ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

キング・オブ・サッカー・第五章・EP032

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陰謀に塗れた世界

「陰謀が……世界を覆っている……」
 ボクからボールを受けた龍丸さんは、そのままドリブルで前線に押し上がっていた。

「センターバックが、ドリブルでオーバーラップとはな。ボールを奪って、カウンターを仕掛けるぞ」
「了解っす、キャプテン!」
 狩里矢の九龍キャプテンと、旗さんが龍丸さんに襲い掛かる。

「キサマら、ロスチャイルドの人間か?」
「……は?」
「コイツ、いきなり何言って……あッ!?」

「やはりな。オレの目は、誤魔化せんぞ!」
 龍丸さんは、大きなスライドのドリブルで、2人を抜き去っていた。

「オイ、ピンク頭。あの龍丸ってヤツ、センターバックなのに相手を抜いちまったぞ!」
「龍丸は小学生時代は、フォワードや中盤をやっていたかんな」
 ベンチの紅華さんが、黒浪さんの質問に答える。

「次は、湯楽とのマッチアップだ。大型選手同士の、競り合いになるが……」
 雪峰さんが言った通り、龍丸さんの進路を湯楽さんの長い手足が塞いだ。

「やはりこの地球も、既にヤツらの魔の手が伸びていたのか」
 龍丸さんは、右足のアウトでボールを右に出し、強引に突破を図る。

「お前、何言って……と、油断はしないよ」
 湯楽さんも直ぐに反応し、ボールに長い脚が伸びた。

「ああ、ボールを取られる。ここでカウンターを喰らったら……アレ?」
 途中で説明を止める、黒浪さん。
龍丸さんが、右のインサイドでボールを切り返し、相手の股の下を通して抜き去った。

「アレは、キミの得意とするフェイントですね」
「まあな、柴芭。龍丸は、ドリブルのセンスもあるから、盗んでやがったのさ」
「ですがあれだけの技術がありながら、どうしてセンターバックをやっているのですか?」

 鉄壁だった、旗さん、湯楽さんのダブルボランチが抜かれ、慌ててセンターバックが対処し、間合いを詰める。
けれども龍丸さんは、左にパスを出した。

「う、うわ!?」
 パスは、ピタリとボクの脚に収まる。

「うお、ここでパスかよ。意表を突くプレイだぜ」
「違うな、クロ」
「な、なにがチゲーんだ、ピンク頭?」

「こっちや、一馬!」
 金刺さんの、声がした。

 顔を上げると、龍丸さんの対処に飛び出したセンターバックの抜けた穴に、金刺さんが金髪ドレッドヘアを靡かせながら走り込んでいる。

 ボクは、フワリとボールを上げた。
金刺さんの身体が、軽やかに宙を舞う。

「これで、1点差やでェ!」
 サーファーらしい、美しい空中姿勢と長い滞空時間のボレーが、狩里矢のゴールに突き刺さった。

「なあ、ピンク頭。今のはスゴいゴールに見えたんだが?」
「決めたのは、イソギンチャクだろ」
「それが、どうした。起点は完全に、龍丸じゃんか?」

「なる程。そう言うタネと仕掛けでしたか」
「あ、柴芭は解かったのか?」
「ええ、単純な答えですよ。彼は……」

「アイツはフィニッシュが、ド下手なんだよ」
 答えは、至極単純だった。

「マジかァ。アレだけ技術があって、ボールが持てんのにィ?」
「むしろ、性格の問題だろうな。アイツは極度の陰謀論者で、あらゆるモノに疑いを持っている」

「あ、確かにヘンだとは思うケド、それと何の関係が?」
「アイツは、自分をも疑っている。イヤ、自分の能力を、最も信頼してないんだ」

「だから、シュートを撃たない……と?」
「ああ、肝心なところでパスして、味方に任せちまう。フォワードだった頃も、打てば決まる場面でパスを出して、チャンスを潰しちまうコトもザラだった」

「それで、センターバックにコンバートされたのですね」
「アイツから見れば、世の中は陰謀に塗れているらしいからな。陰謀に立ち向かうって意味でも、ディフェンスのが性に合ってたんだろうぜ」

