最初のクエスト
王城や王宮が破壊され、多くの重要施設も倒壊したヤホーネスの王都。
無事だった城壁の塔に急遽、女王の借りの御所が儲けられる。
「カーデリアは……どうしております?」
武骨に開いた岩組みの窓から、雲が低く垂れこめる空を見つめるレーマリア。
「地下の聖堂にて、泣き伏せっておいでです」
「既に1週間近くも、殆ど食事を取られておりません」
「余程シャロリューク様のコトが、堪えたのでしょう」
女王の側近である、アルーシェ、ビルー二ェ、レオーチェの3人の少女騎士は、恭(うやうや)しくヒザを突き答える。
「そうですか。元はと言えば、わたくしの判断ミスが招いたコト」
フラッシュが光り、黒雲に雷鳴が轟いた。
「本来の力を取り戻していない、少女の姿のシャロリューク様を、危険な探索任務に派遣してしまいました。カーデリアには、何と言って詫びれば良いか……」
「女王陛下。お気持ちは察しますが、今は嘆いてばかりも居られませんぞ。サタナトスは、着々とその陣容を整えておるのです」
東方より堕ち伸びた、侍や忍びたちが造った国の代表、カジス・キームス元帥が指摘する。
丸い塔の窓辺には、女王とその側近たちが居て、中央に置かれたラウンドテーブルに、5人の元帥たちが集まっていた。
ヤホーネスを構成する5つの国家の代表である彼らは、元老院のトップでもある。
「由々しき事態であるコトは、確かですな。天下7剣のうち少なくとも、エクスマ・ベルゼとバクウ・プラナティスの2振りが、かの者の手に落ちたのですからな」
騎士国家の代表である、ジャイロス・マーテスが厳格な顔を歪めた。
「のう、レーマリア女王よ。天下7剣とは、どんな剣を指すのじゃ?」
円卓の大きな椅子に小さな体を任せる、漆黒の髪の少女が会話に割り込む。
「キサマ、女王陛下に対し慣れ慣れしいぞ」
「お止めなさい、ジャイロス。剣のコトであれば、貴方の方が説明するのに適任でしょう」
「は、はあ。陛下が、そうおっしゃるのであれば……」
ザバジオス騎士団の団長でもあるジャイロスは、渋々説明を開始する。
「天下7剣とは、かつてこの世界を破滅に導いた7体の魔王を、その刀身に封じた7振りの剣である」
「ほう、魔王をその身に宿しておるのかえ?」
「伝説では、そう伝わっておるが真実かは解らん。爆炎の剣エクスマ・ベルゼ、幻影剣バクウ・ブラナティス、雪影の宵明けの他に残り4振りが存在する」
「ム、雪影とやらは、2振りを持っているのでは無いのかえ?」
「かの者の刀、白夜丸と黒楼丸は、2振りで1つの剣にござる」
カジス・キームスが、ジャイロスの代わりに答えた。
「奪われたエギドゥ・メドゥーサスも、サタナトスのヤツが似たようなコトを言っておったわ」
「魔眼剣エギドゥ・メドゥーサスを持っていただと。それは誠か?」
「嘘を付く必要も、なかろう。ご主人さまの武器屋の倉庫にあったモノを、引っ張り出したのじゃ」
ジャイロスの無礼な態度に、腹を立てるルーシェリア。
「あの眼がいっぱい付いた、呪われた剣だろ。まさかあんなのが、天下7剣の1振りだなんて……」
「イヤ、蒼き髪の勇者よ。かの剣自体が、天下7剣と言うワケではない。エギドゥ・メドゥーサスは、三位一体の剣にござる。3本が揃ったとき、真の姿を顕すのだ」
「ふむう。そう言えばサタナトスめも、魔眼剣エギドゥ・エウリュアレースと呼ぶ、瓜二つの剣を持っておったわ」
「素材となる剣のうち、既に2振りが、サタナトスの手にあると言うコトですか」
女王は、大きくため息を付く。
「ルーシェリア。サタナトスは、残る3本も狙っているんだよね」
「そうじゃ、ご主人サマよ。彼奴自身が、そう言っておったわ」
「残る天下7剣で、行方が知れているのは1本のみ。忘れられた海底神殿に、海洋民族フェニ・キュア人の宝として祀られていると聞きます」
無き王宮を統括していた神聖国家の代表、ヨナ・シュロフィール・ジョが、宝剣の在り処を示した。
「サタナトスの魔の手が及ぶ前に、何としても宝剣の持ち主を味方に引き入れなければなりません」
女王は振り向き、皆の集うラウンドテーブルに歩み寄る。
「因幡 舞人。この任務、引き受けてくれますか?」
「は、はい。頑張ります」
蒼き髪の勇者は、女王から始めての依頼(クエスト)を請け負った。
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