天空教室の少女たち
「まず、動画のタイトルは『天空教室の少女たち』」
「うわ、キモ。なにそのキモ過ぎるタイトルは!?」
社長の説明の初っ端から、あからさまに嫌悪感を顕すユミア。
「そのキモ過ぎる連中が、メインのターゲットになるんだが……」
「何でわたし達が、そんなヤツらの見世物に成らなきゃいけないの!」
「キミをアイドル教師ともてはやしていたファンの多くは、そんな連中だと思うぞ?」
「そ、それは……」
「昔はキミも、アイドルに乗り気と言うか、喜んでやっていたじゃないか」
「う、うっさい!」
「うるさい……と言うのは、否定ではなく肯定の言葉だからね」
久慈樹社長は、真っ赤な顔のユミアに追い打ちをかける。
「『その通りだケド、そのコトには触れるな』って意味のね」
「確かにそうね。言われてみれば」
合理主義者のメリーが、納得してしまう。
「まあキミの場合、世叛の前でアイドルごっこをやるのが、楽しかったんだろう?」
「う、うるさい。黙れェ!」
冷静さを、そぎ落とされているユミア。
「久慈樹社長。もうカメラは回ってるんですよね?」
「ああ、そうさ。ボクとしては、生放送が好みなんだがね」
どうやら動画は、編集されて公開されるらしい。
「残念ながら今の視聴者は、ガッツリ編集された動画を見慣れてしまってる」
「元は素人だった動画配信者さんたちが、あらゆる分野でテレビ局顔負けの編集された動画をアップしているのですわ」
「お姉さまの仰る通り、素晴らしい時代ですわ」
「おかけで生配信は、動画が視聴者を獲得し定着した後、たまに差し込むくらいだな」
アロアとメロエは動画の編集を肯定的に感じ、久慈樹社長は否定的に捉えていた。
「そ、それで、肝心の動画内容はどうなのよ?」
顔色が元に戻りつつあった、ユミアが言った。
「キミらの授業風景を撮る……それだけさ」
「それだけ?」
「まあ解り辛い場所は、編集は入れるだろうがね」
「ですが先生の授業は、学校での授業風景に近いモノがあります」
「そ、そうよね、ライア。今まで散々、学校教育や義務教育を散々否定してきたユークリッドが、そんなコトを始めたら……」
「とてつもない『ヘイト』が集まるだろうね」
久慈樹社長は、ライアやユミアの懸念を折り込み済みだった。
「アタシも社長の話聞いたとき、ええッ、ユークリッドが教室で授業始めんのォって思ったモン」
「解ってるのか、バカライオン。今度は、アタシらがヘイト集める対象になるんだぞ」
「な、なんだよ、タリア。解ってるって」
「やはりボクの授業の内容にも、制約が入るんでしょうね」
「いや、一切入れるつもりは無い」
「え?」
意外だった……が、直ぐに答えは導きだされる。
「例えキミの授業が、どれだけ退屈で面白味を欠き、全国の視聴者を眠りへと誘う授業であってもね」
久慈樹 瑞葉はボクの未熟な授業を使って、あえてヘイトを集めようとしているのだ。
「せ、先生の授業が退屈だなんて、失礼にもホドがあるわ!」
「だから『例え』と、言っているだろう?」
「ですがモノは考えようですわ。ヘイトが集めれば、同時に脚光も浴びると言うコト」
「脚光を浴びるのは、悪いコトばかりではありませんわ」
「アロアとメロエが言った手法は、実際に多くのブロガーや動画編集者たちが使っている手だね」
「炎上狙いのヘイト集めって、ボクはぜんぜん好きになれないよ」
美貌の双子姉妹の言葉を、ボーイッシュな双子が否定する。
「世の中、綺麗ごとだけではありませんコトよ」
「上にのし上がって行くのに、手段なんて選んでられませんわ」
二組の双子の意見は、反目しあって収まりがつかない。
「キミたちの人生は、教民法やユークリッドの登場によって、少なからず歪んだ」
久慈樹社長は、高らかに宣言した。
「この動画で、キミたちが何を表現し、どう変わって行くか……それは、キミたちの自由だ」
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