 ゴールを決め喜ぶ金刺さんとは対照的に、チャンスを演出した龍丸さんはゆっくりと自陣に引き上げて行く。

 ……龍丸さんって、ストイックで寡黙な人なんだなあ。
ベンチでの会話など露も知らないボクは、そう思っていた。

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ある意味勇者の魔王征伐~第11章・06話

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アクト将軍

 街の天井を覆い尽くす海の至る所から、海水の瀧が激しく流れ落ちている。
地面の水かさは増し、市場の屋台や商品の魚介類が押し流され、舞人たちの目の前を通り過ぎた。

「街が、大変なコトになってます。どうしましょうか!」
 崩壊する神殿へと急ぐ王子と、後を追った海皇パーティーの5人の姿は既に無い。

「そうだね、舞人くん。まずは、王子たちと合流しなきゃ」
「でもリーセシルさん。この水の流れじゃ、地上の人間には歩くこともままならないですよ」
 舞人たちは押し寄せる水の流れに苦労し、海龍亭の外に出るだけでもかなりの時間を費やした。

「では、水の流れを操ってみましょう。街中での魔法は本来、控えた方が良いのですが、そうも言っていられない状況ですからね」
 リーフレアは姉と共に呪文を詠唱し、3人の足元の小さな範囲の水流を変える。

「うあ。水流に押されて、勝手に身体が進んでいく!?」
「でも、海洋民族フェニ・キュア人のスピードには、ぜんっぜん敵わないよ」
「みなさん、逆流すら平気で泳いでおられましたからね」

「だけど、急がないと。この破壊が、サタナトスの仕業だとしたら……」
「だよね。リーフレア、あの魔法だよ!」
「はい、姉さま。アクア・ドルフィーネ!!」

 双子司祭の詠唱が、水そのものをイルカの姿へと変化させる。
3人は3頭のイルカに跨って、崩壊した海底神殿へと急いだ。

「オヤジ、無事か! 返事しやがれ!」
 その頃……バルガ王子は単身、水が溢れだす神殿へと突入する。

「オフクロ、何処だ。7将軍たちも、居ねえのか!」
「ククク……相変わらず、騒がしい王子ですなあ」
 王子の叫びに、激流のカーテンの向こうから返事があった。

「その声……アクト将軍か!?」
「いかにも、我は7将軍が1人、アクト・ランディーグよ!」

 低い声が響き、激流の中から海龍の首を持った大きな体躯の魔物が飛び出し、深紅の槍を振り上げて王子に襲いかかって来た。

「クッ、どう言うつもりだ、アクト。王子であるオレに、刃を向けるなど!?」
 バルガは咄嗟に、背中に挿していた槍で受ける。

「少しは腕を上げられましたな、バルガ王子。だが、我が金剛槍オロ・カルコンに砕けぬモノは無い!」
 海龍の将軍が金剛槍に力を込めると、王子の槍にのみヒビが入った。

「こんな槍じゃ、話にならねえか!」
 王子は槍を諦め、後ろに反転して金剛槍をかわす。
けれども完全には攻撃を防ぎ切れず、顔から胸にかけて鮮血が飛んだ。

「オロ・カルコンの一閃に、薄皮一枚とはな。次は、その身を貫いてくれようぞ!」
「王子を、やらせるかよ!」
「オラ、オレたちが相手になるぜ!」

 王子を刺すハズだった金剛槍は、2人の男の銛(もり)によって止められる。

「ビュブロス、ベリュトス、来てくれたか」
「当たり前だぜ、王子。それより、こりゃあ一体……」
「なんで7将軍のアンタが、王子に槍向けてんだ!?」

 攻撃を阻んだ漁師兄弟が、アクト将軍に詰問する。

「ダグ・ア・ウォン王は、魔王となられた」
「な……オヤジが、魔王にだとォ!?」
 バルガの脳裏に、双子司祭の言葉が過ぎった。

「我ら7将軍も、王と同じく魔王となる運命にあるのだ!」
 アクト・ランディーグ将軍の海龍の身体が、黒いオーラに包まれる。
その巨体はより一層巨大になり、皮膚の鱗も紫色から黒へと変化した。

