ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第04章・第10話

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食い違う主張

「みんなは、アンタの茶番に付き合わされるために、集められたって言うの!?」

「茶番とは心外だねえ。彼女たちは全員、顔出しもプロフィールの開示もOKしたんだ」
「ほ、本当なの。どうしてそんな、バカな契約を!?」

「バカとは失礼じゃね!?」
「残念だケドそう言う契約だから、こんな好条件を提示されたのよ」
「レ、レノン……ライア。貴女まで、なんで?」

「お金の為……かしらね。恥ずかしい話、生活が困窮してててね」
 正義を重んじる少女は、ユミアの瞳を直視できず、目を逸らしながら言った。
「ウチは、警察官だった親が汚職を冒した挙げ句、失踪したのよ……」

「ウチも同じだね。親が教師を辞めちゃって、働かないからさ」
「お前はそれで、いいのか?」
「まあ顔を出すくらいで、こんな豪華に暮らせるんだ。問題ないよ」

「それに顔出しが嫌じゃない人間も、居るのですよ、先生」
 同じ制服を着ていても、魅惑的なバストに細いウェストの双子姉妹の姉が、ボクに意見する。

「顔出しや身元の開示が、どれだけ危険なコトか解っているのか。アロア」
「あら。アイドルのコたちの多くは、未成年ですわよ?」
「だ、だがキミは、一般人だろう?」

「わたしは、女優を目指しておりますの。ユークリッドの動画に出演して顔を売るのは、悪くない選択肢だと思いませんコト?」
「お姉さまの仰る通りです。実はもう何本かのCM出演が、決まっているのですよ」

「メロエ、キミまで……」
「先生に、生徒の夢を止める権利は、有りますの?」
「それは……」

「どうだい、これで解っただろう。キミたちが思ってるホド、彼女たちは子供じゃ無いのさ」
 久慈樹 瑞葉の勝ち誇った瞳には、不テクされたユミアの顔が映っている。

「みんなの夢や決意に、とやかく言う権利なんてない。だったらせめて、みんなの生活くらいちゃんと保証しなさいよ!」

「彼女たちの替わりなんて、今の世の中いくらでも居るのにかい?」
「人の替わりなんて、居るワケがないでしょ!」

 世の全てを見降す青年実業家と、天才起業家の兄を病気で失った女子高生。
二人の見解は、完全に相容れぬモノだった。

「考えた方は人それぞれだが、彼女たちの雇用主はこのボクだと言うコトを、忘れぬように」
「い、いざとなったら、わたしが……」
「それこそ傲慢と言うモノじゃないのかい?」

「貴方は、傲慢では無いのですか……久慈樹社長」
「ボクかい。ボクは常に傲慢さ」
 ニヤリと笑う社長の視線の先で、カメラが既に回っていた。

「ちょ、ちょっと。勝手に撮影を始めないで!」
「ユークリッドが誇るアイドル教師のキミが、おかしなコトを言う」
「た、確かにわたしやみんなは、顔出しに同意したかもだケド、先生はまだだわ」

「ウーム、それもそうだな。撮影は、一旦ストップだ」
 社長の指示と同時に、撮影スタッフが作業を停止する。

「キミはユミアに直接雇われた身だ。ボクにとやかく言う権利は、無さそうだ」
「顔出しが嫌なら、辞めて出て行けと言いたそうですね」
「ま、そんなところさ。もちろん、違約金くらいは払う……」

「その必要はありませんし、後任の教師を探す必要もありません」
「ほう、それでは顔を動画で公開して、構わないと言うのだね?」

「生徒たちが生活難を盾に、顔出しをさせられているのです。ボクだけ逃げられるハズが、ありません」
「ちょ、ちょっと、先生!?」
「仕方ないだろ、ユミア。ボクはキミたちの、担任教師なんだ」

「ならば、撮影を再開しようじゃないか」
「その前に、動画の主旨くらいは聞かせていただけませんか?」
「そうよ。動画に出る以上、みんなにも知る権利があるわ」

「権利なんて言葉は、人間が作り上げた妄想の産物に過ぎないんだが……」
 久慈樹 瑞葉は、眉を上げヤレヤレといった表情を作った後、教壇に立って説明を始めた。

 

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一千年間引き篭もり男・第05章・18話

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朧げな宇宙(そら)

「覚えているかしら、わたしが言った言葉……」
 虚ろな目をした、セノンが言った。

「キ、キミは誰だ……セノンじゃないのか!?」
 トロイア・クラッシック社のリビングに差し込む夕日が、彼女の瞳を紅く染めているのか?

