ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第06章・第05話

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マーク・メルテザッカ―

「マークは、ボクやキミと同い年でね。ドイツ系アメリカ人の家に生まれたんだ」
 ボクはハグされたまま、ボクをハグする男のプロフィールを聞く。

「それは……さぞや資産家の、名家の家柄なんでしょうね」
 ボクは、動揺をしていたのだろうか?
少し、嫌味な感じの答えを返す。

「名家だってェ? アハハ、ぜんぜ~ん違うね」
 けれどもマークは、大きな声で爽やかに笑った。

「コドモの頃のワタシの家、アパートメントだたね。両親たまに失業して、食べ物貰いに教会行たよ」
 マークの予想外の答えに、ボクは会話を途切れさせてしまう。

 金色のエングレービングが施された、真っ白な高級外車に乗り、真っ白なスーツをさりげなく着こなす男の過去が、貧しい家の出身だったなんて。

「彼……マークは、ユミアには会ったコトがあるんですか?」

 どうしてだろうか。
いつの間にか、そう質問していた。

「ノー、実は初対面ね」

「マークは、日本に来るのも始めてなんだ。ユークリッドの同僚の教師となるんだから、先輩として良くしてやってくれたまえよ」
 久慈樹社長はボクの肩をポンと叩くと、再びマホガニーの扉を開ける。

「初対面って……会ったコトすら無いのに、彼はユミアを狙っているんですか?」
「ん。そうだが、何か問題でも?」
 社長は、ワザとらしいクールな顔で言った。

「それは問題ですよ。彼女はまだ、高校生なんです」
「だが、高校生なんて呼び方は、義務教育の学校が在った頃の名残りでしか無く、形骸的にそう呼んでいるに過ぎない。実際の彼女は、生徒であると同時に教師でもある」

「では、言い方を換えましょう。彼女はまだ、未成年の女のコです」
「その未成年の女のコと問題になっているのは、むしろキミの方じゃないか」

「アレは……勝手にマスコミが騒いでいるだけで、彼女はただの生徒です」
 なんでボクは、こんなに向きになっているんだ?
今日のボクは、全然冷静じゃない。

「アナタ……女のコ、好きになたコトありますか?」
「え?」

「アナタ、恋愛初心者ね。今ではワタシも、ガールフレンドたくさん、たくさん居るね。でも、昔はそうじゃ無かたから、気持ち解るよ」
 セレブな外国人に同情されている様で、心の内から悔しさが込み上げる。

「今は、恋愛の話をしているのでは無く……」
「まあまあ。これから天空教室に行って、生徒たちにマークの紹介をするんだ。キミも来たまえよ」

 ボクは仕方なく、社長の後に付いてエレベーターに乗り込んだ。
完全なる調和の取れたデザインのゴンドラが、地上へと降りて行く。

「彼女と直接会うの、愉しみね。きっと、驚くよ」
 軽くウェーブのかかった金髪の外国人は、独り言とも問いかけとも取れる言葉を繰り出しては、自らの言葉で盛り上がっている。

「久慈樹社長、先いてるね」
「日本の道交法は、護ってくれよ」
「オーケー、了解ね」

 マーク・メルテザッカ―は、颯爽と白い高級外車に乗り込むと、地下駐車場のスロープを駆け上がって行った。

「社長。どうして彼と、ボクを遭わせようと思ったんですか?」
「そりゃあ、面白そうだからだろ」
「なッ、そんな理由ですか?」

「アハハ、ウソだよ。そんなに向きになるなって」
 久慈樹 瑞葉は、運転席でハンドルを握りながら言った。

「実は、キミの気持ちを知りたくてね」
「ボクの……気持ちですか?」
「概ね、予想通りさ。じゃあ、行こうか」

 若き経営者とボクを乗せた車は、白い車の後を追い地上に出る。
スロープの先は相変わらず、マスコミのカメラでひしめき合っていた。

「一度、地上に出なきゃ行けないのも、大変ですね。地下駐車場同士、繋がってればいいのに」
「それもそうだな。どうせこの辺りは全てウチの土地だし、繋げてしまうか」
「ホ、本気ですか!?」

