山積する課題
「先生、申し訳ございません」
「わたし達、10時からプロフィールビデオの撮影がありますので、失礼します」
ライアとメリーたちプレジデントカルテットの4人が、出勤したばかりのボクの横を通り抜けて行く。
「わたくし達も、10時半から、撮影を予定しておりますのよ」
「今はキアさん達が、プロフィールビデオを撮影されていますわ」
露出度の高い衣装を着たアロアとメロエの双子姉妹が、ソファに座りながら言った。
「そうなのか。しかしお前たち、勉強の方は大丈夫なのか?」
「え、ええ、それはその……大きな問題は無いかと」
「だ、大丈夫ですわ。ユークリッドの動画なら、いつでも見れますし」
「いつでも見れる動画であっても、アイドル活動で疲れていれば、見る気も無くなるんじゃないか? それにちゃんと自分の学んでいる範囲を順に見なければ、学力も身に付かないだろう?」
「と、ところでメロエさん。わたくし達もそろそろ、撮影の会場に移動した方が良さそうですわね」
「そ、その通りですわ、お姉さま。先生、ゴメンあそばせ」
ウェヌス・アキダリアの2人も、逃げ去るように天空教室を飛び出して行く。
「仕方ない、アステやメルリたちは撮影まだなんだろ。今のうちに、予習を……」
「え、えっと今わたし達、歌の歌詞覚えてるトコだから……」
「先生、ゴメンなさい!」
プレーア・デスティニーの7人の少女たちは、ボクの顔を見るなり慌てて、円形に置かれたベッドが並ぶ寝室へと引き籠ってしまった。
「アイツら……すみません、先生」
すると、7人の守り役であるタリアが、申し訳無さそうに頭を下げる。
「イヤ、今はオフだから、強要はできないよ。タリアは歌詞、覚えなくて大丈夫なのか?」
「アタシは、曲の合間に少し謳う程度だから」
「そうか。キミは、7人のお姉さん的存在だ。上手く、守ってやってくれ」
「ああ。元々そのつもりで、アイドル引き受けたからな」
相変わらずパーカーを着た少女も、寝室の扉を開け中へと入って行った。
「困ったモノだな。こんなコトじゃ、久慈樹社長が出した条件をクリアできないぞ」
目の前に広がる、閑散とした天空教室の景色。
レノンとアリスが戯れていて、クララが窓辺でノートパソコンを開いてる。
「たった3人か。この教室も、ずいぶんと寂しくなってしまったな」
「それもこれも、アイツの策略よ。一体、何を企んでるのかしら!」
隣を見ると、ユミアが腕を組んで仁王立ちしていた。
「お金をチラつかせて、人の弱みに付け込んでみんなをアイドルにするなんて、許せないわ!」
「でもさ、ユミア。アロアたちは、芸能界デビューしたがってたじゃん」
「キ、キアさんたちも、ロックバンドで頑張ってたです」
「彼女たちは、良いのよ。それが自分の意思なんだから。でも、ライアやメリーなんて、仕方なくアイドルやらされてるじゃない。カトルやルクスだって、ワケの解らない人形のお守りなのよ!」
「アラ、それが彼女たちの意思なのよ。例えお金が絡んでいても、断るコトだって出来たのだから」
窓際に座っていた、クララが言った。
「断ったら、アイツにここから追い出されるかも知れないのよ!」
「よく観察なさいな。わたしやそこの2人も、アイドルにスカウトされているのよ。それでも追い出されるなんてコトには、なっていないわ」
「そうかもだケド……何が言いたいのよ、クララ」
「要するに彼女たちは、それぞれに思惑があってアイドルを選んだってコト」
そう言い残すと、クララも玄関へと立ち去る。
「オー、ユミア。みんな居なくて寂しいなら、貴女もアイドルやればイイじゃないデ~スか」
金髪に真っ白なタキシードのようなスーツを着た男が、入って来るなりユミアに話しかけた。
「マ、マーク、なんでわたしがアイドルやらなきゃ行けないのよ」
「単純な話ね。ボクが見たいよ」
「もう、アンタのせいで、こっちはこっちで大変なコトになってるんだからね!」
ユミアも怒って、何処かへ出かけてしまう。
「ヤレヤレ、問題は山積みだな」
ボクは広く開いたソファーに、ドカっと腰を降ろした。
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