「ええ。このコ、世音(せのん)・エレノーリア・エストゥードって名前みたいね」
 栗色のツインテールに垂れた瞳、あどけない顔、全部セノンのモノだ。

「どうかしら、宇宙斗。千年後の未来の姿は?」
 けれどもその紅く染まった虹彩は、千年前に見せた時澤 黒乃の瞳そのモノだった。

「キミは……黒乃なのか!?」
「どうかしら。そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるわ」
 謎かけするような返答は、黒乃の性格に他ならいない。

「キミは……キミの身体は、火星のフォボスで……」
「そうね。わたしは未来へは、来られなかった」

 ボクを未来へと導いた彼女の身体は、割れてしまった冷凍カプセルの中で朽ち果て、巨大な岩によって押し潰されてしまった。

「だけどアナタを、未来に導くコトはできたわ。わたしは、それで満足よ」
 柔和に微笑む、栗毛の少女。

「キミの居ない未来になんて、なんの価値がある!?」
 ボクは思わず立ち上がって、セノンの身体に迫った。

「わたしは、居るわ。この千年後の未来のあちこちに……」
「え、それって?」

 彼女の言葉を、ボクは未来の色々な場所で実感していた。

「キミは……キミが『時の魔女』なのか?」

「『彼女』は、わたしであって、わたしじゃない」

「あの艦は……クロノ・カイロスは、キミが造ったものじゃないのか?」

「艦が必要だったのよ。アナタをフォボスへと、脱出させる為にね」
 脱出……どうしてそんなコトをする必要が?

「最初は、小さな宇宙船だった。それが核になっているのは事実よ」

「ウィッチレイダーたちは、本当にボクの子なのか?」
「未来に来て、いきなり身に覚えのない子が六十人も現れて、驚いたでしょう」

「そりゃあ驚くさ」
「残念だけど、あのコたちを生んだのは、時の魔女よ」
「そ、それじゃあ!?」

「でも遺伝学的には、わたしと宇宙斗の子になるのかしら」
 セノンは、母親のように目を細める。

「自分のお腹を痛めて生んだ子たちじゃ無いケド、大事にしてあげてね」
 クワトロテールの少女は、ボクの前に歩み寄る。

「え……?」
 セノンは目を閉じ、顔を近づけた。
柔らかい唇が、ボクの唇に触れる。

「わたしはいつも、アナタの傍にいる……それだけは……」
 とつぜん、意識が朦朧とする。

 目の前が真っ暗になり、上も下も解らない宇宙空間を漂う感覚に陥った。
やがてそれさえもが、深淵の闇へと飲み込まれる。

 意識を無くしてから、どれだけ時間が経っただろうか。
けれども眠っている人間にとって、 時間なんて概念は僅か十分でも、例え千年の眠りに付いていようが変わりはしない。

 それだけは、身を持って体験した事実だ。

「……いちゃ……起きて……」
 誰かが、ボクの体を揺らしている。

「大丈夫で……おじいちゃ……」
 途切れ途切れの台詞が、ボクの鼓膜を通り抜けた。

「うう、セノン……なのか?」
 ボンヤリと滲んだ視界に映った、影に向かって問いかける。


「はい、そうですよ」
 眼の焦点(ピント)が合ってくると、栗色のクワトロテールの少女が真上にいた。

「もう、いきなり倒れちゃって、心配したんですからね」
「ゴ、ゴメン。疲れてた……のかな?」

「きっとそうですよ。フォボスでプラント事故に巻き込まれてから、色々ありましたからね」
 セノンは、 いつもの幼さの残る笑顔でほほ笑んだ。

「ああ、そうだった」
 千年後の未来に辿り着いてから、あり得ないくらいに色んな出来事が起きた。

「まるで、全てが現実じゃないみたいに……」
 この時のボクは、まだ夢から覚めていなかったのかもしれない。

 

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ある意味勇者の魔王征伐~第8章・20話

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王都の激闘3

「日記のここ、見てよ。ルーシェリア」
 蒼き髪の少年が言った。

「やはりサタナトスのヤツは、この村の住人に強い恨みを抱いておったのじゃな」
「だからこの村の住人を実験台にして、自分の剣の研究をしたのね」
 カーデリアもシスターの日記に目を通し、過去の悲劇を把握する。