「お、王子、これは一体!?」
「なんでアクト将軍が、こんなにデカくなっちまってんだァ!?」
 後を追って来たティルスとアラドスは、目の前の出来事が理解できない。

「どうやらヤホーネスの双子司祭の言葉は、真実だった様だな」
 最後に神殿に現れた、シドンが言った。

「どう言うコトです、シドン」
「どないすりゃあ、こうなるんや」

「アクト将軍は恐らく、サタナトスの剣に刺されたのだ」
「それって、魔力の高い人間を魔王へと変えてしまうと言う、剣のコトですか?」
「そ、そないなコトが、ホンマに起きんのかよ!」

「シドンが正しいぜ。それに魔王にされちまったのは、どうやらアクト将軍だけじゃねえ」
「な、何だと。それは本当ですか、王子?」
「残念ながら、将軍自身が言ってやがった。他の7将軍や、オヤジまで魔王になっちまったみてーだ」

 5人の海皇パーティーのメンバーは、絶句し耳を疑った。
けれども、目の前で神殿や街を破壊する、凶暴な魔王となり果てたアクト将軍の姿を見て、それが現実だと受け入れざるを得なかった。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第06章・第03話

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エゴイスト

「ユ、ユミアの、ボクに対する気持ちですか!?」
 ボクの声は、驚きの余り上ずっていた。

「先生と生徒である前に、男と女でもあるワケじゃないか」
 ボクの左側の運転席で、軽やかなハンドルさばきを見せる社長。

「確かにそうですが、それじゃあ週刊誌やゴシップ番組のリポーターと、変わりませんよ」
「キミは、とことん真面目な男だな。だが彼女はキミを、異性として意識してるんじゃないか」

「ボクをですか。どうして、そう思われるんです?」
「そうだな。キミはどことなく、アイツに似ているんだ」
 道路の先に広がる街が、スローモーションで近づいて来る。

「アイツ……」
 それが誰を指すか、ボクにも解かっていた。

「自分で言うのも何だが、ボクは自分をかなりのエゴイストだと思っている。だが、アイツはある意味で、ボクよりもエゴイストだった」
「倉崎 世叛が……エゴイスト?」

「その上、自分が創り上げた巨大企業や、最愛の妹を置いてさっさと死んでしまった無責任なヤツさ。自分は神格化されちまって、お陰でこっちは苦労が絶えない」

「倉崎 世叛とボクの、どこが似ているんでしょうか。自分では精々、同い年で性別が同じコトくらいしか思い当たりません」

「その条件だけなら、日本中に五万といるさ」
 車は高速を降り、街中の一般道に侵入する。

「そうだな。自分が目指した理想に対しては、とても真面目なところかな」
「自分の理想に……」

「キミの場合、優れた学校教師になるコトが理想だろう?」
「はい。まだまだほど遠いですが、そうなれるように努力は続けて行くつもりです」

「アイツの場合は、妹の為に理想の教育環境を整えるコトだったんだ」
 ボクは久慈樹社長の言葉に、衝撃を受けた。

「倉崎 世叛は、既存の学校教育を『理想の教育環境』とは、思っていなかったんですね……」
「ああ、そうだね。むしろ、妹を傷付けた悪の象徴みたいに、捉えていたんじゃないかな」

 一見すれば、ボクと倉崎 世叛の目指した理想は、同じ様にも思える。
けれども稀代の天才実業家は、ボクの理想とした世界の破壊者だった。

「ユークリッドや、それを生み出した倉崎 世叛は、それまでの教育者たちが築き上げた学校教育と言う壁を、いとも簡単に壊したみたいに言われていますが……」

「いいや。既存の学校教育の壁は、想像以上に強固で高かったよ。それにボクだって、義務教育を始めとした学校教育を、完全に悪とまでは思えなかったしね」
「でも倉崎 世叛は、それを破壊した。彼は学校教育を、完全なる悪と思っていたんでしょうか?」

