暴走するSNS
「うわ。なんかユークリッター、とんでも無いコトになってない!?」
モニターに映ったレノンが、スマホ端末を見ながら慌てふためいている。
「ユミアさんと先生の話題が、もの凄い勢いで増えて行ってますわ」
「お、お姉様、見てください。『ユミア結婚』なんてワードまで、ありますわよ!」
アロアとメロエの双子姉妹も、事の重大さに顔を見合わせた。
「このアプリって、既存のSNSのユーザーが上げた、リアルなワードが反映されてるんだよね?」
「つまりこれだけの数の人たちが、今の先生とユミアのちょっとした会話に、反応しちゃってるんだ」
カトルとルクスの双子姉妹も、同じ反応を見せる。
「カメラの生放送で流れている、わたし達の発言1つ1つが、とてつもない影響力を持ってしまってるんだわ」
ライアが言った。
「えっと……もしかしてアタシのせい?」
最初にボクの失言に食いついた、レノンが申し訳無さそうに俯く。
「いいえ、レノン。わたしだって、無暗に詮索してしまった……迂闊が過ぎたわ」
「迂闊と言うなら、ライア。教師でありながら誤解を招く発言をした、ボクの責任だ」
モニタールームで、生徒たちの様子を見ていたボクは、意を決して天空教室へと飛び込んだ。
「せ、先生……出て来ちゃって、大丈夫なの?」
「別に、やましいコトをしたワケでも無いからな。問題ないよ、レノン」
正直に言えば、やましいコトが無いからなんとかなるとは思っていなかった。
けれども、他に有効な方法が思いつかない。
「デジタル音痴なボクにとってSNSは、得体の知れないモノなんだ。マスコミの情報を見る限り、危険だとは認識していたが、まさかこれ程とはね」
「他人事みたいな物言いですね、先生。ですが現在も、先生とユミアの恒星(ワード)は大きくなり続けていますよ」
「そうか、メリー。困ったな、どうすれば良いと思う?」
「どうしようもありません。炎上が簡単に納まるのであれば、誰も苦労はしませんよ」
アイボリー色のショートヘアの少女は、合理的見解を述べる。
「なら、他の話題に変えればいいんや。ウチら、バンドしてんねん」
「ちょ、ちょっと、キア姉さん!?」
真っ赤な短髪にニット帽の女の子が、シアたち3人の妹を抱きかかえながら叫んだ。
「チョキン・ナー言うんや。ネットに演奏動画アップしとるさかい、見たってや」
「見たってやー」「見たってやー」
キアに続き、ミアとリアの双子姉妹がハモる。
「わ、わたくし達は、アロアとメロエと申しますわ」
「グラビアから、舞台からやらせて貰いますので、お仕事お待ちしておりますわ」
アロアとメロエも、カメラに向かって大きな胸を寄せアピールした。
「オイオイ。SNSの怖さは、ボクを見て解かっただろう。程々にして置けよ」
「心配せんでもええわ。こりゃ、焼け石に水やで」
「大勢に影響無しと、言ったところですわ」
落ち込む、キアやアロアたち。
ボクとユミアを中心とした話題は、相変わらず無責任に暴走していた。
「そろそろ、1時間は経過した。5分後に授業を始めるから、みんな準備しろ」
すると、教室に久慈樹社長が姿を現す。
「キミたちとの、約束だからね。では、撤収作業移ってくれ」
教室にあったユークリッターのテスト運用の為のカメラは取り除かれ、替わりに天空教室撮影用のカメラが設置される。
まるで見世物小屋のような天空教室と、役者を演じさせられる生徒たち。
こんな環境に教え子たちを置きたくはなかったが、そんな権限はボクにはなかった。
「では、授業を始めるぞ。全員、揃っているか?」
5分の休息中に、トイレなどに行ったりしていた生徒たち。
教室を見渡すと、席が1つだけポツンと開いていた。
「先生、ユミアがまだだよ」
「そうか。仕方ない、授業を……」
「勝手に、始めないでくれるかしら」
教室の扉が、開いた。
「ユミアだ……」
「ユミア、その恰好?」
目を見開く、教室の生徒たち。
天空教室へと足を踏み入れる少女。
その髪は、ヒスイ色のツインテールで、瞳は蛍光ピンクに光っていた。
前へ | 目次 | 次へ |