「これでサタナトスの目的が、はっきりしたね」
 舞人はまだ、幼馴染みの少女が命を落とした事実も知らなかった。

「じゃがヤツは目的のためならば、村人より遥かに多くの命を剣に吸わせるじゃろうて」
 漆黒の髪の少女が、哀しい瞳を日記に落とす。

「サタナトスを、止めないと」
「そうね。一旦、ニャ・ヤーゴに戻りましょう」

「こんな悲劇を、繰り返させちゃダメなんだ」
「そうじゃな、ご主人さまよ」
 一行は日記を携え、蒼き少年の生まれ故郷に向け出立した。


 ~その頃、王都では魔王との戦いが繰り広げられていた~

「我が尖刃、『サウザンド・メイルストローム』を受けるがいい!」
 レーゼリックが、細身のレイピアで無数の突きを繰り出す。
彼の進路にいた魔物たちが、体中に無数の風穴を開け倒れた。

 人工オリファルコンのオレンジ色の鎧に、黒きマントを翻したオフェーリア軍は、魔物の大群を竜巻のように飲み込む。

「ヤレヤレ、アレが噂に名高い『テンペストの陣』か。恐ろしいね」
 軍の激突を、遥か上空から見守る金髪の少年。

 そのヘイゼルの瞳には、グラーク司令官の部隊を中心に、次々に新手を繰り出し敵に突撃する、オレンジ軍団の姿が映っていた。

「魔物の軍団は、ボクが加勢したところでもうダメだね……」
 時空を切り裂き、王都ヤホーネスへと舞い戻ったサタナトス。
「でも、ボクが目覚めさせし魔王は、こんなモノじゃないよ」

 炎に巻かれる王都・市街地の中で、民を守りながら奮戦する老将の姿があった。
「皆の者、あと少し耐えて見せよ。今、覇王パーティーと、グラーク公率いるオフェーリア軍が、王都の救援に駆けつけてくれたのだ」

「本当でございますか、セルディオスさま!」
「わたしたち、生きられるかも知れないんですね?」
 彼は王の最期を看取ったあとも、民の命を一人でも多く救うように心がけていた。

「それにはまず、死なないコトだ。ヤツらの仲間入りは、したくはなかろうて」
 老将の視線の先には、魔物と対峙するアンデットの軍団。

「よもや、死した王と再び轡(くつわ)を並べ戦うとは、思ってもみませんでしたぞ……」
 ゾンビたちアンデットは、ネリーニャとルビーニャが蘇えらせた死者たちであり、その中には亡くなったばかりの王の姿もあった。

「アンデットたち、上手く戦ってくれている」
「とくにあのマントのヤツ、妙に強い」
 セルディオスと背中を合わせて戦う王は、若き日の力を一瞬だけ取り戻す。

『ガルルルル……』
 低い唸り声が背後を取り、巨大な前脚が双子姉妹を押し潰そうとした。

「コイツ、魔王の腕から生まれただけあって、やたら強い」
「あの上空を飛び回ってる、鷲も厄介」
 咄嗟に攻撃をかわした二人は、反撃を試みる。

「これは珍しい。魔王から新たな魔物が、生まれているよ」
 それを空から眺める、金髪の少年の姿。

「キサマ、何者だ!」
「その髪の色……キサマが、サタナトスか?」
 ネリーニャとルビーニャが、剣を構えた。

「そうだよ。キミたちも魔族のようだね」
 獅子の前に降り立ち、二人を観察する少年。
「それにしても、ずいぶんと可愛らしい姿じゃないか?」

「好き好んで、こんな姿になったワケではないが……」
「そのクビ、貰い受ける」
「おっと、キミたちの相手は彼らだ」

 突進する双子姉妹の進路を阻むように、獅子が口から火炎を吐き、鷲が上空から羽根をミサイルのように降らせる。
「獰猛なる獅子『イガリマ』と、孤高なる鷲『シュルシャガナ』と、名付けよう」

 命名を終えると、サタナトスは魔王の元へと飛び去った。

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キング・オブ・サッカー・第三章・EP002

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超俊足の(ハイスピード)ストライカー

 とんでもなく速い……ここから部室棟まで、100メートルくらいあるのに。
部員一人とは言え、やっぱ陸上部だけはあるなあ。

「ま、こんなモンよ」
 黒浪さんは、軽快にランニングをしながら戻って来た。

「どうだ、オレさまのスピードは。加速度的にスゲーだろ?」
 加速度的の使いかたが合ってるかわからないケド、トップスピードまでが一瞬だ。
そこからは風のように速い。

「とーぜん単に走るだけじゃ、ぜってーオレさまが勝つに決まってるぜ」
 う、確かに……黒狼のあだ名は伊達じゃない。
軽々しく勝負受けちゃったケド、これじゃボクに勝ち目ないよォ!?