「さて、どうだかな」
 ボクの思い付きの提案は、ボクの予想を上回る形で具現化するコトになる。

 社長の黒塗りの高級外車は、ファンファーレの替わりに大量のフラッシュライトに出迎えられ、円筒形タワーマンションの地下駐車場へと潜って行った。

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一千年間引き篭もり男・第06章・21話

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切られた火蓋

「だ、大丈夫ですか!」「クーリアさま……」「お気を確かに!」
 シルヴィア、カミラ、フレイアが走り寄って、椅子から落ちそうになるクーヴァルヴァリアを支える。

「貴女たち。このロッジの中にも、医療施設があるわ。みんなで運ぶから、手伝ってくれるかしら」
 ロッジ風ゲストハウスの主である、セミラミスが言った。

「イヤ、わたしが運ぼう。ただし彼女は、時の魔女に洗脳されている可能性がある。そこの3人の娘たちも含めて、厳重に監視はさせて貰う」

 アポロはそう宣告すると、許嫁の少女をダビデ像の様な胸に抱える。
3人の少女たちも、護衛対象であるクーリアの元を離れるワケにも行かず、アポロに従って会議室のリゾート部屋を出て行った。

「フウ。気難しい議長サマは、暫し席を外された」
 金髪の好青年が、部屋からアポロが出て行ったのを確認しながら口を開く。

「そこで聞いて置きたいんだが、宇宙斗艦長。アナタは、アナタ自身の周りで起こった不可解な事象について、どう思っているんだい?」

「メリクリウスさんは、ボクの言葉なんて信じてくれるんですか?」
「そうだな、正直なところ、艦長の言葉全てを信じているワケじゃない。でも、全てがウソとは、どうも思えなくてね」

「わたくしも、同様に感じました。ウソにしては、余りにも話を盛り過ぎだわ。少なくとも、上手なウソの付き方では無くてよ」

「これはこれは。上手なウソの付き方を、是非ともレクチャーしていただきたいモノです」
「ご冗談を。わたくしがアナタに教えられるウソなんて、何もありませんわ」
 曲者同志、心の内を見せないメリクリウスとセミラミス。

「最初に宣言した通り、信じるかどうかは任せます。艦で起きた出来事を、お話します」
 ボクはそれから、MVSクロノ・カイロスの艦長となってからの出来事を、要約して話した。

「待たせたな。では、会議の続きを始めるとしよう」
 けれども、2人に話の感想を聞く時間すら与えられず、議長が戻って来て強引に会議は再開される。

「アポロさん。ボクからも質問があるのですが、構いませんか?」
「それは、我々の質問が終わってからにしてくれ」

「オイオイ。この会議の一応の名目は、査問審判なんかじゃなく、勢力同士の交渉会議なんだろ。だったら、構わないんじゃねえか?」
 プリズナーが、大量の嫌味を織り交ぜながら、雇い主の顔色を伺った。

「一理はあるか。何なのかね。手短に頼みたいところだが」
 相変わらずの高圧的な態度ながらも、許可を得るコトに成功する。

「『時の魔女』についてです」
「何を言い出すかと、思えば……」

「アナタ方は、時の魔女の存在をご存じですよね?」
 ボクの質問に、始めてアポロが口を噤んだ。

「アナタ方は、時の魔女の存在を既に知っていた。一体、時の魔女とは何者なのです?」
 トロピカルなリゾート風の会議室に、沈黙が流れる。
セミラミスさんと出会った時の、瀧の流れ落ちる音が大きく聞えた。

「それが解らないから、こうやってアナタに尋問紛いの詰問をしているのですよ」
 メリクリウスが、沈黙を破って答える。

「ですがアナタ方は、時の魔女に対して、あり得ないくらいの警戒心を抱いていた。何の情報も無い無害な相手であれば、そこまで警戒心を抱くとも思えません」

「時の魔女が……無害な相手だと!?」
「無害な相手とは、思っていないってコトですよね。アポロさん……」

 カッと目を見開いたまま押し黙る、太陽神。

「時の魔女に対して、アナタ方がそこまで警戒心を抱く理由は何です?」
 矢継ぎ早に、質問を繰り出す。
「時の魔女が、今の中枢勢力であるアナタ方に対して、何らかの脅威だからでしょう?」

