ベンチプレーヤーたち
「ス、スゲエぞ。イソギンチャクが決めて、1点差だぜ、監督!」
黒浪さんが、メタボな監督の方に振り向いて言った。
「監督、言ってましたよね。この試合、10点取られて負けるって。残り、5分っスよ」
「わ、解かって無いね、紅華。アディショナルタイム入れれば、10分はあるよ」
セルディオス監督は、6-7と刻まれたスコアボードに焦っている。
「自分のチームが、頑張って追い上げてるんですから、喜ぶべきところでしょうに」
「柴芭、キーパーは、あの海馬よ。シュートされれば、ゴールが決まるレベルね。ボールにプレッシャーをかけようにも……」
「もう、レギュラーたちの体力は、残されていないと言うコトですか……」
監督の懸念を理解した魔術師は、グランドに目を移す。
そこには、圧倒的に押し込まれるチームの姿があった。
「1点差に戻されちまったじゃねェか、九龍!」
「文句を言っているヒマがあったら、さっさとゴールを決めろ」
狩里矢は縦関係のツートップで、ドリブルする新壬さんの後ろを九龍さんが追走する。
「じゃあ、お膳立ては任せたぜ」
新壬さんは、ドリブルしていたボールを蹴らずに置いて、ディフェンスの裏へと走った。
「ウオッ……まったく、勝手なヤツだ」
いきなり置かれたボールに何とか反応し、新壬さんの位置を確認する九龍さん。
「何を企んでいるかは知らんが、通させはせん!」
キャプテンマークを任され、金刺さんのゴールを演出した龍丸さんが、進路を塞ぐ。
「先程はしてやられたが、今回はオレが勝つ!」
九龍さんも身体を右側に振って、ドリブル突破を図った。
龍丸さんは九龍さんに身体を当てながら、そのまま着いて行く。
首を振り、味方の位置を確認する九龍さん。
けれども無尽蔵の運動量を誇る旗さんには、汰依さんと蘇禰さんの2枚がマークしていた。
「パスの選択肢は無い。お前は、オレが防ぐ」
「いいや、押し通る。アイツにハットトリックを、決めさせてやらにゃならんのでな」
両チームのキャプテン同士の、激しい一騎打ちが繰り広げられる。
「九龍さん、こっちです」
中盤で、狩里矢のノーマークの選手が手を挙げる。
「任せたぞ、湧矢」
九龍さんがその選手にバックパスをし、自分はそのまま右に展開した。
一瞬迷った龍丸さんだったが、亜紗梨さんにマークを受け渡してシュートコースを塞ぐ。
「なる程、なる程。そう来ましたか。キャプテンを任されるだけあって、素早い判断ですね」
湧矢と呼ばれた選手は、旗さんや湯楽さん、忍塚さんと共に後半から投入された選手だ。
「なに油断してやがる。ボールは、貰ったァ!」
同じく後半から投入の、ウチの那胡さんが激しいタックルを見せる。
「気付いてますよ、そんなの。解らないワケ無いじゃないですか」
湧矢さんは、最小限のフェイントで那胡さんをかわした。
……と、同時に、右サイドにパスを放り込む。
「ナイスだ、湧矢」
「狙い通りですね。まったく、恐ろしい1年です」
そこには、それぞれのマークを引き連れた、九龍さんと旗さんが待ち構えていた。
「マ、マズイ。ボールが入ったら……」
九龍さんをマークしていた亜紗梨さんが、相手の意図を察知する。
「心配ねェって。数はこっちが上だ」
「ボールが入ったところで、止めて見せる!」
旗さんのマークをしていた、汰依さんと蘇禰さんはボールを奪う気満々で待ち受けていた。
「マズイね。相手はあえて混戦になるのを予測して、放り込んで来たね」
「相手のキャプテンと、あのすばしっこいのが相手だろ。大丈夫かよ?」
「亜紗梨、汰依、蘇禰……なんとか止めてくれ!」
ベンチから、海馬コーチ時代からのチームメイトに、エールを送る紅華さん。
ボールは高く、九龍さんと亜紗梨さんが頭で競り合った。
身長では亜紗梨さんが上回っていたが、身体能力の差で九龍さんが競り勝つ。
「ナイス、ポストプレー。流石は九龍……なッ!?」
スピードに乗ったまま、マークを引きは無しボールを受け取るハズだった旗さん。
……よし、ここだ!
けれどもボクは、そのボールを狙っていた。
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