アイドルユニット
「アイドルユニットですって。最近のアイツは、どうかしてるわ」
「確かにそう……でも天空教室は最初から、『見世物』として企画されていたと見るべきね」
久慈樹社長に反発するユミアに、メリーが言った。
「わたし達は、企画に参加した演者なのよ。ユークリッドにしてみれば、わたし達を売り出そうとするのも当然の動きだわ」
「見世物とは……相変わらず合理的な分析だな、メリー」
「事実を言ったまでです」
「見世物ってのは、なんかヤダけどさ。アイドルって、憧れるじゃん」
「お前はアイドルよりも、見世物のが似合ってそうだケドな。バカライオン」
「なにおう、人をサーカスのライオンみたく言うなァ!」
気の合う者同士の口ゲンカを始める、レノンとタリア。
「お前たちの契約者が、久慈樹社長である以上反対はできないが」
「反対はできないが?」
「アイドルは簡単じゃ無い……と、友人が言っていた」
「なんだよ、それ。人の言葉じゃんか!」
「す、すまん、アイドルや芸能ネタは、からっきしなんだ」
「だらしない先生ですが、アイドルが生易しいモノでないことは真実ですわ」
「お姉様の仰る通り、芸能界の厳しさは骨身にしみております」
その『厳しさ』によって、住む家さえ失ったアロアとメロエ。
「今回の募集は、あくまで自主参加とのコトですわ」
「わたくしとお姉さまは、もちろん参加いたしますが、皆さまはどうされます?」
姉を神聖視する安曇野 芽魯画が、皆に問いかける。
「ウ~ン、どうなんだろ。アイドルには憧れるケド、やっぱ向いてない気がするなあ」
「自分のガサツさに気付いただけでも、大した成長だぞ、レノン」
「うっさい、タリア。自分だって、大して変わんないじゃんか」
「わたしはパスしますゥ」
「そうね、わたしもパスよ」
アリスとメリーも、不参加を表明する。
「ボクたちも、止めておくよ」
「身体の調子もあるしね」
カトルとルクスの双子姉妹も、参加を取りやめた。
「シア、キミたちはどうかな?」
「わたし達ですか。確かにキア姉さんも、音楽で有名になる予定だとは思いますが、ロックバンドですからね。アイドルはどうなのかと」
「路線が違うと言うコトだな。他にアイドルユニットに、参加を希望する者はいないか?」
質問の後、ボクは教室を見渡すものの、手を挙げる者は居なかった。
「アイドルになりたいのは、最初からそうだったアロアとメロエだけか」
「フフ、ザマアみろだわ。これでアイツの計画も頓挫したわね」
「だ、大丈夫でしょうか、お姉様。このまま計画が、白紙に戻ってしまっては……」
「そ、そうですわね。わたくしとしたコトが、少々脅かし過ぎてしまいましたわ」
顔を見合わせる、グラマラスな双子姉妹。
「芸能界を生きるノウハウは、教えて差し上げますので……」
「皆様、お気楽に参加をされてはどうでしょう」
二人は必至に訴えたが、意見を覆す者は現れなかった。
ボクは、ホッと胸を撫で降ろす。
「タリア、少しいいか」
「ン……なんだい、先生」
タリアはボクの意図を察したのか、みんなから離れて付いて来てくれた。
「実は、キアの入院している病院で、瀧鬼川弁護士と、襟田 凶輔に会った」
「そ、そうか」
「瀧鬼川 弁護士は、控訴を取り下げると言って下さったが、襟田 凶輔が……」
ボクはそれから、病院での経緯をタリアに話す。
「なんでアタシなんかを、気に入ってんのかは知らないが、裁判沙汰が避けられたのは良かったよ」
美乃栖 多梨愛は自分よりも、被害に遭った7人の少女たちを気にかけていた。
「キミも気を付けてくれ。ここのセキュリティは万全だとは思うが、外に出かけるようなコトがあったら……」
「そん時はまた、この拳で叩きのめしてやんよ」
「タ、タリア!」
「冗談だって、先生。流石にもう、暴力沙汰はこりごりだよ」
フードのパーカーを着た少女は、みんなの輪の中へと帰って行った。
「ボクの生徒たちは、ずいぶんと大人でしっかりしてるな」
安堵したボクは、部屋を出てエレベーターホールに向かう。
「アラ、久しぶりね」
するとエレベーターに乗った次の階で、一人の女性が乗り込んで来た。
前へ | 目次 | 次へ |