 会議室に、再び静寂の空気が流れた。
近くを飛ぶカラフルな鳥の鳴き声や、昆虫たちの羽音が、場違いなSEを演奏している。

『ドゴゴゴゴォォッ!!』
 けれども今度の静寂は、轟音によって破られた。

「な、何だ。家が、揺れているぞ!?」
 日本に住んでいたボクの身体が、咄嗟に地震と判断してしまう。

「この揺れ……一体、何事だ」
「確認するわ。ブリッジに繋いで」
 アポロの問いに応えたセミラミスが、胸のコミュニケーションリングに指示を出した。

 すると、ヤシやハイビスカスの群生する庭を写していた全面ガラス戸に、メカニカルなブリッジの映像が映し出される。

「緊急事態です。現在、マーズ様の宇宙空母打撃群が、クロノ・カイロスとの交戦を開始しました」
 オペレーターが、戦端が開かれたコトを告げた。

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キング・オブ・サッカー・第五章・EP033

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ベンチプレーヤーたち

「ス、スゲエぞ。イソギンチャクが決めて、1点差だぜ、監督!」
 黒浪さんが、メタボな監督の方に振り向いて言った。

「監督、言ってましたよね。この試合、10点取られて負けるって。残り、5分っスよ」
「わ、解かって無いね、紅華。アディショナルタイム入れれば、10分はあるよ」
 セルディオス監督は、6-7と刻まれたスコアボードに焦っている。

「自分のチームが、頑張って追い上げてるんですから、喜ぶべきところでしょうに」
「柴芭、キーパーは、あの海馬よ。シュートされれば、ゴールが決まるレベルね。ボールにプレッシャーをかけようにも……」

「もう、レギュラーたちの体力は、残されていないと言うコトですか……」
 監督の懸念を理解した魔術師は、グランドに目を移す。
そこには、圧倒的に押し込まれるチームの姿があった。

「1点差に戻されちまったじゃねェか、九龍!」
「文句を言っているヒマがあったら、さっさとゴールを決めろ」

 狩里矢は縦関係のツートップで、ドリブルする新壬さんの後ろを九龍さんが追走する。

「じゃあ、お膳立ては任せたぜ」
 新壬さんは、ドリブルしていたボールを蹴らずに置いて、ディフェンスの裏へと走った。

「ウオッ……まったく、勝手なヤツだ」
 いきなり置かれたボールに何とか反応し、新壬さんの位置を確認する九龍さん。

「何を企んでいるかは知らんが、通させはせん!」
 キャプテンマークを任され、金刺さんのゴールを演出した龍丸さんが、進路を塞ぐ。

「先程はしてやられたが、今回はオレが勝つ!」
 九龍さんも身体を右側に振って、ドリブル突破を図った。

 龍丸さんは九龍さんに身体を当てながら、そのまま着いて行く。
首を振り、味方の位置を確認する九龍さん。
けれども無尽蔵の運動量を誇る旗さんには、汰依さんと蘇禰さんの2枚がマークしていた。

「パスの選択肢は無い。お前は、オレが防ぐ」
「いいや、押し通る。アイツにハットトリックを、決めさせてやらにゃならんのでな」
 両チームのキャプテン同士の、激しい一騎打ちが繰り広げられる。

「九龍さん、こっちです」
 中盤で、狩里矢のノーマークの選手が手を挙げる。

「任せたぞ、湧矢」
 九龍さんがその選手にバックパスをし、自分はそのまま右に展開した。
一瞬迷った龍丸さんだったが、亜紗梨さんにマークを受け渡してシュートコースを塞ぐ。

「なる程、なる程。そう来ましたか。キャプテンを任されるだけあって、素早い判断ですね」
 湧矢と呼ばれた選手は、旗さんや湯楽さん、忍塚さんと共に後半から投入された選手だ。

「なに油断してやがる。ボールは、貰ったァ!」
 同じく後半から投入の、ウチの那胡さんが激しいタックルを見せる。

「気付いてますよ、そんなの。解らないワケ無いじゃないですか」
 湧矢さんは、最小限のフェイントで那胡さんをかわした。
……と、同時に、右サイドにパスを放り込む。

「ナイスだ、湧矢」
「狙い通りですね。まったく、恐ろしい1年です」
 そこには、それぞれのマークを引き連れた、九龍さんと旗さんが待ち構えていた。

「マ、マズイ。ボールが入ったら……」
 九龍さんをマークしていた亜紗梨さんが、相手の意図を察知する。

「心配ねェって。数はこっちが上だ」
「ボールが入ったところで、止めて見せる!」
 旗さんのマークをしていた、汰依さんと蘇禰さんはボールを奪う気満々で待ち受けていた。

