ラノベブログDA王

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ある意味勇者の魔王征伐~第11章・04話

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海龍亭

「カル・タギアはどこも魚貝は新鮮だが、この海龍亭は別格だぜ」
「大将の腕も良いし、なんてったって天井が世界最大の生け簀だからな」
 席に座っていた5人のウチ、背が高く腕っぷしも強そうな2人の男が言った。

「リーフレア、見て見て。天井が全部海だよ!」
「ホントですね。大きな魚や小さな魚の群れが、気持ちよさそうに泳ぎ回ってます」

 双子司祭につられて、舞人も上を見上げる。
天井一面がガラス張りになっていて、その上には紺碧の海がどこまでも広がっていた。

「コイツらは、兄をビュブロス、弟をベリュトスっつってな。魚を捕る技術にかけちゃ、カル・タギアでも右に出る者が居ねえ、凄腕の漁師兄弟なんだ」

 ビュブロスは、背中に巨大な帆の様なヒレを持ち、蒼い肌の上半身は筋肉で覆われている。
青緑色の髪はオールバックで、自信に満ちた黄色い目をしていた。

 対してベリュトスは兄よりはやや小柄で、背中から肩にかけて2枚のヒレが生えている。
右目は髪に隠れ、兄に比べれば落ち着いた印象だ。

「バルガ王子。ひょっとしてこのお嬢さん方は、ヤホーネスの双子司祭さまじゃ?」
「ああ、そうだぜ。リーセシルとリーフレアの、覇王パーティーの双子司祭だ」
「やっぱそうか。お二人はもう、カル・タギアの魚を食べたのかい?」

「ん、まだだよ。もう、お腹ペコペコ」
「姉さま、はしたないですよ」

「そうかそうか、そいつァ良かった。なあ、弟よ!」
「おうよ、兄貴。カル・タギアに来て最初に食うのは、オレたち兄弟が獲った魚にして貰いたいね」
そう言うと2人は、席を立つと慌てて何処かへ行ってしまった。

「申し訳ございません。ガサツな兄弟ですが、根は良い人たちなのです」
 王子の伝令として動いていた、ティルスが頭を下げる。
彼女も座敷に居た、5人の1人だ。

「お2人とも、市場へでも行かれたのですかね?」
「ち、違うよ、リーフレア。上見て、上!」
「また上ですか……うわあッ!?」

 海龍亭の天井の海には、魚たちに混じって2人の兄弟が泳いでいた。
兄のビュブロスは、巨大な銛で巨大魚を串刺しにして仕留める。
弟のベリュトスは両手の2本の銛を使って、小魚を網に追い込み貝やエビを獲って帰って来た。

「いやあ、大漁、大漁」
「ホレ、アラドス。さばいてくれ」
 漁師兄弟は、獲って来た大漁の魚介類を1人の男に渡す。

「……ったく、しゃーないな。オヤジ、板場借りるぜ」
 座敷に座っていた5人の1である男は、左右の腰に挿していた鞘から細身の2本の刀を取り出し、板場に立って魚をおろし始めた。

「アラドスは、この海龍亭の跡取り息子でな。若いながら、料理の腕前は確かだぜ」
 緑色の短髪ツンツンヘアのアドラスは、巨大魚を切りさばいて活け造りとし、貝でだしを取ってエビの汁物を作った。

「リ、リーフレア。こんな料理、見たコト無いよ。魚、まだ生きてるし」
「ヤホーネスは、独特の食文化を持つ国とは聞いておりましたが、まさかこれ程とは……」
 見慣れぬ手法の料理を前に、たじろぐ双子司祭。

「そっか。確かに海外の人間からすりゃあ、けったいな料理かもな。いきなり活け造りは無理やから、まずは汁物でも飲んでみ」

「う、うん」
「魚貝のスープであれば、ヤホーネスにもありますからね」
 2人は恐る恐る、汁の入った椀に口を付ける。

「うわぁ、なにコレ、なにコレ。このスープ、メチャクチャ美味しいんだケド!?」
「ホ、ホントです、姉さま。貝から取ったであろう透明なスープと、エビからにじみ出るエキスが、見事にマッチしているとでも言いましょうか」

「ほな、活け造りにも挑戦してみいや。人生、何事も経験やで」
 経験の少なそうな若い料理人に催促され、2人は活け造りにも箸を伸ばす。

「あ、甘~い。生の魚のお肉って、トロっとして溶けちゃう感じなんだ!」
「ホ、ホントです。生の魚なんて始めて食べましたが、こんなにも美味しいモノだったなんて思いませんでしたァ」

「た、確かに見た目は変わってるケド、2人の料理とは雲泥の差だ。天と地ほどの、開きが……あ」
「舞人くん。キミ……」
「とても失礼なコト、言ってませんか?」

 双子姉妹の笑顔の奥に、舞人は激しい恐怖を感じていた。

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