ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第05章・第37話

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笑顔が消えたワケ

「先生……少し時間をいただいても、構わないでしょうか?」
 ユークリッドのアイドル教師としてのユミアは、少し大人びた口調だった。

「ああ、構わないが……」
 ボクは少し、不安になる。
SNSを通して拡散された話題は、何を言ったところで納まるとは思えなかったからだ。

「この姿で皆さんの前に出るのは、久しぶりですね。既にネットで話題になっているから、知っている人も多いとは思いますが、わたしは1年以上も、新規の動画を出せていません」
 再びカメラと向き合った、アイドル教師。

「ユミアさんのファンの間で広まっていた、あのウワサは本当のコトだったのですわね……」
「今は一般人でも、そう認識しているみたいですわ、お姉さま」
 ウワサ好きな双子姉妹が、ユミアの言葉を補完する。

「でも、新規の動画なんか撮らなくたってさ。ユークリッドの場合、1年分の授業を動画にして流してるんでしょ。1回撮れば来年も使えるし、問題ないジャン?」

「それは違うわね、レノン。授業内容は、毎年同じとは限らないのよ。教育指導要領と言うのがあって、義務教育があった頃から、それに沿ったかたちで授業内容も変わっているの」
「他の教科の先生方の動画は、何度か更新(アップデート)されたりしてるわね」

 優等生であるメリーとライアが、詳細をレノンに説明した。

「へ、そうなんだ。知らなかった。なあ、タリア」
「まあな。更新があったかどうか、一々追っているファンが居るのもスゴイな」

「……ン、でもなんで授業動画、更新されなくなっちゃったんだ?」
「オイ、レノン!」
「ア、アレ、あたし、なんかマズいコト言った?」

 ライオンのたてがみを彷彿とさせる金髪の少女以外は、動画が更新されなくなった理由に薄々気付いている様子だった。

「理由については、タブン想像が付いているんじゃないかしら。わたしと、ユークリッドの創設者である倉崎 世叛は、実の兄妹だったんです」
 ユミアは教壇の前に立って、自らの口で秘密を打ち明けた。

「ふえ、ユミアとあの倉崎 世叛が……兄妹ィ!?」
「そうだ、バカライオン。ネットにも、前々からそんな情報が出てただろ!」
「マジでェ。他のみんなは、知ってたの?」

「せやな。元は週刊誌が、すっぱ抜いた記事やったと思うで」
「その記事、ボクたちも読んで驚いたよ」
「同級生とか関係者に、取材しまくって書いた記事みたいだね」

 キアや、カトルとルクスの双子姉妹も、噂を書き立てる週刊誌に興味があるのだ。
正直、ボクはその記事のコトは知らなかった。

「そう。理由と言うのは、倉崎 世叛の……」
 アイドル教師は、理由を説明しようとした。
けれども言葉が続かず、押し黙ってしまう。

 彼女の実の兄である倉崎 世叛が死んだのは、もう1年以上も前の出来事だ。
その時から、ユークリッドの誇るアイドル教師の笑顔が消える。

「今のユミアは、笑顔を失くしてしまったんだ」
 ボクは、俯く彼女の傍らに立った。

「せ、先生。ユミアが、笑顔を失ったのって……お兄さんが死んじゃったから?」
 沈黙が教室中を支配する中、レノンが素直に問いかける。

「そう……ね」
 隣の少女は、下唇を噛みしめていた。

「あの時、わたしはまだ叔父さんの家にいて、事情もよく呑み込めていなかったから」
 涙が零れるのを、必死になって耐えている。

「それくらいにして置きなさい、ユミア」
 天空教室に再び入って来た、久慈樹社長が言った。

「実は倉崎から、彼と彼女との関係は口留めされていましてね」
 ボクたちを追いやり、自ら話し始める、若き社長。

「不治の病に冒された若き天才実業家が、日々衰弱して行く様子を連日の様に報道するマスコミ。彼はそんな現実から、実の妹を遠ざけたかったのでしょう」

「確かにあの時のマスコミ報道は、常軌を逸していたわ。一部から、非難の声も上がっていたし」
「でも、全然辞めなかったジャン。加熱する一方でさ」

「当然さ。マスコミが使う正義とやらは、弱者の非を突きひたすら攻撃する為にある」
 生徒たちの言葉に反応する、久慈樹社長。

「ヒ、酷い話だよな。被害者の気持ちも考えないでさ」
 社長の論理に納得し、腹を立てるレノン。

「世の中の多くの人間は、それを欲し求めるモノだよ。キミみたいにね」
「ええ、ア、アタシもォ!?」
「キミらだって、下らない噂話は大好きじゃないか」

「ゴ、ゴシップ雑誌を読むのは、芸能界の情報集めの手段ですわ」
「そ、そうですわ。誰かを傷付ける気など、ございません……」
 そう言いつつも、ユミアと視線を合わせられないアロアとメロエ。

「マスコミ連中の仕事は、キミらの様な強欲な主のために、ひたすら弱者を蹴り漁って下らない話題を提供し続けるコトだよ。彼らにとって倉崎 世叛の死は、とてつもない貢物だったのさ」

 久慈樹 瑞葉の辛らつな言葉に、天空教室は完全に沈黙した。

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