「マズイね。相手はあえて混戦になるのを予測して、放り込んで来たね」
「相手のキャプテンと、あのすばしっこいのが相手だろ。大丈夫かよ?」
「亜紗梨、汰依、蘇禰……なんとか止めてくれ!」

 ベンチから、海馬コーチ時代からのチームメイトに、エールを送る紅華さん。

 ボールは高く、九龍さんと亜紗梨さんが頭で競り合った。
身長では亜紗梨さんが上回っていたが、身体能力の差で九龍さんが競り勝つ。

「ナイス、ポストプレー。流石は九龍……なッ!?」
 スピードに乗ったまま、マークを引きは無しボールを受け取るハズだった旗さん。

 ……よし、ここだ!
 けれどもボクは、そのボールを狙っていた。

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キング・オブ・サッカー~登場人物紹介・019

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新壬 義貞(にいみ よしさだ)

ポジション :FW
身長    :178cm
体重    :69kg
利き脚   :左右両脚
背番号   :9
愛称    :新壬・二ィ
出身地   :群馬県
好きな食べ物:おっ切り込み、焼もち
嫌いな食べ物:小豆系のスイーツ

プロフィール

 狩里矢のユース出身のストライカーで、チームからも将来を嘱望される逸材。
点を決めるコトに固執する、生粋のストライカー気質で極度の自信家。
雄弁な言動に、実力が伴っていない部分もあり、周りとトラブルになるコトも多い。

 ユースでキャプテンを務めた九龍と、ツートップのコンビを組みゴールを量産した。
ユースでの実績を買われ、高校2年生にてトップチームへの昇格を果たす。

 九龍とは縦関係のツートップで、相手の死角から縦に抜けるスピード、ディフェンスの裏を取る能力、とにかくシュートをゴールに押し込む力に優れる。
テクニック寄りの基本に忠実なドリブルで、敵陣に斬り込む能力もある。

 デッドエンド・ボーイズとの練習試合の時点で、既に九龍と共にトップチーム昇格を果たしていた。
我がままで子供っぽくも見えるが、彼独特のカリスマ性があり、周囲に優秀な人材が集まる。

 ユース時代からのチームメイトである、九龍、忍塚、旗、湯楽を『四天王』と呼ぶが、当人たちからは非常に不評で嫌がられている。

 親は離婚していて、新壬は父方に引き取られた。
父親と2人暮らしの家は貧しく、それがサッカーでの彼のクレバーさに繋がった。

 湧矢と言う、裕福な母方の実家に引き取られた弟がいて、彼も狩里矢のチームの一員となる。

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ある意味勇者の魔王征伐~第11章・07話

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深紅の女将軍

「こ、このままじゃ……街が海に飲み込まれちゃいますよ!?」
 舞人と、リーセシル、リーフレアの双子司祭は、100パーセント海水で出来たイルカに跨って、崩壊する海底神殿を目指していた。

「この街は、海皇様と海の女王様の強力な泡の魔法によって、海の中に維持されてます」
「海底神殿の中に祀られた、海皇の宝剣『トラシュ・クリューザー』によって増幅させ、巨大な泡のドームを創っているんだよ」

 息の合った会話で、状況を確認し合う姉妹。
その間にも、街のあちこちで家が水没し、激流に飲まれる者が続出していた。

「それじゃあもし、2人のどちらかに何かあったりしたら……」
「泡の魔法ドームが、維持出来なくなります。現在の状況からすれば、その可能性が高いですね」

「でもさ、まだドームが完全には崩壊してないってコトはだよ」
「2人のどちらかは、まだ無事だってコトですね!」
 リーセシルの言葉に希望を抱いた舞人だったが、それは直ぐに断たれる。

「ククク……今のところは、無事と言うだけよ」
 女性の声が響いたかと思うと、3人が跨って3頭のイルカが元の海水に還った。

「うわあ、わたし達の魔法が解けたァ!?」
「姉さま、気を付けて下さい。進路の先に、誰か居ます!」
 神殿へと続く道に、深紅の鎧を身に纏った1人の女性が立ちはだかる。

