黄金宮への進入
「ねェダーリン、スゴイよね。こんな海溝の底に、古代都市があったなんてさ」
スプラ・トゥリーが、後ろの舞人に、華奢な体をもたれさせながら言った。
「高度な文明だったようじゃな。建物がどれも、金ピカの黄金で出来ているのじゃ」
ルーシェリアが、舞人の腰に回す手の圧力を強めながら言った。
「ボクは、ダーリンに言ったんだケド」
「妾とて、ご主人サマに言ったのじゃ」
銀色の鱗を輝かせるリュウグウノツカイに乗りながら、2人の少女が火花を散らす。
「もう、いい加減にケンカは止めろよ、2人とも。だけど、さっきの地震は凄かったよな。ヤホーネスやカル・タギアに、被害とか無きゃ良いケド」
あちこちに住人の亡骸が沈む、失われた古代都市を行く舞人たち。
「ボク、イヤな予感がするよ。あの地震、海皇サマが引き起こしたんじゃないかな」
「地震の発生時、強大な魔力を感じたのじゃ。海皇が大魔王にされたと見て、間違いあるまい」
「だったら、急がないと。バルガ王子たちが、危ない!」
「そうは言っても、リュウグウノツカイじゃ大したスピードは……」
「み、見るのじゃ。街の中央に、巨大な宮殿があるのじゃ!?」
一行の前に姿を現したのは、巨大な黄金のドーム状の屋根を持った、壮麗な宮殿であった。
周囲には幾つもの塔が聳え、柱や壁は繊細な彫刻が刻まれている。
「見てアソコ。バルガ王子たちのサメが、入口の門の辺りに繋がれてる」
「どうやら王子たちは、このドームの中で大魔王と戦っているようじゃな」
「行こう、ボクたちも。なにが出来るか解らないケド、行かないワケには行かない」
3人を乗せたリュウグウノツカイは、宮殿の門へと向かった。
「ここ……空気があるよ。海水が流入して、水浸しだケド」
舞人は、口にくわえていた水中呼吸の丸石を、吐き出す。
「恐らく、さっきの地震の影響だね。それまでは、地上やカル・タギアと変らなかったんじゃないかな」
「その様じゃな。絵画やキレイなツボが、そこら中に浮いておるわ」
「この浸水の勢いじゃ、いつ水没してもおかしく無いな」
「そうだね、ダーリン。深海の魔法は、維持したまま行くよ」
「懸命な判断じゃな、軟体動物の小娘よ」
「軟体動物言うな!」
宮殿内の回廊を走りながらでも、2人のケンカは継続される。
「ところで小娘よ、お主は戦力になるのかえ?」
「こう見えて、海皇さまから7本の槍の1本を授かった、7海将軍の1人だからね。そっちこそ、戦力にはなるんだろうね?」
「そう言えばルーシェリアも、剣をサタナトスのヤツに奪われたんだよな!?」
「フッ、抜かりないわ。秘密にしておったが、実は今回の伝令に当たって、レーマリアが新たな魔剣をくれたのじゃ」
「戦えないのは、ボクだけェ。またジェネティキャリパーの力を、開放しなきゃならないハメに……」
「うわあ、タンマ、タンマ。その剣の力はもう、2度と使っちゃダメだよ!」
顔を真っ赤にしたスプラが、慌てて止める。
「イカと思うておったが、まるでタコじゃな。コヤツの臓物は、さぞ珍味であったじゃろう?」
「ひ、人の内臓を、珍味言うなァ!!」
「2人とも、ケンカなんてしてる場合じゃない。前に、巨大な渦巻きが!?」
「うわあッ!?」
「の、飲まれるのじゃ!?」
渦を巻いた巨大な海水の柱が、辺りの壁や床ごと3人を薙ぎ払った。
凄まじい海流の中を何度も巡回した後、舞人たちは外へと弾き飛ばされる。
そこは、バルガ王子たちが大魔王と死闘を繰り広げた、中央の吹き抜けホールだった。
「クッ、緑触槍『アス・ワン』!」
スプラが、その象徴たる槍の触手を伸ばして、空中に投げ出された舞人をキャッチする。
「なんじゃ、ご主人サマだけ助けおって!」
「キミは飛べるから、イイじゃないか。現に、そうしてるし」
ルーシェリアは、背中にコウモリの翼を生やし宙を飛んでいた。
「アリガト、スプラ。助かったよ」
「エヘヘ、どういたしまして」
「ムウ、悠長なコトは言ってられんぞ、ご主人サマよ。見るのじゃ!」
頬を膨らませたルーシェリアが、ホールの向こうを指さす。
「こ、これは……大魔王がやったのか!?」
ホールから、壁や床が何十階層に渡ってえぐり取られ、それがはるか先まで続いていた。
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