「どうだろうね。既存の教育を壊そうとしたと言うよりむしろ、自分の理想とする教育環境を生み出そうと必死だっただけかも知れないな」

「そう……ですか……」

「結果、生まれたのがユークリッドだよ。既存の学校教育は、勝手に淘汰された」
「確かに成功した人間の視点で見れば、そうなのでしょうね」

「ある者が生み出したテクノロジーやシステムの隆盛は、古いシステムやテクノロジーを糧に生きる者たちの衰退を招くのは、よくあるコトだろう?」

「自動車や電車が発明された結果、馬車の御者や飛脚たちは職を失った。スマホに淘汰された、コンデジ(コンパクト・デジタルカメラ)や音楽メモリーなど、挙げればキリがありませんからね……」

「人類は、そうやって進化を遂げて来た。弊害としての破壊は、人類の歴史の至る場所で起こっている」

 ボクは口には出さなかったが、枝形先生の言葉を思い出していた。
それは人類の進化では無く、周りの技術やシステムの進化であると。

「だがキミは、こんなご時世に学校の教師になるコトを目指した。生徒たちからすれば、もっと合理的で優れた勉強の手段が、あるにも関わらずだ」

「確かに生徒たちからすれば、ボクはただの自己満足のエゴイストなのかも知れません」
 天空教室の最初の授業で、レノンやライア、メリーたちにこっ酷く罵倒され、現実を突きつけられて落ち込んだのを思い出す。

「そんなエゴイスティックなところに、ユミアはアイツの面影を重ねているのかも知れないな」
 そう呟いた男が運転する車は、四角い巨大ビルの駐車場へと入って行った。

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一千年間引き篭もり男・第06章・19話

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疑念の査問会議

「アポロさん。時の魔女とは、一体何者なのでしょうか?」
 ボクは、率直な疑問をぶつけた。

「白々しい物言いだな、宇宙斗艦長。キミの艦は、時の魔女が創ったのだろう?」
「はい、MVSクロノ・カイロスとは、ボクが命名したモノですが、ボクはあの艦について殆ど何も知らないんです」

「フッ、下らん出まかせだ。それを信じろと?」
「流石に無理でしょうね。でもボクは、信じられるかどうかは関係なく真実を話します」

「ほう。では、伺いましょうか。宇宙斗艦長の言う、真実とやらを」
 メリクリウスは、アポロよりは中立寄りの立場だった。

「はい。まずボクは、知っての通り冷凍睡眠者(コールド・スリーパー)です。ある少女に誘われて、地球のとある街の山奥の坑道跡で、1000年の眠りに就きました」

「1000年前の人だなんて、驚いたわ。ロクに冷凍睡眠の技術も無い頃ではなくて?」
「セミラミスさんの言う通りです。だから、ボクを未来へと誘った女のコは、この時代へは辿り着けませんでした」

「可哀そうに……でも、貴方だけでも生きていられたのは、奇跡だわ」
「1000年後、ボクは火星の衛星フォボスの採掘プラントの地下深くで、目覚めました」

「宇宙斗艦長は、地球の山の中で眠っていたのでしょう。それがどうして、フォボスに?」
「ボクが寝ている間にカプセルが運ばれたのは確かでしょうが、どういった経緯でそうなったかまでは、残念ながら解りません」

「フムゥ、なる程……」
 ボクに質問をしたメリクリウスは、経緯を推察している感じだった。

「わたくしたちハルモニア女学院の生徒は、火星開拓の歴史を学ぶ為にフォボスへと赴き、そこでプラント事故に巻き込まれました」
 クーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダは、後ろに座る3人の少女たちを見る。

「はい。プラントを見学していたわたし達を、いきなり大きな爆発が襲ったんです」
「プラントは一瞬で炎に包まれ、逃げ遅れたわたしたちは、避難小屋に入ったのですが……」
「大きな岩に押し潰され、死んじゃうかと思いましたァ」