「あ、貴女は……一体!?」

「アラ、可愛らしい坊やだコト。わたくしは、ガラ・ティア」
 女性は、アイスグリーン色の肌で、紫色のネイルの指を煌びやかな宝石で飾り、マゼンタ色の長い髪をしていた。

「7将軍の1人よ。でも残念ね。ここで貴方たちを、殺さなければならないの」
 豊満な胸の谷間にも、赤い珊瑚と金のネックレスがあって、鎧の下にターコイズブルーの水着とパレオを身に着けている。

「舞人くん。どうやらこの人、サタナトスの手先になってるかもだよ」
「ガラ・ティア様の身体から、禍々しい瘴気を感じます」
 舞人に危険を知らせる、リーセシルとリーフレア。

「一刻も早く、バルガ王子に合流しなきゃいけない時に、どうして……」
 舞人は、背中から漆黒の剣を抜いた。

「何ですの、その美しくない剣は。まるでガラクタを寄せ集めただけに、見えますわ」
「見た目程、生温い剣じゃありませんよ。ガラ・ティアさん!」
 舞人が、深紅の女将軍に斬りかかる。

「美しくない物に、存在価値は無いわ。醜い剣など、消え去りなさい」
 ガラ・ティアは、様々な種類の珊瑚で彩られた、コーラルピンク色の槍を振るった。

「グッ……うわあッ!?」
 槍は泡の水流を纏い、もの凄い勢いで舞人を襲う。

「わたくしの珊瑚槍『エリュ・トゥラー』は、泡の激流で敵を爆砕するのよ」
 深紅の女将軍の言葉を裏付ける様に、泡に纏わり着かれた舞人は藻掻き苦しんでいた。

「な、何で泡なんかで、こんなにダメージ受けてるの!?」
「き、聞いたコトがあります。バブルパルスと言って、水中での爆発によって発生した泡は、膨張と収縮を繰り返すコトで、とてつもない破壊力を生み出すのだと」

「随分と、お利巧さんね。貴女たちもしかして、ヤホーネスの双子司祭かしら?」
「そうだよ。7将軍に覚えて貰ってるなんて、光栄だね」
「呑気なコトは言ってられません。舞人さんが居なくなったら、また前衛が居ないんですから」

「そうだった。クーレマンスのヤツ、どうして何時も、肝心な時に居ないんだよォ!」
「ですね。後で、お説教してあげましょう」
 竜杖『ファフニ・ティーラ』と、星杖・『メティア・ブレイザ』を構える、双子司祭。

「ドラゴンの牙より生まれし、尖兵よ。龍の姫を守護せよ!」
 リーセシルが詠唱を始めると、宙から黒い牙がポトポトと地面に落ち、そこから漆黒の骸骨兵が生み出される。

「ほう、龍牙の兵を召喚したのか。だがそんなモノ、時間稼ぎにもならぬわ」
 ガラ・ティアのコーラルピンクの槍が、バブルパルスを発生させた。

「させません。招来せよ、風の申し子たち!」
 リーフレアは、骸骨兵に風を纏わせて泡の破壊から護る。

「チッ、小賢しいマネを……」
 難を逃れた骸骨兵たちは、深紅の女将軍に襲い掛かった。

「リーフレア、今のうちにアイツを倒せるだけの、魔法を完成させるよ!」
「はい、姉さま!」
 2人の司祭は、長い詠唱を開始した。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第06章・第04話

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遺された遺産

「悪いんだがまず、本社ビルに寄ってくれ。キミに会わせたい男が居るんだ」

 久慈樹 瑞葉は、運転席の左側のドアを開けて車を降りる。
ボクも右側のドアを開けて車外に出ると、カーディーラーのショールーム顔負けの高級車がズラリと並んでいた。

「どうやら既に、来ている様だね。ホラ、この車さ」
「これはまた、凄まじいデザインの車ですね……」

 目の前にあったのは、真っ白に輝くボディの高級外車で、ドアやフロントガラスの縁取りに金色のエングレービングが施されている。

「彼は、ワシントンで知り合った投資家でね。株やFXのトレーダーなんだ。自らファンドも立ち上げていて、ウチの株の3パーセントくらいは保有しているハズさ」

「ユークリッドの株と言ったら、今や相当な値段ですよね。それを、3パーセントも保有しているだなんて、とんでもない資産家の方じゃないですか!?」

 ボクと若き社長は既に、エレベーターに乗っていた。
天空教室のある超高層マンションのそれとは違って、外部の様子を伺い知るコトは出来ない密閉空間のゴンドラが、最上階を目指す。

