大魔導士の願い
巨大な光球となって輝く水晶球に、小さく映し出される鋼の天使たち。
「これが重機構天使(メタリエル)と、呼ばれる者たちなのですか?」
ヨナ・シュロフィール・ジョ元帥が、リュオーネに問いかける。
「そうだよ、ヨナ。海の底に沈んでいた伝説の都市、アト・ラティアが突如として深海より浮上して、天空都市となったあの日、放って置いた使い魔たちが捉えた映像さ」
「天使がまるで、甲冑を纏ったような出で立ちですな……」
外観の感想を述べる、カジス・キームス元帥。
「わたしの研究している魔導人形と、そっくりだろう。元々、魔導人形の技術は、古来に栄えた伝説の国、アト・ラティアで生まれたとされている」
「そ、それでは……」
「ああ。重機構天使は、魔導人形の技術のオリジナルなのだろうな」
「だがよ、リュオーネ。映ってんのは、かなり離れた場所からの映像じゃねェか。これだけじゃ、メタリエルってのが本当に強いのかも解らんぞ」
ラーズモ・ソブリージオ元帥が、またしても苦言を呈す。
「実際に交戦した、バルガ王や側近の方がお話されておりました。メタリエルの1体は、大魔王とされてしまった海皇サマに匹敵する強さだとのコト。敵には、回したく無いですね」
レーマリア女王が、バルガ王との会談で得た情報を伝えた。
「ですが現状、メタリエルたちがサタナトスの陣営寄りに、動いているのも事実です」
「お前の言う通りだよ、ヨナ。アイツらが根城にしているのも、天空都市となったアト・ラティアだ」
褐色の肌の魔女は、シャッポーを深く被り直す。
「だったらメタリエルのヤツらが、サタナトスの仲間になっちまうのも、時間の問題じゃねェか。イヤ、もうとっくに、そうなっちまってんのかも知れねェぜ?」
「最悪を想定すれば、お前の言う通りだよ、ラーズモ。だけどアイツらの1体は、自分の部下を蒼き髪の勇者に接触させて来たんだ。罠かも知れんが、完全に敵対しているとも思えん」
「リュオーネ、貴女の真意はなんなのです?」
女王レーマリアは、大魔導士に目的を問うた。
「率直に言うぞ、女王。わたしを、カル・タギアに派遣してはくれぬか」
「オイオイ。ただでさえ壁が崩れて手薄な王都の防衛だってのに、元帥で大魔導士でもあるアンタまで、王都を離れるってのかよ。さっき女王陛下に、説教垂れてたじゃねェか?」
「まあ聞きなよ、ラーズモ。今、研究している魔導人形が完成したあかつきには、王都の防衛力を大きく高めてくれるハズなんだ」
「そのためにも、実際にメタリエルを自分の目で、見てみたいのですね?」
「理由は、もう1つある。カル・タギアには、この世界の知識を集めた図書館があってな。数多の本に埋もれている知識の中に、アト・ラティアに関するモノが眠っているかも知れん」
「リュオーネ、貴女の見解は理解いたしました。カル・タギアに帰還するバルガ王に掛け合って、随伴をお願いしてみましょう」
「ああ、よろしく頼むぞ、女王陛下」
大魔導士はシャッポーを外し、礼をした。
それは元帥たちでさえ、始めて見る姿だった。
「女王陛下。本日の午後より、我が国とカル・タギアとの同盟締結の式典がございます」
「サタナトスの襲撃によって、両国の民心は激しく揺らいでおりますからな」
「民衆の目に見えるカタチで示す必要があるってのも解るが、難儀な話だな」
「それが、王家に生まれた者の務めなのですよ……」
女王が席を立つと、会議に集った4人の元帥たちも立ち上がった。
ヨナに付き添われたレーマリアは、別室で式典用の服へと着替える。
日が空のてっぺんに達する頃には、王城の広場に大勢の民が押し寄せていた。
「バルガ王、そろそろ式典の準備をして下さいよ」
「そうだぞ。これだけ大勢の、ヤホーネスの民が集まっているんだ。恥ずかしい恰好では、カル・タギアが笑いものになる」
海底都市の王に付き従う、2人の側近が苦言を呈(てい)す。
「これも、王家の務めってヤツか。仕方ねェな」
王は、小さい塔(タレット)の小さな窓から下を見降ろすと、重い腰を上げた。
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