「ボクが目覚めたのも、実はその時なんです。事故のあった現場から落下して来た、セノンと言う少女によって起こされました」

「宇宙斗艦長は、避難小屋に閉じ込められたわたくしたちを、必死の想いで救い出してくれたのですよ」
 クーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダは、許嫁の顔に鋭い視線を送った。

「わたしとて、キミを助ける為にある男たちを派遣したのだが……どうやら、人選を間違えた様だ」
「ケッ、そいつァ悪かったな」
 脚を組み悪態を付く、プリズナー。

「だが、コトは単なる旧式のプラント事故では、収まらなかった。クーリア……キミたちは謎の艦によって拉致され、木星圏へと連れ去られてしまったのだからな」

「ボクも、拉致をされた1人です。当然ながら、その時のボクは艦長ではありませんでした」
「苦しい言い逃れでは無いか、宇宙斗艦長」
 アポロはあえて、ボクを艦長と呼んだ。

「ボクやクーリアたちは、ボクの60人の娘たちによって拉致されました。娘たちの話では、目的はボクを艦長にするコトだった様です。そしてボクは、艦の人工知能によって、艦長に任命されました」

「それも、可笑しな話じゃないですか。1000年間も目覚めずに眠っていたキミに、60人もの娘が居ると言うのもそうだし、その娘たちが時の魔女が建造した艦の乗組員(クルー)だったと言うのもね」

「娘たちを産んだのは、時の魔女ですからね。最も……」
「『創り出した』と言う意味なのは、解ってますよ」
 メルクリウスは、聡明さを発揮する。

「もし、貴方の言っているコトが真実ならば、貴方は過去に時の魔女と会っている。最も、貴方が眠っている状態の時でしょうが」

「下らん戯言だ。真実を言っているとは、到底思えない」
「アポロ、ボクにはそうは思えません。嘘を付くにしても、あまりに荒唐無稽な話じゃないですか?」
「1000年も昔の人間だ。嘘を付くレベルも、低いのであろう」

「いいえ、もっと注意深く観察するべきです」
「メリクリウス。お前はどうしてそこまで、古代人などに肩入れする?」

「決まってるでしょう。彼が、時の魔女の正体を知る為の『鍵』だからですよ」
 男は、金色の髪を掻き上げた。

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キング・オブ・サッカー・第五章・EP031

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オーバーラップ

「日良居(ひらい)、準備するよ。柴芭と交代ね」
 セルディオス監督は、ゴールを決めた柴芭さんに交代の指示を出す。

「す、すみません、ボクはここまでみたいです。後は、任せました」
 第四の審判が8番のカードを掲げ、疲れ果てた柴芭さんが龍丸さんにキャプテンマークを託し、ベンチに下がって行った。

「レギュラーでピッチに残ってる中盤は、金刺と杜都、一馬だけになっちまった」
「そうね、紅華。今、ベンチに下がってる人間、プロサッカー選手としての体力に欠けてるね」

「クソ、情けねえ話だぜ」
「まったくです。これはもっと、自分を鍛える必要がありますね」
「オレ、短距離向きの筋肉してっから、持久力は自信ねえな……」

「まあ、黒浪は速さ重視のプレイヤーだから仕方ない面もあるケド、それでも少しでも長い時間ピッチに立っていられれば、こんなに交代枠も使う必要ないね」
「練習試合じゃなければ、交代枠は限られてます。少なくとも、オレは……」

「そうよ、雪峰。キャプテンが早々にベンチじゃ、指揮が下がるね」
 ピッチでは、キャプテンマークを巻いた龍丸さんが、必至にディフェンスの指示を出していた。

「それにしてもよォ。ミリタリーマニアで筋肉マッチョな杜都や、サーファーの金刺が持久力あんのは解かるケド、一馬は意外だよな?」
「そうね。恐らく、天性の持久力があるタイプよ」

「ですが、試合はまだ10分以上残されてます」
「確かに高校生の試合と違って、45分ハーフの90分は長いぜ」
「監督が言ったみたいに、10点取られちまうのかよ!?」