「フフ、3パーセントの株式なんて、大した資産では無いよ」
「久慈樹社長からすればそうかも知れませんが、一般人からすれば一生働いても手に入れられない金額ですからね。配当だけで、十分暮らせるでしょう?」

「そうかもな。だがキミは、一般人が一生働いても手にするコトが出来ない資産を、手にするチャンスを持ち合わせているじゃないか?」

「ボ、ボクがですか? 例え高額宝クジに当選したって、現在のユークリッドの株式の3パーセントの額には、匹敵しませんよ」

「ヤレヤレ、キミはまだ気付いていないのかい」
 サラサラヘアの実業家は、肩を竦めて微笑んだ。

「瀬堂 癒魅亜(せどう ゆみあ)だよ」
「ユミアが、どうかし……」
 そう言いかけて、思わず言葉を詰まらせる。

「やっと、気付いた様だね。彼女は、ユークリッドの創始者である、倉崎 世叛の妹だよ」
 愚かなボクは、ようやく社長の言わんとするコトを理解した。

「アイツは自分の妹に、ユークリッドの株式の多くを遺したんだ。遺産相続による相続税や、株の追加発行によって比率は下がってはいるが、それでも20パーセントは降らない株式を、ユミアは保有しているのさ」

 ボクは、言葉を失う。
静音性の高いエレベーターの、駆動音だけが聞えて来た。

「キミがマスコミの報道する通り、彼女を手に入れられれば、彼女の資産はキミのモノにもなる」
「そ、そんなコト……彼女は、ボクの生徒ですよ!」

「だがね。もし仮に、彼女がキミに恋心を抱いるとしたら、キミは……」
 その時、エレベーターが屋上へと辿り着き、目の前のドアが開く。

「さて、社長室に彼が待っている。行こうか」
「はい……」
 社長は、マホガニーの扉を開いた。

「オー、久慈樹社長。お待ちしてマーシタ」
 ドアが開くなり、そこに居た金髪の男が大袈裟なジェスチャーで、自分の感情をアピールする。

「マーク、日本に来た感想はどうだい?」
「イエース、昨日おスシ食べたね。トテーモ、美味しかたよ。ヤハリ本場モン、アメリカのとは違うネ」
 男は、社長とハグをした。

 背は、久慈樹社長よりも少し高く、金髪には軽くウェーブがかかっている。
結婚式の披露宴でしか見ないような、真っ白なスーツを着こなし、サファイアブルーの瞳は好奇心に満ちていた。

「紹介するよ、彼はマーク・メルテザッカー。来週から、天空教室の英語の教師をやって貰うつもりだ」

 当初はボクが、全ての科目を受け持っていた天空教室。
理科・科学の鳴丘 胡陽(なるおか こはる)、社会・歴史の枝形 山姿郎(えがた さんしろう)に続き、3人目の教師がボクのポジションを奪うコトが確定した。

「アナータ、知ってますヨ。今、メチャクチャ注目されてる人!」
「そ、そんなつもりは無いですが、よ、よろしく……」


「でもアナータ、ユミアさんのコト狙ってるね。でも、それはワタシも同じよ」
「……え?」

「彼女、ベリベリィキュートね。彼女となら、アセット増やせそーよ」
 マークは、軽やかな口調でボクを抱擁する。

 アセットとはもちろん、『資産』のコトだった。

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一千年間引き篭もり男・第06章・20話

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偽りの記憶

「ボクが……時の魔女に繋がる……鍵?」
 メリクリウスの推察にボクは、不思議な感覚を持った。

「フン、確かに言う通りではあるな」
 アポロも、ボクたちへの詰問の矛を収める。

「自分では、自分がカギだなんて自覚は無いんですが……」
「ま、外側から見りゃあ、当てはまるコトだらけだがよ」
「そうなのか、プリズナー?」

 ボクの近くで、未来に来てからの行動の多くを、直接見て来たプリズナー。
そんな男の視点に、ボクも興味を持った。

「まず、1000年だかの眠りから目覚めた爺さんが、いきなり今の科学水準を上回る艦の艦長に抜擢されたんだ。少しはおかしいと、思わなかったのか?」

「何を基準にってのが、あるからな。1000年前の常識からすれば、人が人工子宮から生まれるだとか、貨幣が無くなっていて、巨大企業が国家になってるだとか、未来のあらゆる事象が常識外れだよ」

