人。

「魔法の数を増やすか。だが、冷静に見切れば問題ない」
「クク……ドウダカナ」
 舞人は生成した魔法を、天空都市の地面に向けて放つ。

「な……一体、なにを!?」
「ナアニ、タイシタ コト ジャナイ……」
 不敵に微笑む、漆黒の髪の少年。

「あ、あの力は……!?」
 急に怯え始める、クシィ―・ギューフィン。

 海底都市遺跡として、リヴァイアス海溝の底に沈んでいた、アト・ラティア。
クシィ―やラ・ラーンの目覚めと共にその都市機能を復活させ、天空へと舞い上がる。
街のあちこちには、1万年前の建築物と共に無数の遺体も転がっていた。

『どうされたのです、クシィ―さま』
「あ、あの力は、使ってはならぬ力なのです」
 トゥーラ・ンの問いかけにも耳を貸さず、栗毛の少女は両手で顔を覆った。

「どうやら、禁呪と呼ばれる魔法を使ったようだね」
 サタナトスの瞳に、黒いオーラに纏わりつかれ立ち上がる、1万年前の死者たちの姿が映る。

「こ、この魔法は、リ・アニメーション!?」
「ああ、そうだよアクト。アイツは、死体を蘇らせた……不老不死の魔物としてね」
 サタナトスすら戦慄を覚える、邪悪なる禁呪。

「オイ、どうなってんだ、ギスコーネ。街に転がってた死体が、動き始めやがったぞ!?」
「ボクに聞かれても、困りますよ。これをやったのは、あの蒼髪だった少年でしょう」
「まあそうなんだが……よ。なにがなんだか、サッパリだぜ」

 戦いの最中に死体が甦ったコトで、混乱するバルガ王子とギスコーネ王子。
けれどもそれは、相手も同じだった。

「ど、どうなってやがる。死体が歩き始めたぞ!?」
「こんな魔法、高位の死霊使い(ネクロマンサー)か、死神くらいしか使えないっしょ!?」
「あの小僧、死神だっただか?」

「それはあり得ぬ。ヤツの剣が、かつて吸い込んだ邪神の能力……と言ったところか?」
「セイカイ ダゼ。ヤルジャ ナイカ」
 舞人が、アクト・ランディーグの洞察力を認める。

 禁呪はかつて、ニャ・ヤーゴを襲った死霊の王『ネビル・ネグロース・マドゥルーキス』が使ったモノだった。

 ネビル・ネグロース・マドゥルーキスは、舞人のジェネティキャリパーによって消滅させられ、ネリーニャ・ネグロース・マドゥルーキスと、ルビーニャ・ネグロース・マドゥルーキスと言う名の、双子の少女へと姿を変える。

「そう言えば王都の戦いで、天酒童 雪影の配下だった双子の少女が、使っていた魔法だね」
 サタナトスの言う双子とは、ネリーニャとルビーニャのコトだった。

「フッ、だからどうしたと言うのだ、小僧。干からびた死体がどれホドの数甦ったところで、このアクトを倒すほどの戦力には、なり得ぬわ!」

「幽体化(アストラリゼーション)!」
 舞人が、真っ赤な眼を輝かせる。
すると、甦った死体から無数の白い靄(もや)が抜け出て行った。

「なん……だと。身体が……動かぬ!?」
 白い靄に纏わりつかれ、身動きが取れないアクト・ランディーグ。

「幽体捕縛(アストラル・バインド)……」
 舞人は、ゆっくりとアクトに近づいて行った。

 前へ   目次   次へ 

キング・オブ・サッカー~登場人物紹介・030

f:id:eitihinomoto:20210624132004p:plain

岡田 亥蔵(おかだ いぞう)

ポジション :FW
身長    :177cm
体重    :70kg
利き脚   :右脚
背番号   :10
愛称    :オカ
出身地   :愛知県
好きな食べ物:鰹の叩き、ウツボの唐揚げ
嫌いな食べ物:みそ汁

プロフィール

 曖経大名興高校サッカー部に所属する、3年生のセンターフォワード。
試合を11人揃って終えたコトが無いと言われる、同サッカー部のキャプテンを務める。
狂気じみた性格で、『曖凶の四凶』と呼ばれる4人の筆頭格。

 倉崎も認める天性の点取り屋で、嗅覚に優れ意表を突いたポジショニングから得点を狙う。
またコーナーなどのセットプレイでは、ボールが来るギリギリまで相手にマークさせて置いて、一瞬のスピードで抜け出しゴールを決めるスタイル。

 自分がゴールを決めるコトを最優先とし、殆ど守備はしない。
ウォーミングアップも極端に短く、ボールの感触を確かめるだけでアップを終えてしまう。

 実はドリブルもそこそこ上手いものの、自分がボールを持つコトを極端に嫌がり、味方のパスやこぼれ球などに対して点で合わせて勝負する。

 デッドエンド・ボーイズとの練習試合の前に、千葉 沙鳴にケガを負わせたコトで彼女の兄である千葉 蹴策の怒りを買う。
千葉が中心となって1年生が反旗を翻し、千葉が提案した得点勝負を挑まれた。

