ラノベブログDA王

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ある意味勇者の魔王征伐~第11章・06話

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アクト将軍

 街の天井を覆い尽くす海の至る所から、海水の瀧が激しく流れ落ちている。
地面の水かさは増し、市場の屋台や商品の魚介類が押し流され、舞人たちの目の前を通り過ぎた。

「街が、大変なコトになってます。どうしましょうか!」
 崩壊する神殿へと急ぐ王子と、後を追った海皇パーティーの5人の姿は既に無い。

「そうだね、舞人くん。まずは、王子たちと合流しなきゃ」
「でもリーセシルさん。この水の流れじゃ、地上の人間には歩くこともままならないですよ」
 舞人たちは押し寄せる水の流れに苦労し、海龍亭の外に出るだけでもかなりの時間を費やした。

「では、水の流れを操ってみましょう。街中での魔法は本来、控えた方が良いのですが、そうも言っていられない状況ですからね」
 リーフレアは姉と共に呪文を詠唱し、3人の足元の小さな範囲の水流を変える。

「うあ。水流に押されて、勝手に身体が進んでいく!?」
「でも、海洋民族フェニ・キュア人のスピードには、ぜんっぜん敵わないよ」
「みなさん、逆流すら平気で泳いでおられましたからね」

「だけど、急がないと。この破壊が、サタナトスの仕業だとしたら……」
「だよね。リーフレア、あの魔法だよ!」
「はい、姉さま。アクア・ドルフィーネ!!」

 双子司祭の詠唱が、水そのものをイルカの姿へと変化させる。
3人は3頭のイルカに跨って、崩壊した海底神殿へと急いだ。

「オヤジ、無事か! 返事しやがれ!」
 その頃……バルガ王子は単身、水が溢れだす神殿へと突入する。

「オフクロ、何処だ。7将軍たちも、居ねえのか!」
「ククク……相変わらず、騒がしい王子ですなあ」
 王子の叫びに、激流のカーテンの向こうから返事があった。

「その声……アクト将軍か!?」
「いかにも、我は7将軍が1人、アクト・ランディーグよ!」

 低い声が響き、激流の中から海龍の首を持った大きな体躯の魔物が飛び出し、深紅の槍を振り上げて王子に襲いかかって来た。

「クッ、どう言うつもりだ、アクト。王子であるオレに、刃を向けるなど!?」
 バルガは咄嗟に、背中に挿していた槍で受ける。

「少しは腕を上げられましたな、バルガ王子。だが、我が金剛槍オロ・カルコンに砕けぬモノは無い!」
 海龍の将軍が金剛槍に力を込めると、王子の槍にのみヒビが入った。

「こんな槍じゃ、話にならねえか!」
 王子は槍を諦め、後ろに反転して金剛槍をかわす。
けれども完全には攻撃を防ぎ切れず、顔から胸にかけて鮮血が飛んだ。

「オロ・カルコンの一閃に、薄皮一枚とはな。次は、その身を貫いてくれようぞ!」
「王子を、やらせるかよ!」
「オラ、オレたちが相手になるぜ!」

 王子を刺すハズだった金剛槍は、2人の男の銛(もり)によって止められる。

「ビュブロス、ベリュトス、来てくれたか」
「当たり前だぜ、王子。それより、こりゃあ一体……」
「なんで7将軍のアンタが、王子に槍向けてんだ!?」

 攻撃を阻んだ漁師兄弟が、アクト将軍に詰問する。

「ダグ・ア・ウォン王は、魔王となられた」
「な……オヤジが、魔王にだとォ!?」
 バルガの脳裏に、双子司祭の言葉が過ぎった。

「我ら7将軍も、王と同じく魔王となる運命にあるのだ!」
 アクト・ランディーグ将軍の海龍の身体が、黒いオーラに包まれる。
その巨体はより一層巨大になり、皮膚の鱗も紫色から黒へと変化した。

「お、王子、これは一体!?」
「なんでアクト将軍が、こんなにデカくなっちまってんだァ!?」
 後を追って来たティルスとアラドスは、目の前の出来事が理解できない。

「どうやらヤホーネスの双子司祭の言葉は、真実だった様だな」
 最後に神殿に現れた、シドンが言った。

「どう言うコトです、シドン」
「どないすりゃあ、こうなるんや」

「アクト将軍は恐らく、サタナトスの剣に刺されたのだ」
「それって、魔力の高い人間を魔王へと変えてしまうと言う、剣のコトですか?」
「そ、そないなコトが、ホンマに起きんのかよ!」

「シドンが正しいぜ。それに魔王にされちまったのは、どうやらアクト将軍だけじゃねえ」
「な、何だと。それは本当ですか、王子?」
「残念ながら、将軍自身が言ってやがった。他の7将軍や、オヤジまで魔王になっちまったみてーだ」

 5人の海皇パーティーのメンバーは、絶句し耳を疑った。
けれども、目の前で神殿や街を破壊する、凶暴な魔王となり果てたアクト将軍の姿を見て、それが現実だと受け入れざるを得なかった。

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