「お前、サッカー選手としてオレさまを、スカウトしに来たんだろ?」
 コクコクと頷く。

「元々オレさまは、小学校まではサッカーやっててよ。陸上には興味すらなかった」
 へー、そうなんだ。
こんなに脚が速いのに、意外かも。

「その頃からスピードでディフェンス、ぶっ千切ってたかんな。試合に出てたオレさまを見た、陸上部の先生に惚れこまれてさ。それで中学じゃ、陸上部に入ったんだ」
 確かに速いから、スカウトしたくなるのもわかる。

「顧問の先生の指導もあってさ。オレさまは陸上の短距離、100とか200メートルじゃ、中学の記録出してんだぜ」
 細くはあるが、しなやかな身体をストレッチでほぐしながら話す、黒浪さん。

「つっても弱かったサッカー部にも、よく助っ人で呼ばれてよ。陸上がヒマな時期は、掛けもって試合にも出てたんだぜ。とーぜん、点も取りまくってた」
 黒浪さんは、超俊足の(ハイスピード)ストライカーなんだ……。

「そこでだ。二人とも、ドリブルで走るってのはど~よ」
 あ、それ助かる。

「こっから部室棟の前まで、どっちが速いか決闘(デュエル)だぜ、一馬!!」
 所々、中二病な黒浪さん。
「……っと、その前にボール用意しね~とな」

 黒浪さんはまた、100メートル先の部室棟まで疾走し、ボールを抱えて戻って来た。

「サッカー部から、ボール借りてきたぜ。さあ、決闘の始まりだぜ!」
 黒浪さん、部室棟までもう二往復してるケドいいのかな?
疑問を浮かべつつもボールを転がして、黒浪さんの真横に並ぶ。

「じゃあ行くぜ。スタートの合図は、あの時計の針が三時を指した時だ!」
 黒狼の異名を持つアスリートは、ボールがあってもクラウチングスタートの体制を取る。

「……」
 ボクたちは、スタートの合図を待った。

 ノックをする野球部のバットの金属音や、ヒラリとスカートを風にはらませながら、テニス部がラケットでボールを打つ音が響く。
共学と銘打ってはいるものの工業高校のウチと違って、女子生徒もかなり多いな。

 三時まで……あと三分くらいだ。

 体育館の開いた扉のすき間から、バスケ部が試合を行っているのが見えた。
校舎脇でチアリーディング部が、バトンを器用に回している。
三分って、長くね?

 グランドでは野球部とテニス部が練習を終え、替わりにサッカー部が練習を始めた。
レオタードの上にジャージを羽織った新体操部が、渡り廊下を歩いている。
別の建物では水着姿の少女たちが、水しぶきを上げ室内プールに飛び込んでいた。

 ……って言うか、秒針見えないんだケド。
チャイムでも鳴るの!?

「悪ィ、一馬。やっぱスマホのストップウォッチを、合図にするわ」
 黒狼は、顔の前で右手を立て謝った。

「じゃ、改めて二十秒後にアラーム鳴るから、それがスタートの合図な」
 ボクが頷くと、再び同じ姿勢を取る黒浪さん。

『リーンゴーン』
 その時、学校のチャイムが鳴り響いた。

 チャイムでアラームが聞こえない。
やり直し……でも、やり直さなたっからボクの負けだ。
耳に意識を集中する。

『パーン』
 陸上部らしいスタータピストルの音が、チャイムの合間から聞こえた。

 ボクはとりあえず、全力でドリブルを始める。
けれども前方に、黒浪さんの姿は無かった。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第04章・第09話

