ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第07章・07話

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軍神の動向

「現在、マーズはボクたちに対し、表立った敵対行動は見せてないんだよな?」

『はい。少なくとも自らの足場固めが終わるまでは、目だった敵対行為はして来ないでしょう』
 ボクの問いかけに答える、ウルズ。

「……つってもこの火星は元々、ヤツの統治していた惑星だぜ」
「新設の艦隊に配備される艦艇やアーキテクターも、着々とロールアウトしてるみたいね」
 プリズナーと、トゥランが言った。

「それもそうか。ボクの艦隊との戦闘で失われてから、着実に生産が続けられていたんだよな。艦隊の再編状況は、どれくらい進んでいるんだ?」
『既に2個艦隊分の装備が、完全に整っている模様です』

「マーズのヤツは、名前の由来が戦神ってのもあってか、戦時は自ら艦隊を率い、時にサブスタンサーを駆って戦場に赴くんだが……」
「平時の肩書は、マルステクター社の代表取締役なのよ」

『アクロポリスの街の地下に整備された、艦艇やアーキテクターの生産ラインは、マルステクター社の資産です。その他にも同社は、タルシス3山にも生産ラインを有しております』

「そうか、ウルズ。でも今回のアクロポリス侵攻で、ダメージは無かったのか?」
 目の前の長いテーブルに集った、艦橋スタッフに目をやる。

「少しはあったぜ。艦長のサブスタンサーが、街の地面に穴を開けてブチ落ちて、被害が出たんだ」
「そ、そうか、真央。ボクが落下した場所は、生産施設だったのか」

「ま、1億人以上の死者を出したアクロポリスの街に比べりゃ、被害は相当軽微だったワケだ」
「元々地下は、火星の最初の入植拠点……」
「隕石なんかの災害に対する、シェルター的な役割を果たしているからね」

 真央、ヴァルナ、ハウメアのオペレーター3人娘による、解説が終わった。

「生産施設には、ほぼ被害が無かったってコトか。人的被害がここまで拡大した戦闘だと言うのに、皮肉なモノだな」
 ボクは、尊大な艦長の椅子を立つと、眼下に見えるまだ少しは赤い惑星を見た。

 人類が入植を始めてから数百年、呼吸が可能な大気が生まれ、海にも水が満ち始めた火星。
人間によって放たれた、鳥や昆虫が空を飛び、木々も草花もゆっくりとだが、育ち始めている。

「父上、こちらにおいででしたか。艦隊の編成状況などは、このレムスが報告に上がったものを」
 アクロポリスの地下にある生産ラインにて、金髪に褐色の肌をした美少年が言った。

「フフ、どうも政治の場などと言うのは、性に合わなくてな。ロムルスのヤツに任せておけば、大方のコトはオレよりも遥かに上手くこなしてみせる。こうして製造の現場に立っていた方が、気が落ち着くと言うモノよ」

 そう言われたレムスは、父の傍らに立ち、生産ラインを見下ろす。
生産ラインと言っても、人間の姿は1人も見当たらない。
人の指示など無くとも、巨大なアーキテクターが、次々に生産され続けている。

「これは、『グェラ・ディオー』シリーズですね。人が乗らない、アーキテクター・タイプですが、時の魔女に支配される恐れはないのでしょうか?」

「楽観論などを除けば、あるであろうな。正直、時の魔女の能力には、抗えぬと思っている」
「そうですね。ボクや兄上が生まれたコトもそうですし、父上も……」
 生まれたばかりの少年が隣を見ると、父は険しい表情をしていた。

「そうだ、オレは時の魔女によって、この世に舞い戻った。そしてナキアは……」
「母上は、ボクたちの成長が早すぎたが為に、あんなコトに……」

 父と子は、口を閉ざす。
しばらくの間、生産ラインの製造用アーキテクターが紡ぐ、機械的なリズムだけが辺りに響いていた。

「時の魔女が、何を企んでいるかなど、オレには想像も付かない。だが、ナキアが共に統べると望んだこの太陽系……統べてみるのも、悪くは無かろう」
 そう告げると、マーズは歩き始めた。

「ええ、そうですね。ボクも、父上の野心に従いましょう」
 褐色の肌の息子も、父の後を追った。

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