ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第08章・第13話

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アロアとメロエと歌(シャンソン)

 安曇野 亜炉唖(あずみの あろあ)と、安曇野 画魯芽(あずみの えろめ)。

 芸能界へは、化粧品などのCMでデビューを果たしていた2人。
アイドルとしてのデビューステージは、セクシーで妖艶な身体を存分に活かしたモノとなっていた。

「皆さま、本日はわたくしたちのステージにお越しいただき、心より感謝しますわ」
 空中のステージに現れたバーのセットに座りながら、アロアが挨拶をする。

「次は、わたくしのソロ曲……『L’Amour du Mont Blanc et des macarons(モンブランとマカロンの愛)』を、お楽しみくださいませ」

 ゆっくりとした口調で、観客席に語りかける豊満ボディの双子の姉。
シャンソンが流れ、ドームの天井に張り巡らされたパネルが、ミラーボールのように輝き始めた。

「2人は、いつも一緒だったケド、ソロ曲か」
 バーテンダーの衣装を着た妹のメロエは、バーカウンターの奥でグラスを磨いている。

「曲の完成度は、折り紙付きさ。問題は、それをどれだけ再現できるかだね」
「ええ、解ってますよ。でも。アロアなら大丈夫」
 久慈樹社長に対し、ボクはそう宣言した。

 アロアの歌声が、ドームに響き渡る。
艶やかな声は、母親でアイドル歌手だった柿沼 恵理を、彷彿とさせるモノだった。

「CMで見たときも、あの2人って大人っぽいと思ってたケドさ」
「さらに大人っぽくなってるよな」
「でも、オーソドックスなアイドル路線じゃ無い感じ?」

 聴かせるタイプのアロアの曲に、様々な反応が観客席から聞こえて来る。

「オレ、セクシー系って守備範囲外だったんだ。でも、意外と有りかも知れない」
「そうだな。これはこれで、有ってヤツだろ?」
「オオ、それそれ!」

 小声で聞こえる評価にボクは、少しだけ胸を撫で降ろした。

「有難うございました。では、次はわたくしの最愛の妹、メロエの歌をお聞きください」
 盛大な拍手と共に歌い終えた姉は、妹と視線を合わせる。

「つ、次は、メロエの出番か。メロエは、姉であるアロアをとても尊敬している。でも正直、彼女自身の自主性はと問われると、姉のアロアに頼ってしまっている部分が大きい。果たして……」
 ボクは再び、祈るような気持ちでステージを見つめていた。

『ブオオオォォォォーーーーーーーーンッ!!』
 急にステージに、車のエンジン音が轟(とどろ)き渡る。

「な、なんだ。なんで急に、車のエンジン音が!?」
「オイ、見ろよ。ステージの上!」
「ゲェ、本物の車じゃん!!?」

 大きな声が、観客席から木霊する。
ステージを見ると、真っ赤なボディのスポーツカーが、空中ステージに横たわっていた。

「次はわたくし、メロエの曲をお聞きくださいまし」
 いつの間にかメロエは、レースクイーンの衣装に着替えている。

「曲は、『真っ赤な天使の神速の矢』」
 VAのロゴ入りのパラソルを開くと、足を組んでスポーツカーの赤いボディに腰掛けた。
姉であるアロアもレースクイーンの衣装で、赤いボンネットに寝そべっている。

「うわッ、ステージが車ごと動き始めたぞ!?」
「ホントだ、マジかよ!?」
「人が宙を飛ぶのでもハデなのに、こんなの始めてだぞ!」

「こ、これって、大丈夫なんですか!?」
 後ろの観客たちと同様に、ボクも度肝を抜かれた。

「もちろん、問題はないさ。元々空中ステージは、彼女たちのこの演出の為に用意されたモノだからね」
「そ、そうなんですか!」
 久慈樹社長の返答を聞いて安心する半面、呆れる自分も居た。

 天空教室のある円形の高層マンションと、ユークリッド本社の入っている角ばったデザインの高層オフィスビルの間に造られた、ドーム型のライブ会場をサーキットに見立てて、赤いスポーツカーが宙をかなりのスピードで走る。

「メロエの曲は、かなりアイドルっぽい曲だね、先生!」
「ああ。そうだな、レノン」

「でも、なんとなく聞き覚えのある曲なのですゥ」
 後ろの席の、アリスが言った。

「そうね。アロアの曲も、どこかで聞き覚えがあるような……」
 隣に居たユミアも、疑問を浮かべている。

「まあ、そうだろうね」
 ボクは、短くそう答えた。
バーの初老のマスターが流してくれた曲と、友人が語ってくれた知識。

 アロアの曲は、柿沼 恵理のシャンソン歌手時代の曲のアレンジであり、メロエの曲はアイドル歌手として全盛だった頃のヒット曲のアレンジだった。

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