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天空教室(ドールハウス)の人形たち

「そう……だな。だがそれは、ユミアのせいじゃない」
 ボクは、新兎 礼唖に向かって言った。

「わ、わかっています」
 正義を重んじる少女は、冷静さを失っていた自分を顧みる。
「ゴメンなさい、ユミア。アナタを責めるつもりは無かったのよ」

「いいえ、ライア。ユークリッドを造った一人であるわたしも、非難されてしかるべきよ」
 精神的に打たれ弱そうな少女が、無理をして虚勢を張っているように見える。

「今はわたしも、生活や生計をユークリッドに依存してる身よ」
「だねェ。ユークリッドから、お金まで貰っちゃってるし」
 ライアの言葉に、レノンが反応した。

「ユミアの部屋に居候してるモンね、ボクたち」
「まさかこんな高級マンションに住めるなんて、思ってもみなかったよ」
 カトルとルクスの双子姉妹が、合わせ鏡のように顔を見合わせる。

「ですがユークリッド・ニュースイノベーションは、かなりのマスコミを敵に回してますわよ。これではわたくしたちも、白い目でみられかねませんわ」
「そうですわね、お姉さまの仰る通りですわ」

 美を重んじるアロアとメロエの、ゴージャスな体の双子姉妹の指摘。
それはボクも、懸念するところだった。

「スマンな、みんな。アタシが事件なんか起こしたばかりに……」
「そ、それはわたし達を、助けてくれたからでしょ。お姉さま」
「タリアお姉さまが悪いワケじゃ、ありません」

 タリアの周りに群がった七人の少女は、フードの少女を擁護する。

「ですが瀧鬼川 邦康弁護士も、このまま引き下がるとは思えません」
 アイボリー色の髪の少女が、合理的な意見を述べた。
「マスコミも対抗して、わたし達の顔出しまでしてくる可能性もあります」

「メリーの言う通り、公共の電波を使うテレビならともかく、ゴシップ誌ならやりかねないな」
 ボクは、生徒たちを見渡す。

「今居ないのは、キアだけだな?」
「そうよ」
「マンションの周囲は、マスコミで埋め尽くされてるから、入ってこれないのかも知れない」

 もしくは昨日の彼女の様子から、別の理由も考えられた。

「誰かキアのスマホに、連絡できたりしないか?」
「そんなの、とっくにやってるわ。でも、出ないのよ」
 ユミアによれば、SNSにも反応は無いとのコトだった。

「おや。これは何か、問題でもあったのかい?」
 そんな折、久慈樹社長が天空教室に入って来た。

「何よ、また嫌味でも言いに来たワケ。ヒマな社長ね」
「フッ、相変わらずだね、キミは。けど今日は、別の理由があって来たのさ」

 すると教室に、カメラや照明機材を持った人間が押し寄せる。

「何のマネよ。コイツら、マスコミ連中じゃ無いわよね!」
「ああ、ウチのスタッフさ」

「まるで動画撮影でも、しそうな人たちですね。久慈樹社長」
「その通りさ。キミの授業風景を、動画にしようと思ってね」


「はあ? なに言ってんの、アンタ。そんな勝手は、許さないわ」
「動画にすれば彼女たちの顔を晒し、プライバシーを侵害するコトに……」
 ボクたちの反論に、久ユークリッドの代表取締役は口元を緩めた。

「言ってなかったかな。彼女たちとは、元々そう言う契約なんだよ」

「え……?」
「そ、そんな。ウソでしょ!?」
 ボクとユミアは、天空教室の生徒たちの顔を見る。

「まあ、そうなんだ。仕方ないんだよ」
「みんな、家庭になんらかの問題を抱えてるから、契約を結んでいるんです」
 レノンとライアが答えた。

「そう言うコたちを、かき集めたからね。当然さ」
「ア、アンタってヤツは、どこまで……」

「だから美乃栖 多梨愛。彼女の不祥事だって、気にするコトはないんだよ」
「アナタは当初から、タリアの不祥事を穏便に済ませる気など無かったのですね」
「穏便に済ませてしまえば、誰も動画に喰いつかないだろ?」

 久慈樹社長は、教壇に立つボクを押しのけ、生徒たちに演説する。

「今日からキミたち全員が、ユークリッドの天空教室というドラマの主人公だ。どんどん問題を起こし、ハデに暴れてくれたまえ」

 