「ウフフ、宇宙斗艦長の仰っているのは、スペックやシステムの進化についてですわね。ですがいくら未来でも、なんの実績も無い人間を高性能艦の艦長にはしませんわ」
 セミラミスが、トロピカルなジュースを飲みながら言った。

「いいえ、問題はそこではありませんよ」
「アラ、そうなの。じゃあ、何が問題だと言うのかしら?」
 見解を否定されたセミラミスが、棘を隠した言葉をメリクリウスに返す。

「宇宙斗艦長の艦は、時の魔女が創ったモノなんですよね?」
「は、はい、そうです」
「そんな艦の艦長に、あなたは抜擢された……むしろそこが問題なんです」

「確かにそこは、疑問を感じました。どうして時の魔女は、ボクに艦を与えたのか。乗組員(クルー)の誰も、顔を見たコトが無い時の魔女が作った艦の、艦長を引き受けていいものなのかと」

「乗組員の誰も、顔を見たことが無いだと?」
「はい、アポロさん。時の魔女の顔も、姿カタチも一切見た者はいません」

「キミは……乗組員が嘘を言っている可能性を、考えたコトは無いのかね?」
「もちろんありますが、元から乗っていたのは60人の娘たちと、人工知能のフォログラムくらいです。少なくとも、娘たちは何も知らないのだと感じました」

「オヤ、こちらの偵察用アーキテクターの情報では、あなたの艦に巨大な街が存在し、そこに大勢の人間の姿も確認されているのですが?」

「仰る通り、MVSクロノカイロスには巨大な街があって、大勢の人が暮らしています。ですが街は、ボクが生まれた時代の街並みが再現されていて、中に暮らす人たちも自分が宇宙船に乗っているとは、思って無いみたいです」

「詰まるところそれは、時の魔女に洗脳されていると見るべきだろう?」
 アポロはいきなり、核心を突いて来た。

「確かに、アポロの言う通りかもな。あの街の中じゃあ、ハルモニア女学院のヤツらも全員、洗脳されてやがったしな」
 不遜な態度のプリズナーも、不可解な街の存在を疑問視する。

「な、何を言っているのです。それではわたくし達まで、時の魔女に洗脳されていると……!?」


「そうだぜ、クーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダ。アンタはあの街の中じゃ他の住人と同じ様に、そこが宇宙船の中だとは思わず暮らす、ただの青臭い小娘だったぜ」

「ぶ、無礼な。クーリア様に対し、失礼であろう!」
「わたしたちが洗脳だなんて、そんなワケが無いでしょう」
「大体、街ってなんなんですか!?」

 クーリアの護衛の3人の水着少女たちが、プリズナーに喰ってかかる。

「ホラな。今のお前らの記憶からは、あの街の中での出来事は、完全に削除されちまってるのさ」

「ふ、ふざけるな!」
「そ、そんなハズは……」
「ウ、ウソ……クーリアさまァ!」

 シルヴィア、カミラ、フレイアの3人は、不安な顔を主である少女に向けた。

「ど、どう言うコトでしょう、宇宙斗艦長。わたくしにも、街に居た記憶は無いのですが……」
 普段の気丈さや気高さとは正反対の顔を、ボクに見せるカルデシア財団のご令嬢。

「プリズナーの言った通りだよ、クーリア」
「だ、だとすれば……わたくしは、あの街の中では一体!?」

「あの街の中のキミは、ボクの時代の学校のクラス委員長だった。面倒見が良くて、周りに取り巻きの娘も居て、ボクにも世話を焼いてくれてるよ」

「そ、それでは本当に、わたくし達は洗脳されて……!?」
 真実を知った少女は、混乱の余り気を失ってしまった。

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