深紅の女将軍
「こ、このままじゃ……街が海に飲み込まれちゃいますよ!?」
舞人と、リーセシル、リーフレアの双子司祭は、100パーセント海水で出来たイルカに跨って、崩壊する海底神殿を目指していた。
「この街は、海皇様と海の女王様の強力な泡の魔法によって、海の中に維持されてます」
「海底神殿の中に祀られた、海皇の宝剣『トラシュ・クリューザー』によって増幅させ、巨大な泡のドームを創っているんだよ」
息の合った会話で、状況を確認し合う姉妹。
その間にも、街のあちこちで家が水没し、激流に飲まれる者が続出していた。
「それじゃあもし、2人のどちらかに何かあったりしたら……」
「泡の魔法ドームが、維持出来なくなります。現在の状況からすれば、その可能性が高いですね」
「でもさ、まだドームが完全には崩壊してないってコトはだよ」
「2人のどちらかは、まだ無事だってコトですね!」
リーセシルの言葉に希望を抱いた舞人だったが、それは直ぐに断たれる。
「ククク……今のところは、無事と言うだけよ」
女性の声が響いたかと思うと、3人が跨って3頭のイルカが元の海水に還った。
「うわあ、わたし達の魔法が解けたァ!?」
「姉さま、気を付けて下さい。進路の先に、誰か居ます!」
神殿へと続く道に、深紅の鎧を身に纏った1人の女性が立ちはだかる。
「あ、貴女は……一体!?」
「アラ、可愛らしい坊やだコト。わたくしは、ガラ・ティア」
女性は、アイスグリーン色の肌で、紫色のネイルの指を煌びやかな宝石で飾り、マゼンタ色の長い髪をしていた。
「7将軍の1人よ。でも残念ね。ここで貴方たちを、殺さなければならないの」
豊満な胸の谷間にも、赤い珊瑚と金のネックレスがあって、鎧の下にターコイズブルーの水着とパレオを身に着けている。
「舞人くん。どうやらこの人、サタナトスの手先になってるかもだよ」
「ガラ・ティア様の身体から、禍々しい瘴気を感じます」
舞人に危険を知らせる、リーセシルとリーフレア。
「一刻も早く、バルガ王子に合流しなきゃいけない時に、どうして……」
舞人は、背中から漆黒の剣を抜いた。
「何ですの、その美しくない剣は。まるでガラクタを寄せ集めただけに、見えますわ」
「見た目程、生温い剣じゃありませんよ。ガラ・ティアさん!」
舞人が、深紅の女将軍に斬りかかる。
「美しくない物に、存在価値は無いわ。醜い剣など、消え去りなさい」
ガラ・ティアは、様々な種類の珊瑚で彩られた、コーラルピンク色の槍を振るった。
「グッ……うわあッ!?」
槍は泡の水流を纏い、もの凄い勢いで舞人を襲う。
「わたくしの珊瑚槍『エリュ・トゥラー』は、泡の激流で敵を爆砕するのよ」
深紅の女将軍の言葉を裏付ける様に、泡に纏わり着かれた舞人は藻掻き苦しんでいた。
「な、何で泡なんかで、こんなにダメージ受けてるの!?」
「き、聞いたコトがあります。バブルパルスと言って、水中での爆発によって発生した泡は、膨張と収縮を繰り返すコトで、とてつもない破壊力を生み出すのだと」
「随分と、お利巧さんね。貴女たちもしかして、ヤホーネスの双子司祭かしら?」
「そうだよ。7将軍に覚えて貰ってるなんて、光栄だね」
「呑気なコトは言ってられません。舞人さんが居なくなったら、また前衛が居ないんですから」
「そうだった。クーレマンスのヤツ、どうして何時も、肝心な時に居ないんだよォ!」
「ですね。後で、お説教してあげましょう」
竜杖『ファフニ・ティーラ』と、星杖・『メティア・ブレイザ』を構える、双子司祭。
「ドラゴンの牙より生まれし、尖兵よ。龍の姫を守護せよ!」
リーセシルが詠唱を始めると、宙から黒い牙がポトポトと地面に落ち、そこから漆黒の骸骨兵が生み出される。
「ほう、龍牙の兵を召喚したのか。だがそんなモノ、時間稼ぎにもならぬわ」
ガラ・ティアのコーラルピンクの槍が、バブルパルスを発生させた。
「させません。招来せよ、風の申し子たち!」
リーフレアは、骸骨兵に風を纏わせて泡の破壊から護る。
「チッ、小賢しいマネを……」
難を逃れた骸骨兵たちは、深紅の女将軍に襲い掛かった。
「リーフレア、今のうちにアイツを倒せるだけの、魔法を完成させるよ!」
「はい、姉さま!」
2人の司祭は、長い詠唱を開始した。
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