ユミアの過去
それは、ボクや久慈樹社長が天空教室へと辿り着く、数分前の出来事だった。
「お兄ちゃんに……って、倉崎 世叛のコトだよね?」
「こら、バカライオン。不躾(ぶしつけ)にも、程があるだろ」
昔馴染みのタリアに、ポコンとされるレノン。
「なんだよ、タリアまで。みんなして、ポコポコ殴んなァ!」
「悪いな、ユミア。無理して話すコトも無いからさ」
反論を無視して栗毛の少女に謝る、フード付きパーカーを着た少女。
「うん。アリガト、タリア。でも、元々わたしたちが兄妹だってのは噂になってたし、今はもう完全にバラしちゃったしね」
はにかんだ笑顔を作る、ユミア。
「ヘンに影で噂をされるより、自分の口で話して置きたかったのよ」
「そうか。ヘンに気を遣ってしまったな。スマン」
「ほらァ、タリアが考えん過ぎなんだってェ」
「お前は、考えが無さ過ぎなんだ」
些細な口ゲンカを始める、レノンとタリア。
天空教室の中で飛び回っていた年少の少女たちも、いつの間にかユミアの周りに集まっていた。
「うわわ。なんだかずいぶんと、大事になっちゃったわね」
見物人の多さにたじろぐ、ユミア。
「すみません。午後からの授業動画の前に一本、ユークリッターのプロモ撮影を入れたいんですが、良かったですか?」
ユークリッターの宣伝部門であろう撮影スタッフの女性が、集まった生徒たちに伺いを立てる。
「あ~、別にいいんじゃね?」
「そうですわ。今は別件で忙しいですので、ご自由に進めて置いて下さいな」
レノンとアロアが、皆の同意も取らずにOKしてしまうが、反論する生徒は居なかった。
「こんなに注目されちゃうと、流石に話し辛いわね」
「まあまあ、ええやん。同じ部屋で暮らしとるモン同士、腹割って行こや」
「わたしも教師を目指す身として、参考になると言う理由で、聞きたくはあるわ」
真っ赤なショートヘアのハードロック少女も、アイボリー色ショートヘアの合理主義少女も、噂好きな女の子の部分は持ち合わせていた。
「し、仕方ないなあ。この後みんなにも、プライベート話して貰うんだからね!」
そう宣言すると、ユミアは話の続きを始める。
「わ、わたしはね。子供の頃……小学生の頃に、イジメられて学校に行かなくなっていたのよ」
撮影スタッフがカメラや照明などの設置を始めるが、天空教室の生徒たちはユミアの言動に釘付けで、周りの様子も目に入っていなかった。
「両親が死んでから、わたしは叔父さんの家に預けられ、お兄様は施設に預けられたの」
「施設って、なんだろ?」
「さ、さあ。解かんない」
タリアの周りに集まった、元テニスサークルの中学生少女たちが小声で聞き合う。
「児童養護施設……家庭に問題があったり、親が亡くなったり貧困だったりする子供たちを預かって、面倒を見る施設のコトだよ」
やさぐれた環境に育ったタリアが、裕福な家庭環境で育った少女たちに説明した。
「学校に行きたく無かったわたしは、叔父さんの家の自分の部屋に引き籠ってた」
「小学生で登校拒否かぁ。でも、それはそれで辛い状況じゃね?」
レノンが心配そうに、質問する。
「そうでも無いわよ。だって今時、ネットもゲームもスマホもあるし」
「ええ、そうなの!?」
「うん。家にいながらにして、世界中の人とチャットもネトゲも、ソシャゲも出来るんだし、部屋を出なくたって何の問題も無かったわ」
「イヤイヤイヤイヤ、問題大有りでしょ!」
「むしろ、小学生でそんな考え方に居たってしまう、貴女が問題の気がしますわ」
「わたしも自分を合理主義者と思ってたケド、貴女も相当なモノね……」
レノンやアロアは言うに及ばず、合理主義を自負するメリーすら舌を巻くユミアの思考に、集まった少女たちの誰もが唖然とする。
「で、でも当時はまだ義務教育だったんだし、学校に行くようには言われなかったの?」
「しょっちゅう言われたわ。叔父さんとか特にね。保護者として、色々とマズいんだって」
「確かに、色々とマズいでしょうね」
正義を重んじ弁護士を目指すライアも、呆れ気味に答えた。
「それで預けられた先のご家族とも、上手く行かなかったって感じかしら?」
「義姉さんたちとはイマイチ気が合わなかったケド、叔父さんとは趣味が一緒だったからか、そうでも無かったわよ」
「趣味って?」
「スマホとかパソコンとか。叔父さん、ガジェットオタクだから」
「そ、そう……」
集まった天空教室の生徒たちは、ユミアの悲劇の話を聞くつもりが、彼女の破堤した性格の話を聞く羽目になってしまった。
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