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一千年間引き篭もり男・第05章・17話

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最も美しい女神に……

「時の魔女の正体……残念ですが、解かりません」
 ボクはそう答えたものの、時澤 黒乃の顔が脳裏に浮かんだ。

「この時代に、名の知れた人物では無いのでしょうか?」
「はい。聞いたコトもありません」

「ですが、トロイア・クラッシック社にしろ、グリーク・インフレイム社にしろ、会社の役員は全員、ギリシャ神話の英雄の名を持っていますよね?」
 ボクは、デイフォブス代表に問いかける。

「まあそうですな。つまり、ギリシャ神話における『魔女』と呼ばれる者を当たれと?」
「ギリシャ神話の魔女ですか……」
 しばらく考え込む、イーピゲネイア。

「冥府の女神ヘカテーは、中世ヨーロッパにおいて魔女の崇拝を受けました」
「アルゴー号のイアソンの航海を助けた、魔女メディアも有名だよね」
「オデッセウスの航海を妨害した、キルケーも魔女とされてるわ」

 イーピゲネイア、セノン、トゥランの、女性と女性型アーキテクターが言った。
彼女たちが挙げた三人の名前を冠する小惑星は、どれもメインベルトに存在する。

「確かにその三名は、魔女や魔女を従える女神として有名ですが……」
「宇宙斗艦長は、他に思い当たる者がいると?」
「ギリシャ神話の中でも、トロイア戦争にしぼってみてはどうでしょうか」

「トロイア戦争に関わった女性は、大勢いるが……」
 デイフォブス代表は、ペンテシレイアたちに視線を移す。

「残念ですがアマゾネスは、魔女では無く戦士です。代表」
 アマゾネスの女王の名を持つ女性が、気高く言い放った。

「わたしの名もトロイア戦争の折、父アガメムノンによって神の生贄とされた、皇女の名前ですが」
「戦争の原因となったヘレネーや、パリスの妹で預言者のカッサンドラなんかもそうね」

「あ。なんか正解が、わかった気がします」
 セノンが、小さく手を挙げた。

「いや、ボクも正解かどうか解からないよ」
「そうですな。ですが調べてみる価値は、あるでしょう」

「資料作りはお任せ下さい。今挙がった名前に関する情報を、ピックアップしてみます」
 ペンテシレイアたちは、一礼すると部屋を出て行った。

 それから暫く談笑したのち、イーピゲネイアとデイフォブス代表もリビングを後にする。

「オレたちはこの小惑星をぶらついて、情報を仕入れてくるぜ」
「艦長は先に、艦に戻っていてください」
 プリズナーも、トゥランと共に出て行った。

「みんな、言っちゃいましたね」
 リビングに残された、セノンが呟く。

「そうだね。ボクたちも、帰ろっか」
「おじいちゃん……」
「ん、どうした?」

「さっき、言いかけてた魔女の名前……」
「ああ、けど言ったろ。ボクにも、正解なんて解からないんだ」

「でも、おじいちゃんが考えてる女神はいますいね?」
 セノンは、魔女では無く女神と言った。

「ひょっとして、『エリス』じゃないですか?」

 クワトロテールの幼い顔が、人工的に作られた夕日色の染まる。

「エリス……」
 それは千年前に、ボクが時澤 黒乃に重ねた女神だった。

「トロイア戦争って、パリスが三人の女神の中で、誰が一番美しいかを決めたのが原因なんですよね?」
「そう……だね」

 アテナ、ヘラ、アフロディーテの三人の女神は互いに美を競い、誰が最も美しいかを人間であるパリスに審判させる。
アテナは戦争での名誉を、ヘラは権力と富を提示し、パリスの心を引こうとする。

「結局のところ、アフロディーテが絶世の美女であるヘレネーをパリスに与え、『美の女神』の称号を手に入れたワケだケド……」
「でもでもヘレナーが原因で、トロイア戦争は始まっちゃうんですよね」

「ああ。そして三人の女神に、黄金のリンゴを送ったのが……」
 リンゴには、『最も美しい女神に……』とだけ、添えられていた。

「エリス……」
 そう言ったセノンの瞳は、千年前の時澤 黒乃のように紅く染まっていた。

 

