偽りの記憶
「ボクが……時の魔女に繋がる……鍵?」
メリクリウスの推察にボクは、不思議な感覚を持った。
「フン、確かに言う通りではあるな」
アポロも、ボクたちへの詰問の矛を収める。
「自分では、自分がカギだなんて自覚は無いんですが……」
「ま、外側から見りゃあ、当てはまるコトだらけだがよ」
「そうなのか、プリズナー?」
ボクの近くで、未来に来てからの行動の多くを、直接見て来たプリズナー。
そんな男の視点に、ボクも興味を持った。
「まず、1000年だかの眠りから目覚めた爺さんが、いきなり今の科学水準を上回る艦の艦長に抜擢されたんだ。少しはおかしいと、思わなかったのか?」
「何を基準にってのが、あるからな。1000年前の常識からすれば、人が人工子宮から生まれるだとか、貨幣が無くなっていて、巨大企業が国家になってるだとか、未来のあらゆる事象が常識外れだよ」
「ウフフ、宇宙斗艦長の仰っているのは、スペックやシステムの進化についてですわね。ですがいくら未来でも、なんの実績も無い人間を高性能艦の艦長にはしませんわ」
セミラミスが、トロピカルなジュースを飲みながら言った。
「いいえ、問題はそこではありませんよ」
「アラ、そうなの。じゃあ、何が問題だと言うのかしら?」
見解を否定されたセミラミスが、棘を隠した言葉をメリクリウスに返す。
「宇宙斗艦長の艦は、時の魔女が創ったモノなんですよね?」
「は、はい、そうです」
「そんな艦の艦長に、あなたは抜擢された……むしろそこが問題なんです」
「確かにそこは、疑問を感じました。どうして時の魔女は、ボクに艦を与えたのか。乗組員(クルー)の誰も、顔を見たコトが無い時の魔女が作った艦の、艦長を引き受けていいものなのかと」
「乗組員の誰も、顔を見たことが無いだと?」
「はい、アポロさん。時の魔女の顔も、姿カタチも一切見た者はいません」
「キミは……乗組員が嘘を言っている可能性を、考えたコトは無いのかね?」
「もちろんありますが、元から乗っていたのは60人の娘たちと、人工知能のフォログラムくらいです。少なくとも、娘たちは何も知らないのだと感じました」
「オヤ、こちらの偵察用アーキテクターの情報では、あなたの艦に巨大な街が存在し、そこに大勢の人間の姿も確認されているのですが?」
「仰る通り、MVSクロノカイロスには巨大な街があって、大勢の人が暮らしています。ですが街は、ボクが生まれた時代の街並みが再現されていて、中に暮らす人たちも自分が宇宙船に乗っているとは、思って無いみたいです」
「詰まるところそれは、時の魔女に洗脳されていると見るべきだろう?」
アポロはいきなり、核心を突いて来た。
「確かに、アポロの言う通りかもな。あの街の中じゃあ、ハルモニア女学院のヤツらも全員、洗脳されてやがったしな」
不遜な態度のプリズナーも、不可解な街の存在を疑問視する。
「な、何を言っているのです。それではわたくし達まで、時の魔女に洗脳されていると……!?」
「そうだぜ、クーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダ。アンタはあの街の中じゃ他の住人と同じ様に、そこが宇宙船の中だとは思わず暮らす、ただの青臭い小娘だったぜ」
「ぶ、無礼な。クーリア様に対し、失礼であろう!」
「わたしたちが洗脳だなんて、そんなワケが無いでしょう」
「大体、街ってなんなんですか!?」
クーリアの護衛の3人の水着少女たちが、プリズナーに喰ってかかる。
「ホラな。今のお前らの記憶からは、あの街の中での出来事は、完全に削除されちまってるのさ」
「ふ、ふざけるな!」
「そ、そんなハズは……」
「ウ、ウソ……クーリアさまァ!」
シルヴィア、カミラ、フレイアの3人は、不安な顔を主である少女に向けた。
「ど、どう言うコトでしょう、宇宙斗艦長。わたくしにも、街に居た記憶は無いのですが……」
普段の気丈さや気高さとは正反対の顔を、ボクに見せるカルデシア財団のご令嬢。
「プリズナーの言った通りだよ、クーリア」
「だ、だとすれば……わたくしは、あの街の中では一体!?」
「あの街の中のキミは、ボクの時代の学校のクラス委員長だった。面倒見が良くて、周りに取り巻きの娘も居て、ボクにも世話を焼いてくれてるよ」
「そ、それでは本当に、わたくし達は洗脳されて……!?」
真実を知った少女は、混乱の余り気を失ってしまった。
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