ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第06章・46話

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別れの宇宙港

 火星のテーマパークでの、夢のようなひと時は終わりを告げる。

 ホテルに戻ったボクは、みんなとの豪華なディナーの後にシャワーを浴びて眠った。
翌日に目を覚ますと、窓から朝の光がベッドの上に差し込んでいる。

「おじいちゃん、おはようございます」
 可愛らしい笑顔が、ボクに向けられた。
それは1000年の眠りから覚めて、最初に見た笑顔でもあった。

「おはよう、セノン。昨日はよく眠れたかい?」
「まあ、それなりですね。おじいちゃんは、ずいぶんグッスリと眠ってましたケド」

「昨日は一日中遊園地で遊んで、疲れたからな」
「クヴァヴァさまとは……観覧車で、なにを話したんですか?」

「ふえ!?」
 突然の質問に、声が裏返ってしまう。

「べ、別に、大したコトじゃないよ……」
 観覧車でのクーリアとのキスを思い出し、思わず顔を背けた。

「そう……ですか」
 セノンは、寂しそうに微笑むと、真央たちの方へと駆けて行った。

「今日は、ハルモニア女学院のコたちと、別れる日なんだな……」
 思えば、MVSクロノ・カイロスの艦長に就任して最初に決めた任務が、彼女たちをハルモニアに還すコトだった。

 ボクたちは、ホテルをチェックアウトする。
それからみんなで、アクロポリス空港に向かうバスに乗り込んだ。

「ここが、アクロポリス宇宙港の内部か。どことなく、地球の空港にも似てるな」
 宇宙港には、カウンターやチェックゲート、行き先案内版があって、大きな窓からは民間のモノであろう宇宙船がたくさん見える。

「でも、地球の空港とは違ってるトコも、あるハズだぜ」
 真央に言われて、行き先案内板を見上げる。

「ガニメデ、イオ、タイタン、エンケラドゥス、ヴェスタ、セレス、アガメムノン……どれも、宇宙図鑑で見た名前ばかりだ」

「それだけじゃない、距離も変わる……」
「太陽系の天体は、太陽の周りを周ってるからね。遠くもなれば、近くもなるよ」
 ヴァルナとハウメアも、ボクの背中から指摘した。

「言われてみれば、そうだな。地球と火星が接近するときもあれば、太陽を挟んで反対の位置にある場合もある。公転スピードや公転軌道も違うから、目的地までの距離や時間が、大幅に変わってしまうのか」

「ま、そう言うこったな。オレも最初は、驚いたぜ」
「ところで艦長。ハルモニア行きのシャトルは、もう来てるわよ」
 プリズナーとトゥランも、宇宙港に姿を見せていた。

「ああ、わかってる」
 ボクの瞳は、自然に栗色の髪の少女を映す。

「これで……お別れですね、おじいちゃん」
 セノンは、目から涙を溢れさせていた。

「だけど宇宙斗艦長。これからクロノ・カイロスに帰って、なにかやるって目的もないんだろ?」
「真央……そうだな。火星の宇宙艦隊が再編されるまでの間は、領域の警備には当たるコトになるが、その先は考えていない」

「だったら、問題ない……」
「艦長は別に、ディー・コンセンサスと敵対してるワケじゃない。むしろ、人類の味方だからね。交渉次第では、何とかなるんじゃない?」

「そ、そうですよ。ヴァルナ、ハウメア、良いコト言うです」
 急に元気になる、セノン。

「ハルモニアに遊びに来て下さい、おじいちゃん。絶対に約束ですよ!」
「ああ、そうだな……そうするよ」

 栗色のクワトロテールが舞い、ボクの胸へと飛び込んで来るセノン。
ボクは彼女を、優しく抱きとめた。

 それから、セノンや真央らハルモニアの少女たちは、シャトルへと乗り込む。
他の場所で、クーリアとの別れを済ませお付きの少女たちも、シャトルの窓から手を振っている。
やがてシャトルは、滑走路から飛び立って行った。

 セノン……いつかキミに、逢いに行くよ。
ボクは、心の中で決心する。

「あのコたち……行ってしまいましたね」
 ボクの隣にいつの間にか、クーリアが立っていた。
今日の彼女は、純白の軍服にピンク色のスカートを纏っている。

「そうだね。キミもこの後、あの艦の艦長に就任するんだな」
 宇宙港には既に、真っ白な船体の優美な艦が係留されてあった。

「ええ、艦長。わたくしはいずれ、カルデシア財団の後継者となる定めにありました。それが少しばかり、早まったに過ぎません」

「でもこれで、お互いに『艦長』って立場だな」
「え……ええ、そうですわね」
 クーリアは、緊張の糸がほぐれたかのように笑い出す。

「行こうか、クーリア艦長」
「はい、宇宙斗艦長」
 ボクたちは、新造艦の観艦式へと向かった。

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