王都の激闘5
「白夜丸よ、刻を移ろえ」
再び雪影の右手の刀が、淡雪のごとくほんのりと輝き出す。
サタナトスの目の前で、舞い跳ぶイナゴの群れ。
その瞳には、一匹一匹がスローモーションのように、ゆっくりと動いて見えた。
「これは……時間に干渉しているのか?」
「フッ、我が白夜丸の虚ろなる世界で、それだけ動けるとは大したモノだ」
サタナトスとの間合いを詰める、雪影。
「天酒童 雪影……キミがあの、天下七剣を二振りも持った剣士か?」
「もう一つの刀の力も、拝ませてやろう」
雪影の左手の剣が、漆黒の瘴気を纏う。
「黒楼丸よ、ヤツを死へと誘え」
「な、なにィ!?」
漆黒の瘴気は、黒い霧となって辺りを覆った。
街を覆い尽くしていたイナゴの群れは、炭のようになって崩れ去る。
瘴気は魔王の身体にも纏わりつき、巨大な魔王は咆哮を上げて悶え苦しんでいた。
「敵の動きが、鈍ったぞ」
「アイツの刀は、わたしたちと似た力を持っているのか?」
元・死霊の王たるネリーニャとルビーニャが、雪影を仰ぎ見る。
二人の前で、獰猛なる獅子イガリマは地面に這いつくばり、孤高なる鷲シュルシャガナは飛べなくなって墜落した。
「死霊剣べレシュゼ・ポギガルよ。敵を呪い抹殺しろ」
「死霊剣フェブリュゼ・ポギガルよ。敵に猛毒を撃ち込め」
二人の剣が、獅子と鷲を捉える。
「せっかく命名してやったのに、もう倒されちゃうなんて」
「心配はいらん。キサマも、直ぐに後を追わせてやる」
「どうだかね。ボクの魔王は、まだ終わらない」
魔王は、身体に纏わりついた瘴気を振り払った。
「ムゥ、我が黒楼丸が呪縛を……」
「魔王ザババ・ギルス・エメテウルサグは、残念ながらボクが生み出した魔王では無いのさ」
サタナトスは、ラディオの蜃気楼の剣で時空の裂け目を作り、黒い霧を吸わせる。
「なに……では、コイツの正体は一体?」
地に伏せていた獅子と鷲の身体が消え去り、魔王の手に刀となって握られる。
「古代神。太古の時代、人々に神として崇められていた存在だよ」
「魔王の腕が復活した。しかも、六本に増えてる」
「腕に、獅子の剣と、鷲の剣が握られてますよ、姉さま!」
呪文の詠唱をしていた双子司祭も、異変に驚きを隠せない。
「これはもう、高位魔法を叩き込むしかないよ、リーフレア!」
「わ、わかりました、姉さま」
薄いピンク色の髪の、二人の少女の周りに多重魔法陣が展開する。
「準備は完了です、雪影さん」
「そこを、どいてェーーー!!」
魔法陣は更に、厚く垂れこめた雲にも無数に展開した。
「メタトロニック・メテオフォール」
リーセシルが叫んだ。
やがて無数の流星群となって、魔王に向け降り注ぐ。
「ア、アレは、流星を滝のように降り注がせる高位魔法。いくら制御されているとは言え、王都への被害は避けられません…」
それを目撃した神官長、ヨナ・シュロフィール・ジョが懸念を示す。
「我らが弟子は、そこまで愚かではないぞ、ヨナ。ヤツらは、双子だからね」
魔術師ギルドの主でもある、リュオーネ・スー・ギルの言葉通り、リーフレアの詠唱が完了した。
「アトランティカ・ガーディアンウォール」
巨大な岩の壁が、魔王を中心とした円形に出現する。
「ありゃあ、物理も魔法も遮断する、絶対防御の障壁じゃねえか」
「それを流星魔法を打ち込んだ魔王自体にかけて、外への被害を阻止すると共に、内部の熱を無限増長させている……」
驚きを隠せない、獣人の長ラーズモと、騎士団長ジャイロス。
「まったくあのコたちは、どれだけの才能を持っているのでしょう……」
「感動は後ですぞ、ヨナ様。今は、民を安全な場所に導くのが先決」
「そうですね、セルディオス将軍。今は我らができるコトを、精一杯行いましょう」
その後、セルディオスと五人の元帥に護られた王都の民は、無事に難を逃れるコトとなる。
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