 本人が最たるものとは言え、荒くれ者の多いサッカー部の取りまとめには苦労している。
サッカーに対する情熱はあり、全国大会を狙ってはいるが、チームメイトや自身の暴力行為を抑える気は無かった。

 剣道の手練れである千葉 沙鳴を逆に追い込むホド、剣やケンカの腕に優れている。

 →第一話へ 
 →キャラ一覧に戻る 

一千年間引き篭もり男・第07章・08話

f:id:eitihinomoto:20190804105805p:plain

方針と来訪者

 アクロポリスの街では、多くの死者が弔われていた。
見るも無残な姿へと変わり果てた親族に、むせび泣く声があちこちで聞こえる墓地。
そんな映像が、MVSクロノ・カイロスのスクリーンに流れる。

「火星に生まれ、紅い大地にその身を埋める死者たち……か」
 人類の進化は、故郷の惑星・地球という当たり前のコトさえ、常識では無くしてしまっていた。

「やはりクーリアに対する風当たりは、相当に強いようだな」
 映像から、クーリアを恨む遺族たちの怨嗟(えんさ)の声が溢れ出す。

「そりゃ、仕方ないってモンだぜ、艦長。実際にあの女は、自ら手を降したんだ」
「そうね。それに、Q・vic(キュー・ビック)も、彼女が呼び寄せた下僕だと報道されているわ」
 プリズナーと、トゥランが言った。

「クーリアは、時の魔女に操られている。彼女自身の意志で、やったワケじゃ……」
「オレたちの他に、時の魔女の存在を認知しているのは、ディー・コンセンテスのアポロやメリクリウスたち……それにマーズら支配権を奪取したヤツらくらいだ」

「報道じゃ、時の魔女の名前なんて一切出て来ないぜ」
「全部、クーリアがやったコトになってる……」
「行方不明になってる取り巻きのコたちも、戦犯扱いされちゃってるしね」

 真央たちオペレーター3人娘も、同じ学園の同級生の安否を心配している。

「ウルズ。クーリアの取り巻きの女の子たちが乗ったシャトルの行方は、まだ掴めないのか?」
『おおよその経路は、判明致しました。火星のハルモニアに向かう途中の宙域で、停止していた形跡がございます』

「そ、そうなのか!?」
『その後、シャトルが停止していた宙域を、火星圏から撤退するQ・vava(クヴァヴァ) とQ・vicの編隊が、通過致しました。その後の消息は、不明となっております』

「ま、まさか、クーリアが撃墜したと……!?」
『その可能性は、低いと思われます。シャトルの停止していた宙域に、同機体の残骸は確認されませんでした。むしろシャトルを、鹵獲(ろかく)した可能性が高いのです』

「そ、それじゃクヴァヴァさまは、取り巻きのみんなを連れて行っちゃったの!?」
「ボクも、ウルズの見解が正しいと思うよ、セノン」
「そんな……」

 ボクはクーリアを、優れた女性だと思い込んでいた。
でもそれは、彼女の弱さにボクが気付かなかっただけなのだ。

「クーリアは、寂しかったのかも知れない。だから、取り巻きのコたちを連れて行った……」
 ブリッチから見える深淵の宇宙の何処かに、クーリアは居る。
けれども宇宙は、果てしなく広かった。

「ン、なんだ、ありゃ?」
「どうした、プリズナー」
「前方に、機体が見えるぜ。恐らく、サブスタンサーだ」

「ウルズ、確認出来ているか?」
『ハイ。機種は、登録データによれば、シャラー・アダド。ナキア・ザクトゥの使用していたセンナ・ケリグーと同系列の機体となります』

「ナキアさんと、同系列……ってことは、もしかして?」
『彼女の実姉である、セミラミスの機体です。ですが、近づいてくる気配はございません』

「どうするよ、艦長?」
「ボクたちに、来て欲しいってコトじゃないかな?」

「確かに火星の軌道上だと、完全にマーズの監視下にあるぜ」
「機体からの交信も無いんだろ、真央?」
「ああ、完全に沈黙を貫いたまま、ピクリとも動かねェ」

「だったら、行ってみよう。なにか重要なコトを、伝えたいのかも知れない」
「でも、罠って可能性もある……」
「もしクーリアみたいに、時の魔女に操られてたらマズイよ』

「真央、ハウメア、2人の心配は解る。だけど現在のボクたちは、何の目的もなく宇宙を漂っているだけだ。時の魔女に対する探究もせず、無作為に時間を潰すのも、危険だと思うんだ」

「そう……そうだよね」
「解ったよ、艦長。罠をあえて踏みに行くってのも、有りだと思う」

『全艦隊を、動かしますか?』
「いや、そこまで大袈裟では、火星に気付かれてしまう。ペンテシレイアさんの旗艦に移って、小規模な艦隊を編成して向おうと思う」

『了解致しました。では格納庫に、スペースランチを手配致します』
 ボクは、艦長の椅子から立ち上った。

 前へ   目次   次へ