噴出する問題
地下鉄の改札を抜けたボクたちは、騒ぎになる前に足速に、天空教室のある超高層マンションへの連絡通路に駆け込む。
「外に出れば、デザインされた高層マンションが、整然と立ち並んでいるのだがな。そんな景色も、もう何日もお目にかかっていないくらいに、有名になってしまうとはな」
「先生なんて、まだマシな方だよ」
「大して変装もしてないのに、人が寄って来ないんだからさ」
淡い茶色の髪に櫛(くし)を入れながら、愚痴を言う双子姉妹。
「ユミアとおかしなウワサを立てられたときは、酷かったんだがな。世間の注目は、お前たちに移っているから、助かっているとは言えば助かってるよ」
ボクが返事を返す間には、元の星色の金髪へと戻っていた。
「ところで、カトル、ルクス。お前たちもアイドルになるって、本気なのか?」
地下鉄の中吊り広告の内容を、2人に直接確認する。
「そうだよ。レアラとピオラは、わたしの命の恩人なんだし」
「デビューライブで、サラマン・ドールの相手役を演じて以来、まあまあ注目されちゃってるんだよね」
「そうじゃなくて、お前たち自身の意志はどうなんだ。周りがどうのとかでは無く、自分の意志としてアイドルを目指したいのか?」
「ウン。今は目指したいと、思ってる」
「最初はムリやり、レアラとピオラが練習相手に呼ばれてたケドさ。ホントに舞台に立てて、オリジナルの曲まで出せて……アイドルって、面白いんだ」
「そうか……」
双子の青く澄んだ瞳に、偽りの無さを感じるボク。
「了解した。教師としては、勉強に専念して欲しいのが本音だが、生徒の自主性を尊重するのも先生の役割りだしな」
「モ、モチロン、勉強だってちゃんとやるよ!」
「アイドルも全力で、勉強だって全力なんだから!」
病を克服した双子姉妹は、力強く言った。
「その言葉……有言実行させて貰うわよ」
「このエレベーターを降りたら、みっちりと勉強の時間が待っているのよ」
サラマン・ドールのレアラとピオラも、すでに完成度の高い変装を解いている。
「グハッ、し、心臓が……」
「カトル、貴女の心臓はもう、正常に機能しているわ」
「ホラ、最上階に到着したわ。さっさと、天空教室に行くわよ」
「ひ~ん、引っ張らないでよォ!」
エレベーターの扉が開くと同時に、金髪の双子は世界で最高峰の頭脳たちに引っ張られて行った。
「アイツらも、先生を買って出てくれたんだよな」
軽く頬を叩いたボクは、4人の後を追って天空教室へと向かう。
豪華な高層マンションの最上階を占有する部屋の扉を開けると、ユミアの怒り顔がボクを出迎えた。
「遅い、先生。どこほっつき歩いてたのよ!」
「ほっつき歩いてたって……自分の家に、帰っていただけなんだが?」
「その間にアイツに持ってかれて、ご覧の有り様よ!」
ユミアに先導されて天空教室へ入るが、内部はまだ閑散としている。
中に居たのは、プレー・ア・デスティニーの7人の少女たちと、レノンとアリスだけだった。
「今日はまだ、みんな起きてきていない……とかでは、無さそうだな」
ユミアが怒っている理由も、おおよそ見当が付くた。
「プレジデント・カルテットの4人は、午前中はセカンドシングルのレコーディングとかで、アイツにしょっ引かれて行ったわ」
アイツとは、聞くまでもなく久慈樹社長のコトだろう。
「アロアとメロエは、どうした?」
「なんでも、地上波のテレビ局との打ち合わせがあるとかで、今日は戻れるか解らないって言ってたのよ。来週はテストだってのに、アッタマ来るわ!」
「キアたち4姉妹の姿も、見かけないんだが?」
「ヨーロッパで開催されるロックフェスティバルに、急遽として出演が決まったのよ。どうせアイツが、裏で手を回したに違いないわ!」
「タリアと、レノンは?」
「昨日から、帰ってないのよ。クララはともかく、タリアはアイツとの噂も立っちゃってるから……」
「アイツって、襟田 凶輔(えりだ きょうすけ)のコトか?」
「そうよ。まったく、タリアまで居なくなるなんて」
地下鉄の中吊り広告で見た記事の内容が、そのまま現実の問題となって噴出していた。
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