ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第05章・19話

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千年後の未来の買い物

「この街は、今は昼間なんだな」
 ボクたちは、小惑星パトロクロスの内側をくり抜いてできた街を、歩いていた。

「人工太陽が、一日の明るさを調整してますからね」
「ここでの一日って、24時間なのか?」
「はい。宇宙の殆どの場所で、地球での一日が基準となってるんです」

「でも、地球のどこの時間帯に合わせてるんだ。やっぱ、ギリシャか?」
「違うぜ。ここは、アナトリアの時間に合わせてる」
 ボクとセノンの前を歩く、三人の少女の一人が言った。

「そうなのか、真央。でも、どうしてアナトリアなんだ?」
「それは、トロイア戦争に登場する国家、トロイがあった場所とされてるから……」
「二十一世紀だと、トルコ共和国の辺りかな?」

 ヴァルナとハウメアも、コミュニケーションリングで得た情報をボクに伝える。

「今の時代は誰でも、歴史学者顔負けの知識が簡単に手に入るんだな」
「そうですよォ。あらゆる知識に、 アクセスが可能なんです」
「『有識者』なんて言葉が、滑稽に思えるよ」

 でもそれは、二十一世紀の時点で始まっていたのかも知れない。
スマホやインターネットは、有識者という言葉の価値を低下させていた。

「でもでも、マケマケたちの上陸許可が、早めに降りて良かったのです」
「そうだな。セノンだけショッピングが楽しめるのも、ズルいからな」

「だけどこの時代、お金は存在しないんだろ。どうやって買い物をしてるんだ?」
「えっとそうだな。まず衣食住に関わるモノは、全部無料で提供されるぞ」
「そ、それでどうやって、生活し食っていくんだ!?」

「問題はない。アーキテクターたちが、自動で生産してくれる」
「そ、そうなのか。つまり、働く必要すら無いと?」
 それだけ聞くと、未来は夢のような場所に思える。

「でも、店員がいる店もあるぞ」
 ひょっとしてアレも、アーキテクターなのか?

「そうですね。それじゃあお店に、入ってみましょうか」
 セノンは、ブティックのような店へと入っていく。

「すみませーん。この服、貰っていきますね」
「やっぱ、無料なんだな……」
「当たり前じゃん」

「まだ高校生だったから、働いたコト無いケド、親が聞いたら嘆きそうだな」
 セノンと三人娘は、さっさと服を選んで試着室へと向かう。

「光の粒子が輝いて、勝手に服が切り換わる……ってのは無いのな?」
「何ソレ。アニメじゃないんだよ」
「未来の常識が、解からん!」

 一人だけロートル(旧式)な脳みそのボクが、千年もの世代間ギャップに苦しんでいると、四人の少女が試着室から飛び出してきた。

「か、可愛いな、みんな……」
 オペレーターのフォーマルな服から、華やいだカジュアル服を纏った少女たち。
ボクは思わず、本音を吐露した。

「エヘヘ。ありがとです、おじいちゃん」
「まあ褒められるのも、悪くないね」
「真央、照れてる」

「照れてねーし」
「顔を真っ赤にして、言われてもねえ」
「だ、だから違うっての。ヴァルナ、ハウメアァ!」

「皆さん、よくお似合いですよ」
 ブティックの、店員らしき女性が言った。

「あの、貴女は人間……ですよね?」
「え、ええ。最近は、アーキテクターも、人間に見間違えるタイプも居ますからね」
 しまった……気を悪くさせてしまった。

「おじいちゃん。店員さんは、ちゃんと人間ですよ」
「まあアーキテクターが、やってる店もあるケドな」

「でも、今は働く必要は無いんじゃ?」
「ええ。でもわたしは、働きたいんですよ」

「ど、どうして?」
「わたしがデザインした服が、お客さんに喜ばれるのが嬉しいんです」
「お金が……貰えるワケじゃないのに?」

「は、はい。もしかしてアナタは……」
「はい。冷凍睡眠者(コールドスリーパー)です」

「そうでしたか。昔はお金のために、働いていたとは聞いています」
「今は、何のために働くのですか?」
「人それぞれとは思いますが、やり甲斐ではないでしょうか」

 ボクは彼女の言葉に、お金に支配されていない世界の姿を見た。

 

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