ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第06章・第08話

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赤柴 紅蘭蘭(あかし くらら)

「そんなわたしを心配してくれて、お兄様は施設から出て独立し、投資や動画を始められたのよ」
 ユミアの話はやっと、本題に入る。

「動画って……もしかしてそれが、ユークリッドの?」
「うん。始まりだね、タリア。当時はまだ、借り立てのマンションにサーバー立てて、そこでスマホで撮っただけの動画を入れて、配信してた感じ」

「今は、巨大な大河みたいなユークリッドも、源流ともなると小さなモノだったのね」
「改めて、恐ろしいまでの成長スピードの速さを感じますわ」
「今や、日本を代表するIT企業ですものね、お姉さま」

 ライアの台詞に追従する、アロアとメロエのゴージャスボディの双子姉妹。
他の少女たちも、たった数年で絶大な影響力を持つ巨大企業へと変化した、ユークリッドに驚愕した。

「でも、源流って言ってもさ。サーバー立てて、動画を配信って時点で、スゴくない?」
「しかも独立して、投資まで始めちゃったんでしょ?」
 もう1組の双子のカトルとルクスが、同じような顔をレノンに向ける。

「ねえ、ユミア。それってお兄さん、いくつくらいの話?」
「まだ中学生の頃よ」
 レノンの問いかけに、当然のように答えるユミア。

「うわあ、ヤッパそうかァ。アタシなんて、サーバーどころかパソコンも苦手なのにィ」
「そこはお前だけじゃ無いから、心配すんな」
「ホントォ、タリア。良かったァ!」

「ですが……一体、どういった内容の動画だったのかしら?」
 褐色の肌に、ワインレッドのウェーブのかかった髪をポニーテールにして頭の後ろに垂らした少女が、ユミアに問いかけた。

「なんや、赤柴 紅蘭蘭(あかし くらら)やないかい」
 同じ赤い色のツインテールが自慢だった、キアが喰ってかかる。

「そりゃ、教育動画に決まっとるやろ?」
「そんなコトは、貴女に言われるまでも無いわよ。自慢のハサミを失って、アイデンティティーを無くしたカニさんにはね」

「カー、相変わらず、ムカつくやっちゃなァ。いっぺん、シバいたろか!」
「シバかれたのは、貴女の方でしょう。実の父親にね」
 触れられたくない事実を言われ、クララを睨むキア。

「もう、ケンカは止めて。最初に喰ってかかったのは、姉さんの方でしょう」
「せ、せやかて、シア。コイツがァ……」

「教育動画と言っても、初期は倉崎 世叛自身が教師として出ていたのだと聞きます。現在、最初期の動画は完全に削除されてしまっていますが、どういった内容だったのかしら?」
 謝りもせず、強引に話を推し進めるクララ。

「え。倉崎 世叛が教師って、ホンマなんかァ、ユミア?」
「ま、まあね。最初はお兄様が、あまり会えないわたしに向けて、教育動画を出してくれていたのよ」

「つまり、登校拒否の妹である貴女に向け、兄である倉崎が小学生向けの教育動画を出したのが、ユークリッドの始まり……と?」
「そ、そうよ、クララ」

「確かに合理的な判断ね。パソコンやらスマホやらが大好きな女のコ相手には、最適解だわ」
「う、うっさい。なんかメリー、わたしの事バカにしてない?」

「してない、してない」
 合理主義者の八木沼 芽理依(やぎぬま めりい)は、ユミアの反論を軽くあしらった。

「でも、ユークリッドのアイドル教師のユミアさんが……」
「最初は教わる側だったんですね」
「何だか、意外だなァ」

 タリアの元に屯(たむろ)した、アステたち中学生の女のコたちが、キャッキャと騒ぎ立てる。

「でも、貴女は教える側になった。それは、どうしてかしら?」
 クララの鋭い眼光が、再びユミアに向けられた。

「お、お兄様は優秀な方ではあったケド、人に教えるのはそこまで上手くは無かったからよ」
「逆に言えば、自分の方が上手いと思えた?」
「え、ええ、そうね」

「それで貴女は、兄と役割を交代した。大体、いつ辺りから?」
「え、えっと確か、中学に入った辺りからだったわ。それまでにもお兄様を真似て、何度か遊びで動画を撮ったのよ。それをアイツに見つかって……」

「アイツとは、久慈樹社長のコトで良かったかしら?」
「う、うん」

「久慈樹 瑞葉は、貴女が先生をやる動画を評価したのね」
「アイツ、おだてるのだけは一流なのよ」

 クララに、誘導されるように答えを紡ぐ自分の口に、違和感を感じるユミア。
……丁度、その時。

「では、セッティング終わりましたので、そろそろカメラ回します。みなさん、スタンバって下さ~い」
 ユークリッターの広報チーフであろう女性が、天空教室の少女たちの会議を終わらせる。

「チッ、せっかくのところで……」
 クララは小さく舌打ちをすると、セットされたカメラの前から立ち去った。

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