「モチロンね、黒浪。他のプレーヤーも、チームが無残に負ける姿を、目に焼き付けて置くね」
 セルディオス監督の指示に、レギュラーだった選手たちは沈黙しピッチを見つめた。

「よし、やっとボールが来たぜ。これで、ハットトリックだ!」
 大きく右サイドに開いた九龍さんがセンタリングを上げ、そのボールに新壬さんがジャンピングボレーで合わせる。

「今、こうしてオレたちが、2点差で負けているのは、キーパーであるオレが重大なミスをしたせい……全て、オレの責任だ」
 海馬コーチのメタボな身体が、強烈なシュートに反応して右手の側に飛んだ。

「このシュート、絶対に止める!!」
「飛ぶ方向が逆ね。しかも、逆に飛んでいても届いてないよ」
 新壬さんのシュートは、海馬コーチの左手側の隅に吸い込まれる。

 せっかく柴芭さんが決めてくれたのに……これ以上やらせない!
ボクは、必死に脚を伸ばした。

「か、一馬だ。一馬がまた止めた!」
「御剣くん、中々やりますね!」
 ベンチで、黒浪さんと柴芭さんが叫んでいるのが聞こえる。

「ボールが、亜紗梨の足元に転がったぜ。行け、オーバーラップだ」
 紅華さんが、海馬コーチの元にいた時代のチームメイトに、支持を飛ばした。

「御剣くんが、必死にクリアしてくれたボール……ボクが繋ぐ!」
 3枚のセンターバックの、一番左に陣取っていた亜紗梨さんが、意を決してドリブルを開始する。

「よし、亜紗梨がボールを持ち上がってくれた。これで、守備陣も一息付ける」
「イヤ、そうじゃ無ェだろ、雪峰キャプテンよォ」
「なに?」

「見ろよ、一馬が走ってるぜ。アイツら、点を決める気だ」
「こ、この時間で2点ビハインドなのに、まだ得点を狙っているのか!?」
「その様ですね。御剣くんはまだ、この試合を捨ててません」

「御剣 一馬.。お前は……」
 紅華さんや柴芭さんの台詞に驚きつつも、雪峰キャプテンはピッチの戦況を見守った。

「これ以上、突破はさせないよ!」
 左に開いてドリブルを続ける亜紗梨さんの進路を、旗さんが立ちはだかって塞ぐ。

「こ……こっち!」
「よし、御剣くん」
 亜紗梨さんが直ぐに気付いて、ボクにボールを渡してくれた。

「そんなの、読んでるって!」
 旗さんは迷わず、ボールを持つボクにプレッシャーをかける。
後ろに、脚の長い湯楽さんが控えているからだろう。

 裏に走る、亜紗梨さんへのパスはムリだ。
ここはキャプテン、頼みます!
ボクは、ヒールキックでボールを下げた。

「フフ、どうだい。ボクと湯楽のダブルボランチの前じゃ、攻め手が無いだろう?」
「違う、旗。アレ見ろ」
「何が違うって言う……なにィ!?」

 ボクがボールを下げた先には、龍丸キャプテンがオーバーラップを仕掛けていた。

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ある意味勇者の魔王征伐~第11章・05話

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崩壊する海底神殿

 双子司祭と舞人が、アドラスのさばいた海鮮料理に舌鼓(したつづみ)を打っていると、座敷に座っていた5人の最後の1人である男が、口を開いた。

「ところで王子。我らを集めたのは何も、高名な双子司祭に料理を振舞う為では無いだろう?」
 男は切れ長の目に、美しいアイスブルーの瞳を讃えている。
細身の身体にヒスイ色の着物を纏い、藍色の長い髪をしていた。

