ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第06章・第03話

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エゴイスト

「ユ、ユミアの、ボクに対する気持ちですか!?」
 ボクの声は、驚きの余り上ずっていた。

「先生と生徒である前に、男と女でもあるワケじゃないか」
 ボクの左側の運転席で、軽やかなハンドルさばきを見せる社長。

「確かにそうですが、それじゃあ週刊誌やゴシップ番組のリポーターと、変わりませんよ」
「キミは、とことん真面目な男だな。だが彼女はキミを、異性として意識してるんじゃないか」

「ボクをですか。どうして、そう思われるんです?」
「そうだな。キミはどことなく、アイツに似ているんだ」
 道路の先に広がる街が、スローモーションで近づいて来る。

「アイツ……」
 それが誰を指すか、ボクにも解かっていた。

「自分で言うのも何だが、ボクは自分をかなりのエゴイストだと思っている。だが、アイツはある意味で、ボクよりもエゴイストだった」
「倉崎 世叛が……エゴイスト?」

「その上、自分が創り上げた巨大企業や、最愛の妹を置いてさっさと死んでしまった無責任なヤツさ。自分は神格化されちまって、お陰でこっちは苦労が絶えない」

「倉崎 世叛とボクの、どこが似ているんでしょうか。自分では精々、同い年で性別が同じコトくらいしか思い当たりません」

「その条件だけなら、日本中に五万といるさ」
 車は高速を降り、街中の一般道に侵入する。

「そうだな。自分が目指した理想に対しては、とても真面目なところかな」
「自分の理想に……」

「キミの場合、優れた学校教師になるコトが理想だろう?」
「はい。まだまだほど遠いですが、そうなれるように努力は続けて行くつもりです」

「アイツの場合は、妹の為に理想の教育環境を整えるコトだったんだ」
 ボクは久慈樹社長の言葉に、衝撃を受けた。

「倉崎 世叛は、既存の学校教育を『理想の教育環境』とは、思っていなかったんですね……」
「ああ、そうだね。むしろ、妹を傷付けた悪の象徴みたいに、捉えていたんじゃないかな」

 一見すれば、ボクと倉崎 世叛の目指した理想は、同じ様にも思える。
けれども稀代の天才実業家は、ボクの理想とした世界の破壊者だった。

「ユークリッドや、それを生み出した倉崎 世叛は、それまでの教育者たちが築き上げた学校教育と言う壁を、いとも簡単に壊したみたいに言われていますが……」

「いいや。既存の学校教育の壁は、想像以上に強固で高かったよ。それにボクだって、義務教育を始めとした学校教育を、完全に悪とまでは思えなかったしね」
「でも倉崎 世叛は、それを破壊した。彼は学校教育を、完全なる悪と思っていたんでしょうか?」

「どうだろうね。既存の教育を壊そうとしたと言うよりむしろ、自分の理想とする教育環境を生み出そうと必死だっただけかも知れないな」

「そう……ですか……」

「結果、生まれたのがユークリッドだよ。既存の学校教育は、勝手に淘汰された」
「確かに成功した人間の視点で見れば、そうなのでしょうね」

「ある者が生み出したテクノロジーやシステムの隆盛は、古いシステムやテクノロジーを糧に生きる者たちの衰退を招くのは、よくあるコトだろう?」

「自動車や電車が発明された結果、馬車の御者や飛脚たちは職を失った。スマホに淘汰された、コンデジ(コンパクト・デジタルカメラ)や音楽メモリーなど、挙げればキリがありませんからね……」

「人類は、そうやって進化を遂げて来た。弊害としての破壊は、人類の歴史の至る場所で起こっている」

 ボクは口には出さなかったが、枝形先生の言葉を思い出していた。
それは人類の進化では無く、周りの技術やシステムの進化であると。

「だがキミは、こんなご時世に学校の教師になるコトを目指した。生徒たちからすれば、もっと合理的で優れた勉強の手段が、あるにも関わらずだ」

「確かに生徒たちからすれば、ボクはただの自己満足のエゴイストなのかも知れません」
 天空教室の最初の授業で、レノンやライア、メリーたちにこっ酷く罵倒され、現実を突きつけられて落ち込んだのを思い出す。

「そんなエゴイスティックなところに、ユミアはアイツの面影を重ねているのかも知れないな」
 そう呟いた男が運転する車は、四角い巨大ビルの駐車場へと入って行った。

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