王都の激闘4
王都ヤホーネスは、歴史ある都である。
北は山岳地帯が盾となり、西から南へと流れる大河は鉄壁の守りと共に、肥沃な土地を与えてくれた。
5つの小さな都市国家が集まり、それぞれを城壁で結んだ巨大な要塞都市へと発展する。
つまりは城壁の内側に城壁があるという、イビツな構造が生まれてしまった。
無駄な城壁は観光客が迷いやすいとか、商売の妨げになるなど、国民の不満の象徴ともなっていた。
「今もなお、大勢の人間が生き残れているのは、無駄な城壁のお陰と言うのも皮肉なモノだな」
長年に渡りヤホーネスに仕えた宿将、セルディオスは言った。
「魔物の進入を許し、上がった火の手が街を焼こうとしている現在……」
「無駄と思われた城壁は、防火壁の役割を果たしております」
「進入した魔物も、入り組んだ街並みに迷い、各個撃破され数が減ってやがるぜ」
老将や王の回りに集った騎士や獣戦士、魔導士たちが、城壁の価値を再認識する。
「元老員の、五大元帥が全員無事とは、何よりのコト」
「フッ、どうだかな。レーマリア皇女に王権を継がせるならば、我らが死んでくれた方が好都合だったであろう?」
ヤホーネスは、その国の成り立ちから、5つの都市国家の合議制で王が決まっていた。
「今は、権力をどうこう言っている時ではありません。わたくしの配下の神官たちも、大勢がエキドゥ・トーオの王宮と共に、命を落としました」
「それはこっちも同じだぜ。大勢の獣人たちが、炎に焼かれて死んじまった」
規律を重んじる、騎士国家の代表である『ジャイロス・マーテス』
王宮魔導所を統括する神聖国家の代表、『ヨナ・シュロフィール・ジョ』
河べりに栄えた獣人の国家代表、『ラーズモ・ソブリージオ』
五大元帥の中の、三人が言った。
「今はこの場を切り抜け、城外へと民を避難させるのが先決かと」
「老将の言われる通りだが、よもや死した王や兵士たちと共に、戦うとは思いませんでしたぞ」
「ま、それで国民の命が救われるんなら、王や兵士たちだって本望でしょうよ」
武士道を重んじる、東国より落ちた伸びた侍や忍びたちの国家代表、『カジス・キームス』
魔導師ギルドを中心に発展した魔導国家の代表、『リュオーネ・スー・ギル』
彼らは南側の城門に民を誘導し、王都脱出を図る作戦を実行に移した。
~その頃~
白紫色の髪の剣士は、王城の瓦礫に降臨する魔王に立ち向かっていた。
「古の魔王よ。そのクビ……貰った」
雪影は、白の刀身と黒の刀身の二振りを抜き、魔王のクビ元目掛けて跳ぶ。
「ヤレヤレ、甘いねえ。そんな攻撃じゃ、ボクの魔王は倒せないよ」
攻撃の最中に聞こえた言葉に、雪影は一瞬身を引く。
すると魔王の前に、謎の黄色い壁が出現した。
「な、なんだ……蝗(イナゴ)の群れか!?」
「そうだよ。魔王・『ザババ・ギルス・エメテウルサグ』は、全ての作物を喰い散らかす、イナゴの群れを支配するのさ」
サタナトスの言った通り、イナゴは黄色い霧となって街へと押し寄せる。
ネリーニャとルビーニャが蘇らせた、アンデットの軍団も魔物の餌食となった。
脱出が間に合わなかった人間さえも、生きたまま八つ裂きにされ喰われる。
「フフフ、素晴らしい光景だろう」
「キサマが、サタナトス……」
「人間が、小さな羽虫に食べられてるよ。まあ、言うほど小さくは無いケドね」
イナゴは大きい物では、1メートルを越える個体までいた。
「キサマ、一体何が目的だ」
「目的か、そうだねえ。この世の破壊かな?」
無邪気に笑う、金髪の天使。
「この世界は、キサマのオモチャでは無い!」
「ククク。そんなコトは、ボクの魔王を倒してからほざくんだね」
「ならば、そうさせて貰おうか」
「何を無謀な。赤毛の英雄でも無いキミ一人に、魔王が倒せると……ッ!?」
サタナトスは悪寒を感じ、言葉を詰まらせる。
「この天酒童 雪影。シャロリュークを倒せぬと思ったコトなど、一度も無い!」
剣士は真っ白なオーラと、禍々しい邪気の二つを纏っていた。
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