王都の激闘3
「日記のここ、見てよ。ルーシェリア」
蒼き髪の少年が言った。
「やはりサタナトスのヤツは、この村の住人に強い恨みを抱いておったのじゃな」
「だからこの村の住人を実験台にして、自分の剣の研究をしたのね」
カーデリアもシスターの日記に目を通し、過去の悲劇を把握する。
「これでサタナトスの目的が、はっきりしたね」
舞人はまだ、幼馴染みの少女が命を落とした事実も知らなかった。
「じゃがヤツは目的のためならば、村人より遥かに多くの命を剣に吸わせるじゃろうて」
漆黒の髪の少女が、哀しい瞳を日記に落とす。
「サタナトスを、止めないと」
「そうね。一旦、ニャ・ヤーゴに戻りましょう」
「こんな悲劇を、繰り返させちゃダメなんだ」
「そうじゃな、ご主人さまよ」
一行は日記を携え、蒼き少年の生まれ故郷に向け出立した。
~その頃、王都では魔王との戦いが繰り広げられていた~
「我が尖刃、『サウザンド・メイルストローム』を受けるがいい!」
レーゼリックが、細身のレイピアで無数の突きを繰り出す。
彼の進路にいた魔物たちが、体中に無数の風穴を開け倒れた。
人工オリファルコンのオレンジ色の鎧に、黒きマントを翻したオフェーリア軍は、魔物の大群を竜巻のように飲み込む。
「ヤレヤレ、アレが噂に名高い『テンペストの陣』か。恐ろしいね」
軍の激突を、遥か上空から見守る金髪の少年。
そのヘイゼルの瞳には、グラーク司令官の部隊を中心に、次々に新手を繰り出し敵に突撃する、オレンジ軍団の姿が映っていた。
「魔物の軍団は、ボクが加勢したところでもうダメだね……」
時空を切り裂き、王都ヤホーネスへと舞い戻ったサタナトス。
「でも、ボクが目覚めさせし魔王は、こんなモノじゃないよ」
炎に巻かれる王都・市街地の中で、民を守りながら奮戦する老将の姿があった。
「皆の者、あと少し耐えて見せよ。今、覇王パーティーと、グラーク公率いるオフェーリア軍が、王都の救援に駆けつけてくれたのだ」
「本当でございますか、セルディオスさま!」
「わたしたち、生きられるかも知れないんですね?」
彼は王の最期を看取ったあとも、民の命を一人でも多く救うように心がけていた。
「それにはまず、死なないコトだ。ヤツらの仲間入りは、したくはなかろうて」
老将の視線の先には、魔物と対峙するアンデットの軍団。
「よもや、死した王と再び轡(くつわ)を並べ戦うとは、思ってもみませんでしたぞ……」
ゾンビたちアンデットは、ネリーニャとルビーニャが蘇えらせた死者たちであり、その中には亡くなったばかりの王の姿もあった。
「アンデットたち、上手く戦ってくれている」
「とくにあのマントのヤツ、妙に強い」
セルディオスと背中を合わせて戦う王は、若き日の力を一瞬だけ取り戻す。
『ガルルルル……』
低い唸り声が背後を取り、巨大な前脚が双子姉妹を押し潰そうとした。
「コイツ、魔王の腕から生まれただけあって、やたら強い」
「あの上空を飛び回ってる、鷲も厄介」
咄嗟に攻撃をかわした二人は、反撃を試みる。
「これは珍しい。魔王から新たな魔物が、生まれているよ」
それを空から眺める、金髪の少年の姿。
「キサマ、何者だ!」
「その髪の色……キサマが、サタナトスか?」
ネリーニャとルビーニャが、剣を構えた。
「そうだよ。キミたちも魔族のようだね」
獅子の前に降り立ち、二人を観察する少年。
「それにしても、ずいぶんと可愛らしい姿じゃないか?」
「好き好んで、こんな姿になったワケではないが……」
「そのクビ、貰い受ける」
「おっと、キミたちの相手は彼らだ」
突進する双子姉妹の進路を阻むように、獅子が口から火炎を吐き、鷲が上空から羽根をミサイルのように降らせる。
「獰猛なる獅子『イガリマ』と、孤高なる鷲『シュルシャガナ』と、名付けよう」
命名を終えると、サタナトスは魔王の元へと飛び去った。
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