食い違う主張
「みんなは、アンタの茶番に付き合わされるために、集められたって言うの!?」
「茶番とは心外だねえ。彼女たちは全員、顔出しもプロフィールの開示もOKしたんだ」
「ほ、本当なの。どうしてそんな、バカな契約を!?」
「バカとは失礼じゃね!?」
「残念だケドそう言う契約だから、こんな好条件を提示されたのよ」
「レ、レノン……ライア。貴女まで、なんで?」
「お金の為……かしらね。恥ずかしい話、生活が困窮してててね」
正義を重んじる少女は、ユミアの瞳を直視できず、目を逸らしながら言った。
「ウチは、警察官だった親が汚職を冒した挙げ句、失踪したのよ……」
「ウチも同じだね。親が教師を辞めちゃって、働かないからさ」
「お前はそれで、いいのか?」
「まあ顔を出すくらいで、こんな豪華に暮らせるんだ。問題ないよ」
「それに顔出しが嫌じゃない人間も、居るのですよ、先生」
同じ制服を着ていても、魅惑的なバストに細いウェストの双子姉妹の姉が、ボクに意見する。
「顔出しや身元の開示が、どれだけ危険なコトか解っているのか。アロア」
「あら。アイドルのコたちの多くは、未成年ですわよ?」
「だ、だがキミは、一般人だろう?」
「わたしは、女優を目指しておりますの。ユークリッドの動画に出演して顔を売るのは、悪くない選択肢だと思いませんコト?」
「お姉さまの仰る通りです。実はもう何本かのCM出演が、決まっているのですよ」
「メロエ、キミまで……」
「先生に、生徒の夢を止める権利は、有りますの?」
「それは……」
「どうだい、これで解っただろう。キミたちが思ってるホド、彼女たちは子供じゃ無いのさ」
久慈樹 瑞葉の勝ち誇った瞳には、不テクされたユミアの顔が映っている。
「みんなの夢や決意に、とやかく言う権利なんてない。だったらせめて、みんなの生活くらいちゃんと保証しなさいよ!」
「彼女たちの替わりなんて、今の世の中いくらでも居るのにかい?」
「人の替わりなんて、居るワケがないでしょ!」
世の全てを見降す青年実業家と、天才起業家の兄を病気で失った女子高生。
二人の見解は、完全に相容れぬモノだった。
「考えた方は人それぞれだが、彼女たちの雇用主はこのボクだと言うコトを、忘れぬように」
「い、いざとなったら、わたしが……」
「それこそ傲慢と言うモノじゃないのかい?」
「貴方は、傲慢では無いのですか……久慈樹社長」
「ボクかい。ボクは常に傲慢さ」
ニヤリと笑う社長の視線の先で、カメラが既に回っていた。
「ちょ、ちょっと。勝手に撮影を始めないで!」
「ユークリッドが誇るアイドル教師のキミが、おかしなコトを言う」
「た、確かにわたしやみんなは、顔出しに同意したかもだケド、先生はまだだわ」
「ウーム、それもそうだな。撮影は、一旦ストップだ」
社長の指示と同時に、撮影スタッフが作業を停止する。
「キミはユミアに直接雇われた身だ。ボクにとやかく言う権利は、無さそうだ」
「顔出しが嫌なら、辞めて出て行けと言いたそうですね」
「ま、そんなところさ。もちろん、違約金くらいは払う……」
「その必要はありませんし、後任の教師を探す必要もありません」
「ほう、それでは顔を動画で公開して、構わないと言うのだね?」
「生徒たちが生活難を盾に、顔出しをさせられているのです。ボクだけ逃げられるハズが、ありません」
「ちょ、ちょっと、先生!?」
「仕方ないだろ、ユミア。ボクはキミたちの、担任教師なんだ」
「ならば、撮影を再開しようじゃないか」
「その前に、動画の主旨くらいは聞かせていただけませんか?」
「そうよ。動画に出る以上、みんなにも知る権利があるわ」
「権利なんて言葉は、人間が作り上げた妄想の産物に過ぎないんだが……」
久慈樹 瑞葉は、眉を上げヤレヤレといった表情を作った後、教壇に立って説明を始めた。
前へ | 目次 | 次へ |