「まあな、シドン。実は上の世界が、大変な事態になってやがるみてーでよ。オヤジに会う前に、お前の意見を聞いて置きたかったのよ」

「具体的には、何が起きている?」
「オレも聞いてはみたが、まだ理解したとは言えん」

「バルガ王子。もう1度、詳しく話させて下さい」
 ヤホーネスが誇る双子司祭の妹であるリーフレアは、集まった一同にサタナトスに関する経緯を、理路整然と伝える。

「なる程。サタナトスと言う脅威が、ヤホーネスの都をも破壊したと仰るのですね」
「そうだぜ、シドン。しかも、赤毛の英雄は……」

「バルガ王子、そこは出来る限り内密にお願いいたします」
「あ、ああ。そうだったぜ」
 リーフレアにたしなめられ、頭を掻く王子。

「しかしよォ、にわかには信じられんな。人を魔王に変えちまう剣なんてよ」
「だけどよ。その剣で魔王にされちまってたから、シャロリュークは負けちまったんだろ?」
 ビュブロスとベリュトスの漁師兄弟が、一同に問いかける。

「正確に言えば、ボクが魔王になったシャロリュークさんを、女の子の姿に変えてしまったからなんです。本来の力があれば、シャロリュークさんが負けるハズが……」
 事実を話すうちに項垂れる、舞人。

「だが、本来の力を発揮できない少女の姿の、赤毛の英雄は破れた。そして、王都はサタナトスの召喚した魔王によって破壊され、王も亡くなられたのですね」

「はい、シドン様。現在は亡き王に替わって、孫娘であらされるレーマリア皇女が、女王となって国を復興しようとされているのです」

「サタナトスってのは、とんでもねえ野郎だな。幾ら魔族との混血で、人間から迫害されたからってそこまでするかいな?」
 料理人のアラドスが、腕を組んで天を仰いだ。

「そんな狂気の男が、我が国の宝である海皇の宝剣『トラシュ・クリューザー』を、狙っている……と」
「その通りです、ティルス様。サタナトスは、天下七剣を手に入れようとしているのです。その1振りであるトラシュ・クリューザーも、恐らくは」

「良く知らせて下された。王子よ、さっそく王に上奏を!」
「だがな、シドン。あの父上が、オレの言葉を信じ遭ってくれると思うか?」
「それは、日頃の王子の行いが悪いのが、原因でしょう」

「確かに王子と来たら、この辺りの海を義賊とか言って荒らし周ってっからな」
「実際、ただの商船に脅しをかけて乗り込んだりとか、どっちが海賊だか解かんねぇぜ」

「うっせェな。ホントの海賊だって、居たんだよ」
「ほぼ商船ですケドね。商人たちから、商いに支障をきたすと苦情が出てます」
「ティルス……お前まで」

「この期に、素行を改めるコトですね。王には、双子司祭の名を示せば、謁見は可能でしょう」
「そうか、流石は海洋学者だけはあるぜ、シドン」
「海洋学者なのは、関係ありませんよ、王子」

「なあ、リーセシルにリーフレア。名前を使っても、構わないか?」
「モチロンだよ」
「その為の、使者ですからね」

「すまねえな。それじゃ、早速……」
 バルガ王子が立ち上がった、その時だった。

「うわああ!?」
「じ、地震!?」
「建物が、揺れてます!?」

 海龍亭が、激しい揺れに襲われる。
木で組まれた柱の何本かは、折れて石畳の床に突き刺さり、天井を支えるガラスが数か所で割れて、店に海水が流れ込んで来た。

「一体何が起こってやがる!?」
「まさか既に、神殿が狙われているのでは!?」
 直ぐに最悪の事態を想定する、シドン。

「オ、オヤジ!?」
 バシャバシャと水浸しの床を駆け、店の外へと飛び出す王子。

 その視線の先には、崩壊する海底神殿の姿が映っていた。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第06章・第02話

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スキャンダラスな出社

『ご覧ください。ユークリッドの女子高生アイドル教師・瀬堂 癒魅亜と噂になっている、天空教室の若手教師の新居の前に、先ほど一台の高級外車が横付けされました!』
 テレビの中の女性リポーターが、世話しない声で捲し立てている。

『流石はユークリッドの教師ともなると、若いのに豪邸に住んでますね、現場の新鞍さん』
『はい。こちらの邸宅は何と、かの芸能人夫妻・安曇野夫妻が住まわれていたんですよ』
 レポーターの言う通りボクが居る家は、アロアとメロエの両親である芸能一家が暮らしていた。