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ある意味勇者の魔王征伐~第8章・19話

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王都の激闘2

 煤けた戦場の風が、雪影の頬を撫でる。

「いざ、参る」
 剣士の両腕には、鞘から解き放たれた二本の刀。
一振りは真っ白な刀身であり、もう一振りは漆黒だった。

「白夜丸よ、移ろえ!」
 剣士の右手の刀が、淡雪のごとくほんのりと光る。
……と同時に、雪影の身体か何体も現れた。

「分身か?」
「いや、時空に干渉しているのだ」
 それを見たネリーニャとルビーニャの前で、魔王の右腕が斬り落とされる。

「雪影さまの白夜丸は、移ろう刻の剣。時間の中を移動し、同時攻撃や回避を行うのです」
 リーフレアの言葉通り、反撃に出た魔王の吐く火球の前から、瞬時に消え去る雪影。

「なるホドな。今の我々では勝てないと、蒼き髪の小僧が言っていたが……」
「あながち、虚言でもないと言うコトか」
 悔しさを滲ませつつも、双子の元死霊の王は魔王の左手をも斬り落とす。

「あ、あの二人もスゴイです」
「そんなコトより、リーフレア。こっちも、強力魔法で行くよ!」
「ハ、ハイ。姉さま!」

 双子司祭はユニコーンを降り、魔法の詠唱を開始する。
一角獣は、幻のように消えて行った。

『グオオオオォォオォーーーーーーーン!!』
 腕を落とされた魔王は四枚の翼を広げ、雄叫びと共に空へと舞い上がる。

 すると、街に堕ちた右腕はライオンの姿となり、左腕は鷲となって空を舞った。
獅子の周りには、牛やイノシシなど獣の頭の魔物が集まり、鷲は鳥の魔物を率いて街を襲う。

「マ、マズイです、姉さま」
「このままじゃ、街が……」
 呪文に集中できないリーセシルと、リーフレア。

「ネリーニャ、ルビーニャ。お前たちは、魔物の相手をしろ。わたしは、魔王を屠る」

「フン、偉そうに命令するな」
「わたしたちは、お前の部下になった覚えは無い」
 雪影に反発すつ双子姉妹だったが、彼女たちの周りを魔物が囲む。

「雑魚とは言え、群れて数を頼みにされては厄介」
「仕方あるまい。死霊の王たる我らが力を、見せてやろう」
 ネリーニャとルビーニャは、剣をクロスさせた。

「リ・アニメーション!!」
 二人の声が重なる。

「ね、姉さま、あの魔法は!?」
「あのコたち、とんでもない魔法を……」
 驚く双子司祭の前で、王都の地面に転がった死者たちが動き出す。

「クッ、クッ、ク。自らが暮した王都を守れるのだ」
「我らが尖兵となって、奴らを攻撃せよ!」
 二人の指示で、死者たちは揺ら揺らとした足取りで行進を始めた。

 その中にはあらゆる年齢、性別、職業の住人が入り混じる。
鎧を纏った兵士や、彼らに倒された魔物の姿さえあった。

「何と言う、バチ当たりな……」
「でも今は、不満を言っている場合じゃない。この隙に、呪文を完成させるよ」

「我らも、魔物の親玉を仕留めよう」
「魔王は任せたぞ、雪影」
 二人は、瓦礫の上に立った剣士を見上げる。

「フッ、相分かった。心おきなく、魔王と対峙しようぞ」
 剣士は、再び魔王に向かって宙を舞った。

 死者の主たる双子は、獅子と鷲の魔物へと飛び掛かり、死者たちも魔物の軍勢に襲い掛かる。
生き残った住人たちは物陰に身を潜め、闘いの様子を見守った。

 同時刻、王都の外でもオレンジ色の軍装の軍団が、魔物の大軍に戦いを挑んでいた。

「これより、テンペストの陣を敷く。各隊、突撃を開始せよ!」
 司令官たるグラーク・ユハネスバーグの号令と共に、馬が駆け出し歩兵は隊列を組んで行軍する。

「先陣は、このニーケルス・ユハネスヤーブがいただいたぜ。オラ、どきな!」
 立派なもみ上げをした将軍が、巨大な大剣で魔物の群れを薙ぎ払う。

「オレの『ブロークン・メテオザッパー』は、全てを焼く尽くすぜ!」
 ニーケルスの一閃は、巨大な火球となって魔物の群れへと襲い掛かる。

『ギャアアアアーーーーッ!?』
 断末魔と共に、消し炭となって消え去る魔物たち。

 オレンジ色の軍団は、五倍の数の魔物の軍団の間を駆け抜けた。

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