女性の生き方
「チョット、なに勝手なコト言ってんのよ。あのコたちにアイドルになるようにけしかけたのは、アンタじゃない!」
ユミアが、久慈樹社長に嚙みついた。
「他はともかく、あの2人はすでに芸能界に片足を突っ込んでいた。これだけプロモーションをかけて、これだけファンを集めて、これだけ最高のステージを用意して、結果が出ないは困るのだよ」
「アンタがいくら困ろうが、知ったことじゃないわ」
「ボクも、彼女たちがいくら困ろうが、知ったコトじゃない」
小学生のようにユミアの揚げ足を取る、久慈樹社長。
「ボクはこうも言ったよ。彼女たちの代わりなど、いくらでも居る……と」
「そ、そんな……」
舞台では、自分たちのアイドル活動が窮地に立たされているコトなど露ホドも知らない、アロアとメロエが次の曲に入ろうとしていた。
「世の中に、アイドルになりたがってる女のコなど、掃いて捨てるホド居る。彼女たちは、これだけのステージに立てるという好条件を与えられたんだ。むしろ、感謝されてしかるべきだと思うがね」
「誰がアンタに、感謝なんか……」
「イヤ、ユミア。確かにアロアとメロエは、幸運だと思う」
「チョ……先生まで!?」
「アイツらだけじゃなく、ボクもだケドな。誰もが羨(うらや)む一流企業のユークリッドで、教師をやれているんだ。結果を求められるのは、当然じゃないかな」
「だったら先生は、あの2人が長年追い続けて来たアイドルへの道が、閉ざされ無くなっても良いっていうの!?」
「大丈夫だ、ユミア。アイツらは、今日ステージに立った誰よりも、アイドルになりたがっている」
「残念ながら熱意と結果は、必ずしもシンクロはしないよ。アイドルオーディションに付き添いで来た子が受かったとか、ヒーローオーディションで、ヒーローになんの興味もないヤツが主役に抜擢されたとか、そんな話は枚挙に暇(いとま)がないからね」
久慈樹 瑞葉が、嘯(うそぶ)く。
「それは、実感してます。ですがアイツらは……アイツらなら、きっと大丈夫です」
「まったく、何を根拠に……」
久慈樹社長の反論を、観客席が掻き消した。
アイドルファンたちは一斉に立ち上がって、コールを叫び始める。
「アロアーーー、最高だぜッ!!」
「メロエェーーー、ケッコンしてくれェ!!」
「巨乳、巨乳、揺れチチ最強ォ!!」
ステージでは、ドレスを脱ぎ捨てた巨乳の双子姉妹が、自分たちの魅力を最大限に活かしたグラマラスな衣装で、歌い出した。
「ヤレヤレ、あんな下品な女のどこが良いんだろうか」
「アンタの周りで吊るんでいた女の人だって、あんな感じだったじゃない!」
「それはそうさ。ボクはああいった女どもを、心の底から蔑(さげす)んでいたからね」
一部の熱狂的なファンに扇動されて、盛り上がりが会場全体へと伝播して行く。
曲が進むにつれて2人の顔も、硬さが取れて教室で見せる自然な笑顔へと戻っている。
「教師として、キミはどう思うんだい?」
久慈樹社長が、ボクの耳元に口を近づけ言った。
真っ赤な衣装のアロアと、紫色の衣装のメロエ。
2人とも共通して、胸元が大きく開いたトップスに、スカートも大きなお尻と肉付きの良い太ももを、強調するデザインとなっている。
「けしからんとは……思いますよ」
教師としての、真面目なボクの本音はそれだった。
「2人から……女性の権利を主張し、女性は男性に媚びるべきではないという方針の団体から、目の仇にされていると聞いたコトがあるんです」
ボクの言葉は、うるさ過ぎて久慈樹社長の耳にまでは届いていないだろう。
「でもアイツらは、自分たちのスタイルを変えるつもりは無いと、言っていました」
その時のボクには、それがナゼだか誇らしく聞こえた。
女性の生き方は、自由であって欲しいとボクは思っている。
でも、女性は必ずしも社会進出し、男と同じ仕事をしなきゃならないワケじゃない。
それを全ての女性に、押し付けるのは間違っているのではないか?
ニュースなどで、女性の意見として上げられる意見は、本当に全ての女性の総意なのだろうか?
家庭で家事だけをし、子供と向き合いたい女性も居るだろう。
アロアやメロエのように、男を挑発するような生き方をしたい女性も、居るんじゃないか?
「アロアーーー、メロエーーー、頑張れよぉーーーー!!」
思わずボクも、2人を応援するコールを上げていた。
前へ | 目次 | 次へ |