『新鞍さん、それは本当ですか。安曇野夫妻と言えば、その娘である双子の姉妹が……』
『そうなんです。天空教室のグラマラスな双子姉妹として、現在SNS上で話題になっている安曇野 亜炉唖(あずみの あろあ)、安曇野 芽魯画(あずみの めろえ)のお二人なんですよ!』

『つまりこの教師は、かつて教え子が住んでいた家に、暮らしているのですか?』
『はい、仰る通り……あ、今車のドアが開きました』

 黒塗りの車から、サラサラヘアの若い男性が降り、群がったマスコミのカメラが向けられる。
画面に、『フラッシュの点滅にご注意ください』の文言が、表示された。

「一体、この騒ぎはなんだ。地味で平凡だったボクの日常とは、ほど遠い景色が広がっているぞ!?」
 すると、車から降りた男がカメラの前で堂々と、スマホをかけ始める。
同時に、手に持ったままの自分のスマホが震えた。

「もしもし、久慈樹社長ですね」
「ああ、そうだよ。随分と、大変な騒ぎになっているじゃないか?」
 騒ぎの渦中にある男が、他人事の様に言った。

「社長の登場のおかげで、騒ぎに一層拍車がかかりましたケドね」
「何を言っているんだい。社長であるボクが、直々に迎えに来てあげたんじゃないか。さあ、早く準備を整えて、出て来たまえよ」

「その車に……乗らなきゃいけないんですか?」
「地下鉄やタクシーで移動できると思えば、そうすれば良いさ」
 言われてボクは、テレビの画面を見る。

 蟻の子すら通れなそうなマスコミの人の群が、それは不可能だと告げていた。

「仕方ありません。社長に迎えまでさせて、これ以上待たせるワケには行きませんからね」
 ボクは言を決して、玄関のドアを開ける。

 真夏の太陽を直(じか)見したかのような光の連射が、ボクの眼を眩ませた。

『今、玄関のドアが開きました』
『本当に、瀬堂 癒魅亜とは何も無かったんでしょうか?』
『先生、教師であるあなたが、教え子に手を……』

 我先にと、ボクにマイクや小型の録音機材を突き付ける、各局のリポーターたち。
相手をしたところで不利を被るだけと判断したボクは、リポーターの海を掻き分けながら、必死の思いで車まで辿り着く。

「やあ、お疲れ。キミも少しはコイツらの鬱陶しさを、理解出来たかな?」
「はあ、まあ……」
 ボクはそのまま、助手席に乗り込んだ。

「さて、出社と行こうじゃないか」
 社長がクラクションを鳴らすと、マスコミの群れは抵抗を示しつつも道を開ける。

「意外に、すんなりどいてくれるんですね?」
「コイツらも、交通の妨げをしてはならないと言う、道交法は心得てやがるんだ」
 久慈樹社長の運転する車は、なんとかマスコミの中から抜け出して高速道路に入った。

「まだ何台か、後ろを付いて来る車がありますよ」
「放って置けばいいさ。それよりユークリッターも、キミのお陰でかなりの知名度を獲得出来た。配信前のプロモーションとしては、申し分無いよ」

「それはどうも……」
 ボクは、友人の顔を思い出す。
アプリの開発に携わっている人間の心境は、こんなモノだろうかと思った。

「どうだい、スターになった気分は?」
「スターになんか、なってませんよ」
「フフ、それはキミじゃなく、世間が判断するコトさ」

「ボクは自分の失言によってだから仕方ない部分もありますが、ユミアには迷惑をかけてしまいました」
「迷惑……ねえ。彼女は、どう思っているのかな?」

「ユミアですか。そりゃあ、ボクが軽率な失言をしたばかりに大変な騒ぎになって、迷惑がってるんだと思いますよ?」

「まあ、確かにそれもあるだろうね」
「他に……何かあるんですか?」

「ヤレヤレ、キミも中々にアレだな」
 同い年の社長は、運転しながら肩を竦める。

「彼女の、キミに対する気持ちだよ」
 それはボクにとって、予想だにしていなかった言葉だった。

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